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東京オリンピック IBC MPC 東京ビックサイト 国際放送センター メディアセンター 混迷! 見本市中止問題

2021年05月28日 14時32分07秒 | 国際放送センター(IBC)
迷走 東京五輪大会のメディア施設
IBC/MPC




朝日新聞社説批判 「中止の決断を」に反論する 五輪は開催すべき


朝日新聞社説 2021年5月26日

朝日新聞は東京五輪の「オフイシャルパートナー」を返上せよ

「五輪開催」すべき 盲目的に「中止」唱えるメディアのお粗末 根拠なし パンデミック・リスク 
開催実現で「Withコロナの時代のニューノルマル」をレガシーに


東京オリンピック 渡航中止勧告 開催に影響なし 過剰反応 メディア批判

深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長 東京五輪開催、G7全首脳が「力強い支持」




『見本市 中止問題』の解決を訴える全面意見広告掲載
 「私たちは東京オリンピックによる『見本市 中止問題』の解決を要望します」
 展示会や見本市を開催する団体の日本展示協会が中心となって日本経済新聞(2018年9月26日付朝刊)に全面意見広告を掲載した。
 2020年東京五輪大会開催に伴い、東京ビックサイトは最大20カ月間に渡り、国際放送センター(IBC)とメインプレスセンター(MPC)に使用されるため、約232の展示会や見本市が中止になり、中小企業をはじめ、7万8千社の出展企業が影響を受け、約2兆円の売り上げが失われるとしている。
 日本展示協会などでは、「私たちは五輪の成功を願うと同時に、全見本市が例年と同規模で開催できるよう、東京都をはじめオリンピック員会、日本政府など、すべての関係者に強く要望します」と主張している。
 東京ビックサイトは、日本で最大の展示会や見本市会場で、毎年約300のイベントが開催され、その経済効果は年間2兆円にも上るとされている。
 開催される見本市は、「東京モーターショー」や「コミックマーケット」をはじめ、「工作機械見本市」、「日本ものづくり展」、「国際ロボット展」、「Japan IT Week」、「国際宝飾展」、「おもちゃショー」など様々な業種の展示会や見本市が開催されている。
 出展社は年間約13万社、来場者は年間1469万人に及ぶ。その内、海外からの出展社は約3万社、参加者は20万人といわれている。
 日本展示協会などでは、見本市や展示会は企業にとって、築地市場と同じ「市場」であり、その規模は、築地市場の何倍も大きく、国際的な取引が行われることで日本経済への貢献度ははるかに大きいとし、東京ビックサイトが使用できなくなるのであれば、築地市場の代替施設として豊洲市場を整備したように、東京ビックサイトと同規模の代替施設が用意されるべきだとしている。


2017年6月22日 東京都都庁前で行われた展示産業関係者のデモ 出典 日展協

2020年、コミケは開催可能に 東京都、「見本市中止問題」で緩和策
 2018年9月26日の日展協意見広告掲載の2日後、9 月28 日、東京都は利用制限について、更なる緩和内容を発表した。
 ① 「西展示棟」と「南展示棟」が、2020 年5 月1 日~5 日の5 日間、使用可能
 ② 「青海展示棟」(仮設展示場)が、2020 年7 月1 日~14 日(14 日間)と9 月10 日~30 日(21 日間)、使用可能。

 さらに翌日の9 月29 日、小池都知事は定例記者会見で、前日の東京都が発表した緩和策を記者団に説明した。
 小池都知事は、「東京ビッグサイトが2020 年五輪の際、メディアセンター(放送施設)になる。その間、東京ビッグサイトのかなりの部分が占有され、展示会等が開催できないことに対し、『何とかならないか』と要望をいただいてきた。特にコミケ(コミックマーケット)と言われるコミック関係のイベントは、いつも大変な賑わいとなっている。2020 年はコミケを開けないんじゃないかと心配する声が寄せられたが、西の展示棟を調整し、5 月1 日から5 日までコミケ関連で使えるようにすることで関係者と調整して開催中だ」とした。「青海展示棟(仮設展示場)」も、7 月1 日から14 日までの14 日間、それから9 月10 日から30 日までの21 日間、合計35 日間、利用可能にした。様々工夫をしながら展示会等のイベントにも会場を提供する」と述べた。
 小池都知事が公式の場で、「見本市中止問題」について言及したのは初めてのことで、一歩、前進と評価もできるかもしれない。
 しかし、「見本市中止問題」は、コミケ(コミックマーケット)の開催を解決させば終わりではない。 年間約300回も開催される見本市・展示会全体に影響がでることが問題なのである。
 今回の緩和策で、合わせて1カ月程度の展示場の使用が可能になったが、東京ビックサイトが最大約20カ月、使用中止に追い込まれる現状の計画の中では、焼石に水だろう。しかも、最も重要な2020東京大会開催中やその前後の期間は、閉鎖されてまったく利用できないのである。
 「見本市中止問題」の抜本的な解決策とはほど遠く、問題は今後も尾を引くのは確実だ。


