ジローのヨーロッパ考

デンマークやドイツの農家に長期(?)滞在、体験したり感じたことを綴ります。

デンマークでの農場体験(3) <牛追いのエピソード>

2014-02-07 18:18:37 | 日記
牧場の牛はジャージー牛です。私がデンマークに到着した4月下旬ではおよそ10頭ほどがいました。それから2~3週間後には20頭ほどに増やされました。理由は、ここの牧場で肥育された牛肉は「旨い」との評価が得られ、コペンハーゲンにある有力レストランと契約が成立したからです。

契約に先立って、そのレストランのシェフ達7人ほどがある日曜日に牧場にやってきました。舎飼ではなくより自然に近い状態での飼育環境等を実地に確認するためです。その日、ホストの一家は充実した一日になりました。夕食は彼等シェフ達が腕によりを掛けて料理を作ってくれました。食器類の片付けもプロ集団だけあって完璧でした。

と言うことで、子牛が増やされたと同時に、子牛に乳を与えるための牝の成牛が4頭ほど加えられたのです。子牛は全て去勢牛です。

こうして20頭ほどに増えた牛達を相手に、朝夕の給水作業はこれまで通り続けることになるのです。そして新しく牧場にやってきた牛、特に子牛は毎回給水にやってくるオジサン(私)を警戒しながらも好奇心で見ていることに気がつきました。

給水バケットに水を入れ終わり数m離れると、最初に成牛が、その後に子牛達が水を飲みに近寄ってくるのです。そして飲み終わるとその場を立ち去るのを惜しむかのように電柵の側に寄って来てこちらをジッと見るのです。ゆっくりと近づいて手をそっと伸ばすと最初匂いを嗅ぎ、そしてペロペロと手をなめるのです。

また、近くに生えている草を手にとって差し出してやると、成牛やその他の子牛たちも長い舌で巻き取るように食べてくれるのです。こうして、知らず知らずに信頼感が醸成されたようです。

牧草地は電柵で区画されており、3週間毎ぐらいにその牧草地を入れ替える作業があります。つまり、牛追いとでも言いましょうか。家族総出で牛達を別の区画に追って行くのです。

私がその牛追いを手伝い始めて2回目のことです。滞在期間としては1ヶ月半ぐらい経っていたでしょう。先頭を飼料入りのバケツをぶらさげた奥さんが歩きます。私は最後尾から追うつもりで牛達の後ろ側に廻ろうとして歩いて行くと、なんと、牝牛のボス的存在の1頭が私を見ながら私の方に向って歩いてくるのがわかりました。明らかに私を見て近寄ってくるのです。しかも、その後ろからは他の牛も10頭以上続いているのです。

私は直感しました。私についてくるつもりだなと。群れの後方に廻るのを中止し、即座に振り向き私は群れの先頭を歩いてみました。すると案の定、この14・15頭の群れは私の後ろをついてくるのでした。後方から追い立てる必要がありません。

それを見ていた子供達が言いました「牛達がジローの後ろをついて歩いている!」と。農家育ちではない私にとっては感動するシーンでした。数百mをそのまま歩き、別の区画に誘導することが出来ました。

以前、民俗学の本の中にあった記述を思い出しました。それは牛の売買をする博労の話です。世話した牛は2~3年経った後でも、その博労を見かけると「モ~」と鳴くそうです。牛は世話をしてくれた人の顔を覚えているのだなと実感した次第です。 ~続く~

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