早朝の船着き場では、北西の風がやや強めに吹いていた。
「凪かな。風が出てきたら、無理はしませんね」
お客様を乗せて、船を動かすのは、久し振りになる。
港を出ると、意外にも、風は穏やかだった。
しかし、予想していた通り、海上のウネリは、目線を越えるくらいに高かっ
た。
そのウネリを、一つ一つ乗り越えるようにして、ポイントに向けて船を走らせる。
ウネリの高さは「小さな山」を越えるような感じのウネリもあった。
しかも、潮の流れが2ノット前後の速さで、南に向けて流れている。
ベイト反応も、まずまずの出方をしている。
多いところでは、海底から30メートルくらいに、成っていた。
速い下り潮に、流されないようにジグの重さを調整する。
脇坂さんに、アタリが来た。
ゆっくりと慎重に、ラインを巻き上げていく。
「結構、走るな。ハガツオかな」
上がってきたのは、良型のハガツオ。
久し振りの出船に、久し振りの釣果。
海底付近を丁寧に探る、脇坂さんにアタリが続く。
カマスがヒットしてきた。
ドラグ音が鳴るような、強いアタリも来た。
「ラインが出る音は、良いね。何やろうかね」
やがて見えてきたのは、ブリだった。
73センチの、ハマチだった。
直ぐに内蔵を出して、夏の虫が魚体には入り込まないように、処理する。
ニベのアタリも、捕らえていた。
広峯さんにも、アタリが来た。
慎重に、ゆっくりと巻き上げていく。
上がってきたのは、良型の綺麗な真鯛。
神経締めも、上手くいった。
日高さんにも、アタリが来た。
新しい竿が、初おろしの日に、何かのアタリを捕らえた。
綺麗な真鯛が、ガッチリと針掛かりしていた。
しかし、午前10時過ぎに沖から、潮目が入ってきた。
潮目の筋には、色々な浮遊物が流れている。
破れた網、プラスチックゴミ、切れたロープ等々の浮遊物が、危険区域を形成している。
沖から入ってきた潮目は、上り潮の潮目だった。
潮目が入ってきた頃から、海の様子が変わってきた。
ジグに、何かが触るのだが、針掛かりしない。
日高さんのジグには、しっかりと噛み後が付いている。
沖目のポイントを探っていく。
たまに鯖がヒットしてくる。
レンコダイのアタリも来たが…。
全てのアタリが、単発で終わる。
昼前には、風が南東に変わって、再び、ウネリが高くなり始める。
朝間詰めが過ぎて、徐々にウネリが取れてきていたのだが、風が南東に変わってウネリが立ち始めた。
暑さもあって、「帰りましょうか」と、意見がまとまる。
海上に、「赤潮かな…」と、思われる筋がある。
船仲間でもある、信頼できる漁師さんから連絡が来た。
「今どこにいる」
「風が変わって、アタリも出ないので港に帰ってきた」
「潮が悪かったやろ」
「急にアタリが出なくなったな」
「沖合の水深300メートルアタリで、水温が29度有る。水深が100メートルアタリでも、28度はある」
「水温が高いね」
「海面に赤潮の筋が有ったよな」
「やっぱり、赤潮だったのか」
「水温が高すぎて、プランクトンが死んだのが、流れて居るみたいですよ」
船仲間の漁師さんの情報は、有り難い。
綺麗な上り潮だったが、その中身は、釣りの苦戦が必至の、高い水温の潮のようだった。