「見本市中止問題」で緩和策を公表する小池都知事 2017年9月29日   出展 日本展示協会

「MICE」を五輪開催のレガシーに
 東京オリンピックは、単にスポーツ・イベントをするのではなく、日本を世界に発信する格好の機会と捉えるべきである。「3兆円」超の開催経費が投入される国をあげての巨大イベントなのである。世界から日本が注目される五輪開催期間は、日本が誇る最先端技術、高度な加工技術を始め、コミュケや映像、音楽などの日本文化、伝統工芸などを発信するチャンスである。見本市や展示会、関連イベントは極めて重要なツールである。

 世界の主要都市は、都市の競争力、そして国の競争力向上につなげる成長戦略として「MICE」を重視している。
  「MICE」とは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字をとったもので、海外からのインバウンドで活性化しようとするものである。
 ロンドン、パリ、フランクフルト、ラスベガス、マイアミなどの欧米主要都市やシンガポール、香港、上海などのアジア主要都市はいずれもMICE戦略に力を入れている。とりわけ東京都にとっては都市の次の時代を見据えた成長戦略としてMICE戦略への取り組みは必須だ。
 これに対して、東京は大型の展示場やコンベンション施設が不足して、すでに飽和状態、海外諸国に比べて遅れをとっていると指摘されている。 
 五輪開催と有機的に結び付けて、首都圏に大型の展示ホール、国際会議場、国際ホテルなどを備えた統合型のコンベンション施設の整備に取り組むべきだろう。 東京都にとっては都市の次の時代を見据えた成長戦略としてMICE戦略への取り組みは必須だ。

 日本は、確実に少子高齢化社会に突入する。東京五輪の開催を、50年後100年後の日本を見据えた成長戦略を構築する上で、“絶好の機会”とする視点が欲しい。道路・鉄道建設や競技場整備などの“箱もの”主義の発想では、次世代の展望はまったく描けない。
 1964年の東京五輪大会の“レガシー(未来への遺産)”は、東海道新幹線、首都高速道路、地下鉄日比谷線、そしてカラーテレビだとされている。
 東海道新幹線は、いうまでもなく、日本列島の大動脈となり、日本の高度成長の牽引車となった。
 カラーテレビ”は、その後のHD、4K、8Kの開発で世界の主導権を握り、放送・エレクトロニクス産業の分野で、日本が世界のトップを疾走するきっかけとなった。
 2020年東京五輪大会の“レガシー(未来への遺産)”として、一体、何を残そうとしているのだろうか。





Japan exhibitors fear $12 billion hit from media center plan (Thu Jan 26, 2017 Reuters)
2020東京五輪大会 IBCとMPC 設営場所と閉会後の再活用策
平昌五輪のメディア拠点 国際放送センター(IBC)
ロンドン五輪 リオ五輪 北京五輪 オリンピックのメディア拠点 IBC/MPC
五輪のメディア施設(IBC/MPC)はこうして整備される ~ロンドン五輪・その機能・システムの概要~
周到に準備されたロンドン五輪レガシー戦略 東京五輪への教訓





