鴨着く島

大隅の風土と歴史を紹介していきます

千本イチョウと観音渕

2023-12-14 17:36:49 | おおすみの風景

垂水市の西に高峠という標高800mくらいの峠があり、そこは春になるとツツジの名所として知られているが、この10年くらいは途中にある「千本イチョウ」の方が有名になっている。

11月の黄葉シーズンは約1か月続くが、観光客はひきも切らず、大型バスなども繰り出しているから駐車場の確保も大変なくらいだ。

12月3日で今シーズンは終わっているのだが、今日はむしろその後の「落葉シーン」を訪ねてみた。

我が家から垂水市街地へは約35キロ、市の中心部から右手(西)へ県道71号線で登っていくこと6キロ、道路の右側の谷に向かってイチョウが植えられている。

その数1200本というから紛れもなく「千本イチョウ」だ。

このイチョウ並木は中馬(ちゅうまん)さんという垂水出身で定年か定年近くになって郷里に帰ることになり、親からの遺産である山をイチョウの山にしようと、約40年かけてコツコツと夫婦二人で植えられたそうである。

その結果が広大なイチョウ園として今に至った。平成23年には鹿児島県の「景観大賞」に推挙され、一気に名前が知られることになった。

もうすっかり葉は落ちて、黄色の絨毯がどこまでも続く。

そこのお姉さんは銀杏を拾っているのだが、園の入り口に「銀杏は拾わないでください」と書いてあったと言うと、渋々立ち上がった。

その代わり園の入り口でパック入りの銀杏を買うことにした。

20分くらい滞在したあと、道はそのまま高峠まで行き、そこから降ること15分で鹿屋市のアジア太平洋交流センターという施設へ。さらにそこから5キロほど下った「観音渕」という洞穴に行ってみた。

志布志湾で太平洋にそそぐ大隅半島最長の串良川上流に位置しており、分厚く積もったシラス台地の縁辺に地下水が刻んだ洞穴が観音渕だ。

串良川のほとりに洞穴はあり、車を止めて行くとお爺さんが来ていて、洞窟内にたくさんある石造りの仏像に線香をあげているところだった。

こんにちは、と声をかけても一心不乱のようでチラッと顔を向けただけで、何十という数の石像に線香をあげて回っていた。

洞穴の奥は30メートルほどで行き止まりで、先日行った溝ノ口洞穴が200数十メートルあるのとは大きく違うのだが、突き当りの壁の下からは水が簾のように滴り落ちている。

したたる水は小流となり、洞穴を出て20メートル位から先は滝になっている。

観音渕という名の通り、数々の仏像が洞穴入り口と突き当りに安置されており、特に突き当りには6体の石像が並べられ、その手前には座る場所と木魚が置かれている。誰かがここに来てお経を唱えるのだろう。

国の天然記念物の「溝ノ口洞穴」と比べて入口の幅は10mほど狭いのだが、高さはほぼ同じくらいだ。

ただこの洞穴の成因は2万5千年前のシラス台地を穿ってできたものであり、溝ノ口のようにもっと古い火砕流の堆積による凝灰岩層がくりぬかれてできたのではない。この成因の違いが天然記念物かどうかの分かれ目となった。

だがこの観音渕の方が市街地に近く、洞穴の奥から湧き出る清冽な水の恵みが大きく、その水を求めて来る人が多い。まさに生きている記念物だ。私としてはこちらを推す。