おはようございます。ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。
またしてもウルフの『どうすれば幸福になれるか』からです。
ウルフは、メタファー(たとえ)を使う名人であるだけでなく、寓話も実に巧妙に使います。
その中の最高傑作が「共感のテクニック」と題した次の寓話です。そのまま引用してみましょう。
ロシアのある小さな町の自慢は、たった1匹のロバだった。そのロバがどういうわけか突然いなくなってしまったので、町中が大騒ぎになった。
町の長老たちの秘密の会議が招集され、3日3晩、長老たちはその席でロバがいなくなった理論上の動機と原因は何か、どうすればロバを見つけられるかをまじめくさって話し合った。
重々しい空気の会議の最中、誰かがドアをノックする音が聞こえた。
町の愚か者が入ってきて、迷子になったロバを見つけたというのである。長老たちが集まって知恵を絞ってもだめだったのに、どうやってロバを見つけることができたのか、と愚か者に尋ねると、彼は答えた。
「ロバがいなくなったと聞いて、私はロバの小屋に行き、ロバと同じように壁に向かって立ってみました。そしてロバになったつもりで、私だったら小屋を抜け出してどこへ行くだろうか、考えてみたのです。それからその場所に行き、ロバを見つけました」
私は、この寓話を『アドラー心理学によるカウンセリング・マインドの育て方』(コスモス・ライブラリー、写真)で「愚か者と長老たちとの共感能力の違い」として次のようにまとめました(表)。
普段の対人関係だけでなく、「ここ一番」という場面でも、現場・現実感覚を持った共感の勝利をうたったウルフ。
彼から学べることは無限です。