東京ビックサイトに設置されるIBC/MPC
   東京オリンピックの世界の報道機関の拠点、国際放送センター(IBC International Broadcasting Center)とメインプレスセンター(MPC Main Press Center)は東京ビッグサイト(江東区有明地区 東京湾ベイエリア)に設置される。
 国際放送センター(IBC / International Broadcasting Center)は、世界各国。の放送機関等のオペレーションの拠点となる施設である。IBCの設営・運営は、五輪大会のホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)であるOBS(Olympic Broadcasting Services )が行う。
IBCには、国際映像・音声信号のコントロール(Contribution)、分配(Distribution)、伝送(Transmission)、ストレージ(VTR Logging)など行うシステムが設置されるエリアや各放送機関等がサテライト・スタジオや放送機材、ワーキング・ブースなどを設置する放送機関エリアなどが整備される。
 メインプレスセンター(MPC / Main Press Center)は、新聞、通信社、雑誌等の取材、編集拠点である。共用プレス席、専用ワーキングスペース、フォト・ワーキングルーム、会見室・ブリーフィングルームなどが準備される。
IBCとMPCには、約2万人のジャーナリストやカメラマン、放送関係者などのメディア関係者が参加する。
 オリンピックの施設の中で、最も広大な施設は、開会式、閉会式が行われるオリンピック・スタジアムである。次に巨大な施設は、競技場ではなく、IBC/MPCと呼ばれるこのメディア関連施設だ。約10万平方メートルの広さの広大な建物が整備される。
オリンピックを支えるメディアの果たす役割は極めて大きい。国際オリンピック委員会(IOC)は、メディア戦略を重要な柱として位置付けている。とりわけ競技中継を世界各国で行う放送メディアは、オリンピックの存立基盤を握るとまで言われている。そのメディア戦略を担うのがIBC/MPCなのである。


国際放送センター・メインプレスセンター 出典 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会


2012年ロンドン五輪IBC CDT(Contribution, Distribution and Transmission Centre) 出典 L.A. INSTALLATIONS


日本で最大の見本市会場 東京ビックサイト 五輪に備えて拡充
 東京ビックサイトは、江東区有明地区の東京湾ベイエリアにある国際展示場で、敷地面積24万平方メートル、延べ床面積23万平方メートル、「会議棟」、「西展示棟」、「東展示棟」、「南展示棟」からなる日本で最大の国際展示場である。
 展示会や見本市会場で、年間約304件(2016年)のイベントが開催され、1469万人(2016年)の参加者が訪れ、その経済効果は数兆円にも上るとされている。

 東京都では2020東京大会のIBC/MPCを設置するために、東京ビックサイトを拡張・整備し、西展示棟の南側には新たに、敷地面積約3平方メートルに、延床面積約6万8500平方メートル、展示場面積2万平方メートルの地上5階建ての「南展示棟」を、約228億円の整備費で建設し、2019年7月開業に開業した。広さ約2万平方メートルの展示ホール(5000平方メートル×4ホール)や会議施設、立体駐車場(約350台)、事務所などが設けられる。
 また東展示棟臨時駐車場に、総工費約100億円で、総床面積約2万平方メートル、展示面積約1万6000平方メートルの「東新展示棟」(仮設)を建設した。
 さらに、東京ビックサイトが国際放送センター(IBC)の整備で閉鎖される期間の緩和策として、りんかい線東京テレポート駅に隣接した広さ約2万3000平方メートルの「青海展示棟」(仮設)も建設し、2019年4月に開業させた。「青海展示棟」は大会開催後は取り壊される予定である。
 この拡充工事で、東京ビックサイトは、本館の「会議棟」、「西展示棟」、「東展示棟」、「東新展示棟」、「南展示棟」、青海地区の「青海展示棟」の6つの展示棟、合わせて約14万平方メートルの展示会場を運営するまさに日本を代表する見本市会場となった。
 しかし、そのほとんどが肝心の五輪開催直前や開催期間中には使用できないという深刻な問題を抱えていることには変わりない。


出典 東京ビックサイト
 
迷走 東京ビックサイトの整備計画 当初は競技会場でも利用
 2020東京五輪大会の立候補ファイルの当初計画では、東京ビックサイトは、競技会場としても利用することになっており、「東展示棟」の約半分の3ホール、合わせて約2万6000平方メートルは、レスリングやフェンシング、テコンドーの競技場として利用する予定だった。
 国際放送センター(IBC)は「東展示棟」の残りの3ホール(約2万6000平方メートル)と「西展示場」(4ホール 約2万9000平方メートル)、それに「東展示棟」脇に新設する「東新展示場」(約1万6000平方メートル)を利用して、施設整備をする計画だった。
 MPCは、新設する「南展示棟」に設置する予定で、高速・大容量の光ファイバーや高密度WiFiを整備して、1階、2階にはプレス・ワーキング・エリア、3階には約1000席の会見室などを、約3万㎡のスペースを使用して設ける。東京都は総工費約228億円を投入して、「南展示棟」を「西展示場」の駐車場スペースに建設する。
 また「西展示場」には、IBC/MPC共通施設として共用サービスエリアが設けられ、インフォメーションデスク、ツーリスト・サービス、ショッピング・アーケード、コンビニ、カフェ、銀行、郵便局等が設置され、メディアに対して24時間体制で幅広サービスを提供する計画だ。IBC/MPCの事務局スペースも「西展示場」に設けられる。

