パオと高床

あこがれの移動と定住

マイケル・グレゴリオ『純粋理性批判殺人事件』羽田詩津子訳(角川文庫)

2006-09-09 07:22:16 | 海外・小説
19世紀初頭のケーニヒスベルクで起こる連続殺人事件の謎を解く本格推理小説だ。謎に挑むのは心に闇を持つ若き判事。そして、哲学者カントだ。
ケーニヒスベルクというのは今のカリーニングラードで、旧ソ連の領地だったものがリトアニア独立でロシアの飛び地になっている。現在もかなり課題の多い場所らしい。この物語の時はプロイセン王国の誕生の地である。バルト海に面した貿易都市で、その冬の風景が当時の都市の風景と同時にかなり沈鬱に描写されている。
時代はナポレオン侵攻を怖れている時代。捜査自体がまだ科学的手法を取り入れてない状態となっている。そこにカントが科学的捜査の手法を示唆、実践していくという推理小説の骨組みが築かれる。時代設定がホームズやデュパン以前なのである。作者はその時代をフルに活用していく。また、カントの哲学的思考を歴史の流れの中に配置してフィクションを創り上げている。理性と闇や悪魔的なものと科学性などが混在しながら、冬の霧の寒い要塞都市が全体を染め上げていく。なかなかの一冊だったと思う。楽しめた。
笠井潔の『群衆の悪魔』が19世紀パリの都市風景や牢獄を描いていたが、それを思い出した。個人的な趣味からいけば、もう少し哲学臭が強くてもいいと思ったりもした。


コメント
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