黒い漆に金色の蝶が舞う万華鏡は井野文絵さんの作品です。蒔絵の技法で描かれた一対の蝶がとても美しく印象的です。井野文絵さんは和の万華鏡を中心テーマに、白い磁器の万華鏡や手描きの絵がユニークな陶器の作品など、身近に飾って楽しみ、手にとって覗きやすい小型で手持ち型の万華鏡を製作なさっています。
その一方で、漆工芸の万華鏡にも幅を広げ、時間をかけて、美しい日本の伝統工芸を生かした万華鏡も創っています。漆工芸というのは製作過程にとても時間がかかるそうですが、深みのある艶となめらかな質感、温かな感触には、独特の魅力と美しさがあります。
この作品は2ミラーシステム、ドライセルの作品です。先端部にあるオブジェクトセルの部分は木の枠が付いていて、そこを回して映像の変化を楽しみます。正面から光を取り込むタイプなので、光の強さや明るさで表情も変わってきます。小さなセルですが、多彩なガラスオブジェクトを使っていて、回すごとに新しい色模様が展開します。
万華鏡の中に咲く華を探す蝶でしょうか。よく見ると翅には貝殻で点の模様が埋め込まれ、控えめに虹色の光沢を見せています。
透き通って重なり合ったガラスの表情は蝶の翅を思い起こさせるようです。小さな筒の中に広がる世界は覗くたびに新しく、蝶の翅の震えにも似て、かすかな動きにも映像がゆれて、その雰囲気を伝えます。