 しかしその後、IBCの設営・運営の責任を持つOBS(Olympic Broadcasting Service)から、当初計画のIBCのスペースでは手狭だとの指摘を受けたため、大会組織委は東京ビックサイトに整備予定のレスリングやフェンシング、テコンドーの競技場を幕張メッセ(千葉市)に移し、「東展示場」の6ホール、約5万2000平方メートルはすべてIBCで使用することに変更した。
 IBC設置計画の変更に伴い、「西展示場」に設置予定のIBCスペースが空き、新設の「南展示場」に設置される予定のMPCが、「西展示場」に設置されることになった。
 IBC/MPC共通施設の会見室は「会議棟」に移行させた。

 この結果、新設する「南展示棟」は大会開催時のメディア施設設置スペースから除外され、東京都は、「南展示場」の建設費、約228億円を五輪施設整備予算から削除し、五輪予算を圧縮したとした。しかし、建設されるには変わりがないので「見せかけ」の五輪予算圧縮である。
 東京都では、「南展示棟」を2019年6月に前倒して完成させ、IBC/MPC施設整備工事開始に伴って閉鎖されるまでの2020年3月までの9か月は、展示場スペースとして利用可能にすることで、展示関連企業に配慮をした。
 こうして約228億円かけて新設される「南展示場」は、2020年東京大会のメディア施設としては使用しないことが決まったが、一体、なんのために「南展示棟」建設したのかという疑問が生じる。東京都では、五輪終了後は「南展示場」は国際会議や展示場施設として使用するので、東京ビックサイトの展示場機能の拡充につながる必要な投資だとしている。しかし、最も肝要な東京大会開催期間中は、空いている「南展示場」はセキュリティ上の理由で閉鎖されるので、展示会などイベント開催はまったく利用できない。なんともちぐはぐな対応である。


東京ビックサイトに建設される「南展示棟(増築棟)」の完成予想図 出典 実施段階環境影響評価書案


東京ビックサイトに建設される「南展示棟(増築棟)」の配置図 出典 実施段階環境影響評価書案

 一方、東京ビックサイトでは、東展示棟脇の臨時駐車場に、総工費約100億円で、総床面積約2万平方メートル、展示面積約1万6000平方メートルの「東新展示棟」(仮設)の建設した。「東新展示棟」は、メディア用施設が設置され、五輪開催中は、IBC/MPCのスペースとして占有される。
 「東新展示棟」の建設は、五輪開催後に予定している老朽化に伴う東京ビックサイト全体の大規模修繕で、展示会場の利用が大幅に制限されることが見込まれることなどから、展示会開催への影響を最小限に抑えるという狙いも込められていた。
 「東新展示棟」は2017年10月に完成し、2019年4月までのIBC設置の準備工事が始まるまでの期間は展示場として稼働させる。五輪大会期間中は展示場としては使用できないが、五輪終了後は、東京ビックサイト全体の老朽化改修工事伴う措置として、10年間程度展示場として使用して、その後は取り壊す計画である。


東新展示棟」完成予想図 出典 東京ビックサイト

 東京都では、東京ビックサイトが五輪大会のIBC/MPC施設が整備されることに伴い、長期間に渡って見本市会場として利用できなくなることで、展示会関連企業が被る影響を緩和させるために、りんかい線東京テレポートに隣接する都有地に、展示場面積約2万3000平方メートルの「青海展示棟」を建設することを決めた。
 「青海展示棟」は、展示場面積約1万3000平方メートルのホールを2つ備え、各種の見本市、展示会が開催できる。東京ビックサイトからは、約1キロメートルほど離れているが、参加者の便をはかるために、東京ビックサイトから無料シャトルバスが運行される。
 2019年4月に開業し、2020年11月に取り壊される仮設展示場である。
 但し、肝心の五輪大会開催中は、大会組織委員会が、五輪のスポンサー企業などのイベントスペース、「パートナーショーケーシングエリア」として利用することになっているので、一般の展示会・見本市は開催できない。
 展示会関連団体は、2020年11月以降の存続を求めてる。


