万華鏡の楽しみ ガラス色の幸せ

万華鏡の魅力、ガラス色の幸せを伝えたいと思います

功労者たちの引き際  ナップ夫妻の場合

2019-08-23 15:18:24 | 万華鏡ブログ

ブリュースターカレイドスコープソサエティで多くの人に愛されてきたランディ&シェリー・ナップ夫妻が今年で万華鏡制作から引退することを発表したのは、6月のカレイドスコープ・エキスポの少し前のことでした。

1988年からナップ工房がスタートし、本当にたくさんの万華鏡を制作してきて、二人の技術とセンスが組み合わさった作品は品質も優れていて、私もたくさんの愛好家の方にご紹介してきました。 突然の引退表明にびっくりしたのは私だけではないはずです。 まだまだ元気で若々しいご夫妻ですので、なぜこのタイミングで???と思った人も多かったのですが、まだ元気なうちにチャレンジしたいことがあるから・・・というのが彼らの気持ちでした。

それは何と、スクールバスを改装して動く自宅とし、アメリカ中を廻るというびっくりするような、思い切った計画なのです。 オレゴン州の自宅も工房も工具も機械もすべて手放して、思い描く未来なのだそうです。現在バスを改装中(School Bus Conversion)ということで、YouTubeでその様子を逐一発信していますが、相変わらずのエネルギーとバイタリティーに驚かされます。Knapp Time で検索できると思います。

上の写真は Evolver パーラータイプ。 落ち着きのあるデザインで木目の美しい作品です。Evolveには発展させる、展開する、進化させるという意味がありますが、Evolverという言葉はたぶん彼らの造語です。タイトルにしばしば造語を使うので、ご紹介する際に苦労したこともよくあったなあと思い出します。
シェリーさんのオブジェクトもますます「進化」して思いがけない美しい映像デザインを展開させます。

今までの記録をたどりながら、彼らの今後の”至福の旅路”を願って、ご紹介するのが 「Blissful Journey」です。
木の塊をくりぬいて、筒にしているナンバー付きのシリーズのひとつです。
先端部のアクリル製セルの加工も凝っています。アクリルセルのデザイン、制作方法の確立など、ランディさんが研究を重ねてきたものです。

彼らのミラーシステムは2ミラーで5ポイント、6ポイントが圧倒的に多いです。そして逆テイパードという先端に向かって広くなるミラーシステムを採用することで、覗いた先の中心部がずれない大きな映像を見せています。 そして基本的に黒い背景、横から光を取り入れるオイルセルの作品を創ってきました。ジュエルイメージはピンクやブルー、パープルなどを使い、ブライトイメージはグリーン、イエロー、レッド、オレンジなどを多用して、雰囲気の違う2つの映像タイプを用意していました。

彼らの”希望”に満ちた未来を願って、今度は「HOPE」という作品です。このシリーズは、彼らにしては珍しく、透明なセルでたくさんの光を取り込みます。オブジェクトセルの回転の向きが普通とは異なっています。

ランディーさんが日本に興味を持っていたこともあり、「Tanoshii」というタイトルの万華鏡があります。いつも明るくて楽しそうなご夫妻ですので、ご紹介したくなりました。 これも様々な木をくり抜いた筒のシリーズです。ナンバー付きで限定版シリーズです。滑らかな木肌、滑らかなオブジェクトセルの回転、回転させる部分の切込み模様はその回転を助けるためのもの。心地よく覗くための工夫がなされています。

そして複雑で、きれいな映像が次から次へと生まれては消え、また生まれていきます。ガラスオブジェクトがオイルの中を流れながら、互いに影響しあいつつ、豊かな色合いや優雅な形を生み出していくのです。ヴィヴィッドな色合いに透明感やキラキラ感を加えて、まさに「楽しい」万華鏡ですね。

かなり前の作品ですが、「Integration」シリーズの作品です。 これが印象に残っているのは、虹色のオーラを持つ映像に心惹かれたからです。「マジック・マンダラ」というシリーズでも再びこのような映像を見せています。プリズム効果のあるフィルムによって、ミラー映像の上に虹色の光が交差するのが特徴です。 虹を見たときの嬉しさと万華鏡の楽しさを組み合わせた作品で、覗くと素敵な色の世界へと導いてくれます。

