おはようございます。新宿区で研修&カウンセリングの事業を営む ヒューマン・ギルド の岩井俊憲です。
昨日(8月22日)は、夏休みが明けての久しぶりの出勤。
会社でもたくさんの仕事が待っていました。
さて、私が『アドラー心理学によるカウンセリング・マインドの育て方』(コスモス・ライブラリー)のコラム欄に書いた話を掲載します。
赤いハンカチ
CS(顧客満足)がどうのこうの、というつもりはない。ただ、自分の名前が大切にされる、されないことに関して忘れられない思い出を伝えたい。
第一の思い出は、自分の名前が大切にされた、T銀行の大里さんの話だ。
大里さんは、とても熱心な人だった。それまでは自社の都合を優先するT銀行に対して、私はあまり好印象を持っていなかったのだが、大里さんは一味違っていて、とかく顧客の立場で発想してくれる人だった。
ある時、何かの契約で印鑑が必要になって、私が印鑑を大里さんに渡すと、大里さんは「お預かりします」といって印鑑をさも大事そうに赤いハンカチでふき取り、上下をしっかりと確認して捺印を終えると、またもや赤いハンカチで丁寧にぬぐって、「ありがとうございました」と私に返した。
私は大里さんの所作をじっと見ていて、印鑑を戻されてから、こう尋ねた。
「大里さん、その赤いハンカチはなんですか?」
普通、印鑑をふき取る場合、せいぜいテッシュペーパー、良くてもガーゼだからだ。
「このハンカチですか?このハンカチはお客様のためのものです。岩井社長、印鑑はお客様の分身ですよね。お客様の大切な分身をお預かりする際に、私はこのハンカチを使わせていただいております」
大里さんは事もなげに答えた。
「誰がこんなことを教えてくれたのですか?」
私はますます好奇心に駆られて聞いた。
「私の以前の上司です。その人は強制しませんでしたが、お客様の立場に立つことを身をもって教えてくれました」
大里さんの返答がごく自然であったためか、以来、私はますます大里さんのファンになってしまった。
以前はT銀行に対する印象があまりよくなかったのだが、大里さんが担当になってから好感に変わっていた。
私の分身である印鑑を大切にされたことで、なんだか私まで大切にされているように思った。
第二の思い出はその逆で、名前が大切にされなかった話である。
私がサラリーマンだったころ、上司のセールス・マネジャーのSさんと私とで、新規開拓のために出向いた某流通業のバイヤーとの折衝中の出来事だった。
かたどおりの名刺交換をすませ、私たちは、先方のバイヤーの名刺を名刺入れの上に置いているのに、先方のバイヤーはSさんの名刺をタテに持って、机をトントンと叩いたり、名刺を折り曲げたりしはじめた。
突然Sさんはいきり立って、
「その名刺、返してください」
と言って、自分の名刺を取り戻した。続いて、
「岩井君、帰ろう」
と私を促した。
私は、あっけにとられて立ち上がり辞去の挨拶もそこそこに外に出ると、Sさんはしばらく沈黙してからポツリといった。
「岩井君、すまなかったな。僕は我慢できなかったよ。大人げなかったかもしれないけど、自分の名刺がイタズラされているのを見たとき、僕は『コイツはダメだ』と思ったね。名刺をいい加減に扱うってことは、その当人のこともいい加減に扱うってことのように思えてね」
Sさんの態度がどうかということはいまでも疑問が残るが、Sさんの言った「名刺をいい加減に扱うってこと」云々は、大きな教訓として残っている。
ある見方では、印鑑も名刺も単なるモノでしかないかもしれない。しかし、別な考え方をすれば、印鑑も名刺もモノを超えて分身だと扱われたほうが、扱う人から敬意が伝わってくる。扱い方によって、その人の人間性まで伝わってくる。
◎今日は、都下のある自治体で「意志決定研修」を担当してきます。
ヒューマン・ギルドでは、法人向けに積極的に研修を行っています。
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