青海展示棟 筆者撮影

猛反発した展示会関係者 東京ビッグサイトの利用計画公表
 2015年10月22日、東京都と東京ビックサイトは,、展示会主催者などを対象に説明会を開催し、東京オリンピックのメディア施設(IBC/IMC)の設置に伴い、2019年4月から2020年11月までの1年8か月の期間、ほとんどすべての展示場が閉鎖され、展示会場や見本市として使用することは不可能になることを明らかにした。当初予定より更に長期期間、“閉鎖”される懸念が現実化した。
 また既設の「西展示棟」と新設する「拡張棟」は、2020年4月~10月の7か月間が使用不可能になるとし、さらに「西展示棟」は「南展示棟(拡張棟)」の工事に伴い、2017年4月~2018年3月の一年間、使用不可となることも明らかにした。
 これに対し、展示会の主催団体、「日本展示会協会」は、「2020年東京オリンピックのメディア施設に、東京ビックサイトが20か月間使用されため、ほぼ展示会が中止になると懸念されている。展示会は出展者、特に中小企業にとって不可欠な営業の場、倒産などの大きな社会問題となる前に解決策を提案する」として、メディア施設を東京ビックサイトの隣接地に新たに建設するという提案を含めた要望書を、11月17日に東京オリンピック・パラリンピック担当大臣に提出した。


東京都オリンピック・パラリンピック準備局
日本展示協会資料


日本展示協会資料

 2015年11月17日、舛添知事は記者会見で、レスリングやフェンシング、テコンドーの競技場が幕張メッセに移されたことで、IBC/MPCの配置計画を見直して、IBCの設置は東展示場のみとし、MPCは西展示場に設置し、新設する「南展示場(増築棟)」は、MPCでは使用しないという方針を明らかにした。展示場開催への影響を少しでもに抑える措置と思われる。
 しかし、まったく論外の対応である。最も肝心の2020年4月から10月までの五輪開催期間は、セキュリティ上の理由で、一般参加者が出入りができず、新設する「南展示場(増築棟)」は、展示会では使用できないのである。
 当初計画ではMPCとして使用するために約228億円もかけて建設したのに、MPCとして使用しないのであればなんともムダな整備計画だろう。 一体、五輪開催期間中は、床面積6万8500平方メートル、5階建ての「拡張棟」を何に利用するのだろうか、未だに明らかにされていない。
 仮に228億円を使って、東京ビックサイトの敷地外に展示場スペースを整備したら、五輪期間中の展示場問題は避けられたであろう。
 もっとも「拡張棟」は、五輪後は展示場や会議スペースで利用できるのでまったくムダになることはないが、なんともちぐはぐな計画だ。
 IBC/MPC設置を巡る“混迷”が始まった。


東京都 修正利用計画公表
 2015年11月20日、日本展示協会の要請を受けて、東京都は都議会で、東京ビッグサイトの修正利用計画を明らかにした。
▼ 2020東京オリンピック・パラリンピックの国際放送センター(IBC)を「東展示棟」(5万1380平方メートル)と、2018年夏に完成予定の東展示棟の東側に建設される「東新展示棟」(1万6000平方メートル)に設置し、2019年4月から2020年11月まで使用する。
▼「西展示棟」(2万9280平方メートル)と「会議棟」は、2020年4月から10月までメディアプレスセンター(MPC)として使用する。
▼ 2019年12月完成予定で、西展示棟の南側に「南展示棟(拡張棟)」(2万平方メートル)を新設する。完成後、展示場として使用する。しかし、東京大会開催時にはMPCとしては使用しないことになり、東京都は建設費の228億円を五輪関連予算から除外した。しかし、2020年4月から10月まではMPCのセキュリティエリア内に入るため一般の利用客向けの展示場としての利用は不可。大会終了後は展示場として利用される。
 この結果、展示場として利用可能なスペースは、2019年4~12月は「西展示棟」(2万9280平方メートル 従来の約30%)のみで、2020年1~3月は「西展示棟」と「南展示棟」(合計4万9280平方メートル 従来の約42%)であるとした。2020年4月~10月の五輪準備・開催期間中はすべてが利用できないとした。
 ちなみに東京ビックサイトの現状の展示場面積は、拡張工事前では東展示棟と西展示棟は合わせて8万660平方メートル、「東新展示棟」と「南展示棟」の整備後は11万6660平方メートルとだされている。