 木材の美しさを追求したランディーさん、美しい色合いを求めてガラスオブジェクトの制作にエネルギーを注いだシェリーさん、基本的なスタイルを守りつつ、楽しみやすく、覗きやすい万華鏡のための工夫を凝らして、私たちを魅了し続けた万華鏡作家さんは、いよいよレジェンドになっていくのですね。彼らのこれからの旅が「至福の旅」Blissful Journeyとなりますように。

 

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功労者たちの引き際 キャロリン・ベネットさんの場合

2019-08-11 10:25:44 | 万華鏡ブログ

この写真の万華鏡は、一つの時代の区切りを示すものです。 作者はキャロリン・ベネットさん。ここ数年彼女が力を入れているビーズチェインアートで、手元にあった以前の万華鏡を飾った記念すべき作品です。 彼女は、6月に開催されたBKSのカレイドスコープ・エキスポで、C.Bennett Scopes の事業から退いて、人生の次のステップへ進むことを発表しました。
誰もが気楽に楽しめるプロダクションタイプの万華鏡を多数作ってきたベネットさんの功績は、独自の道であり、ビジネスモデルの一つとして、万華鏡界を開拓してきたといっても過言ではないでしょう。

キャロリン・ベネットさんはニューヨーク州北部で生まれ育ち、ニューヨーク大学でアートを学び、、ニューヨーク州立大学で美術史、美術教育の学位を取りました。キャロリンが万華鏡に出会ってその面白さを知ったのは9歳の頃、古い百科事典にあった作り方を見て自分で作ってみた時でした。1973年、高校の美術教師として教えていたときに、再び、万華鏡を作り始め、趣味を超えた興味の対象になっていったのです。1978年教師を辞め、万華鏡作家として歩み始めました。自分の家の工房から始まり事業として拡大していったのです。ちょうど万華鏡作家がアメリカで生まれ始めた時期で、その活動がスミソニアンマガジンに特集され、コージー・べーカーさんがその記事を見て、彼女を訪ねて行ったのが、二人の出会いだったと聞いています。
次の写真はそのスミソニアン・マガジンに載っていた制作中の彼女の写真です。 (以前ベネットさんにいただいた記事から使わせていただきました。)

1970年代、彼女にとって万華鏡は新しいアートの形態であり、日々新しい展開を目指して研究、試作を重ね、外部のデザイン・内部の映像の両方に個性あるアート表現をめざしました。永遠に新しいものを生み出し続ける万華鏡映像に日々新たなインスピレーションを得てきました。彼女の作品は現代的な素材を使って、デザイン性を重視して生み出されたものばかり。その斬新なアイディアや現代的な万華鏡は数々の賞を受賞し、世界中の人に楽しまれてきたのです。

彼女は、一貫して万華鏡の面白さ、楽しさを伝えることを目指してきました。 子供向けの万華鏡の本は、私も以前、万華鏡を学ぶ際に大いに参考にさせていただいたほど、内容が濃く、わかりやすく、大切なことを伝えていると感じました。

手ごろな価格で子供たちに提供された、厚紙の筒のタイプも、品質にはこだわりつつ、楽しさと鮮やかな色合いを見せていました。

私が何度もご紹介してきた「リキッドサスペンション」シリーズは、アクリル製のプロダクションタイプながらたくさんの楽しみを提供してくれる優れた万華鏡です。スマートなフォーム、美しくしっかりとした加工、バラエティーに富んだデザイン、そして大きなリキッド入りセルは、そのまま見ても美しいカラフルなオブジェクトが筒のデザインに合わせて考えられています。3ミラーシステムで視野いっぱいに映像が広がります。 まだ日本に作家さんが少なかったころから、このシリーズは日本でも数多く販売されてきたと思います。そして、今でもその魅力は失われていません。

ベネットさんは写真家としても活躍し、BKSのコンベンションでも写真をたくさん撮ってくださいました。 昔からの貴重な作品の写真や昔の活動の記録なども万華鏡界にとって貴重な財産ですね。またコージー・ベーカーさんが亡くなった後は、BKSのリーダーのひとりとして、BKSを牽引してくれた功労者です。

C.Bennett Scopesのビジネスは、Cape Kaleidoscopes が引き継ぐこととなり、これからもプロダクションタイプは、制作されていくことが決まりました。
ベネットさんは引退ではなく、これからも一点ものの万華鏡を作ったり、写真やほかのアートにも関わってくとのこと。
長身なうえに姿勢がよく、いつもアクティブで、カラフルで目立っていたキャロリン、私たちをいつも元気づけてくれたキャロリン。 これからも彼女らしく、人生を楽しんでいくことでしょう。

 

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