日本展示協会資料

「仮設展示場」を新たに整備 変更案提示
 2016年2月23日に、東京は東京都議会で、「仮設展示場」(青海展示棟)を整備するなど変更案を明らかにした。
▼ 「南展示棟(増築棟)」の竣工時期を、2019年12月末から6月に6カ月間前倒し、6月末とする。
▼ りんかい線東京テレポート駅付近の都有地に「仮設展示場」(青海展示棟)(約2万4000平方メートル)を建設し、2019年4月から2020年3月までの1年間、開設する。その後は取り壊す予定。
 この変更案で、利用可能な展示場スペースは、2019年4~6月が5万3280平方メートル(66%)、2019年7月~2020年3月が7万3280平方メートル(90%)に増加し、2019年から2年連続で東京ビッグサイトがほとんど利用できないという状況は大幅に改善された。

 「青海展示棟(仮設展示棟)」が2020年4月以降は取り壊される理由は、セキュリティ上の理由や大会関係者の資材置き場や要員の待機場所、駐車場などのスペースとして組織委員会が確保するからだと推測されている。仮設展示場の建設費用は全額都が負担し、予算は具体的にどのようなに設備するか決定した上で算出するとして明らかにしていない。




東京都資料

 最大の問題点は、海外から東京が最も注目を浴びて、訪日客が多い、五輪直前や開催期間中に利用可能な展示場スペースがまったくないという点である。「仮設展示場」は最も肝心な五輪開催前に取り壊す計画だのだ。唖然である。
 2兆円から3兆円という巨額の開催経費を使って開催する東京五輪大会は、単にスポーツ・イベントとしてとらえるのではなく世界に向かって日本の先端技術や伝統文化を発信するショールームにすることが肝要だろう。そのためのツールとして展示会やエキジビションは重要だろう。

仮設展示場の開設期間延長へ
 東京都は、りんかい線東京テレポート駅付近の都有地に建設する「仮設展示場」(青海展示棟)(2万3千平方メートル これまでの2万4千平方メートルを変更)の開設期間を、これまでの2019年4月から2020年3月までの1年間から8か月延長して、2020年11月までとすると発表した。
 これで開催直前や直後の展示場スペース、2万3千平方メートルがようやく確保できることになったが、東京ビックサイトの展示場スペースのわずか約20%に過ぎない。
 しかし、五輪開催期間は五輪関連イベントで使用され、一般の展示会は開催できなことには変わりない。


日本展示協会資料

小池都知事に展示場問題について陳情
 2017年1月20日、日本展示協会は、小池都知事に、東京ビックサイトにメディア施設が設置されると、このままでは、約3万8千社の出展企業、特に中小企業が出展できなくなり、約1兆2千億円の売り上げを失うとし、「全ての展示会が例年通り同じ規模で開催できるようにして欲しい」と、問題の解決を求める署名8万通を渡した。
 解決策の提言として、東京ビックサイトと同規模程度の仮設展示場(約8万平方メートル)を首都圏に建設するというプランを明らかにした。
 築地市場跡や羽田空港近辺、横浜みなとみらいや幕張メッセなどに用地を確保できれば、100億円以下で、2年以内の建設することは可能で、展示会業界など国内外の様々な企業が資金を拠出することも可能だとした。
 また新たな提案として豊洲市場に五輪終了後まで、メディア施設として利用するというアイデアも明らかにした。
 高濃度汚染物質が検出され、築地市場を豊洲市場に移転するのが果たして適切なのかという議論も出ている中で、まったく現実味のないとは言えなくなったのではなかろうか。これだけ環境面で激しくイメージ・ダウンした豊洲市場が、“築地”のようなブランドイメージを獲得できるのだろうか? 敷地面積、ロケーションなどは抜群の条件で、コンベンション・センターやアミューズメント・センターへの転用もあながち悪いアイデアではない。


日本展示協会 記者会見 2017年1月26日


北京五輪、ロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪のIBC/MPCは新設
 2018北京五輪では、オ リンピック・パークが建設され、その中に 有名なオリンピック・スタジアム“鳥の巣” や水泳競技場、体操競技場、そしてIBC/ MPCを設営するために巨大なコンベンショ ン・センターを新たに建設した。本館は、総 床面積約22万平方メートル、長さ約400 メートルの巨大な建物で、この中にIBC/ MPCが設置された。 
五輪開催後は、 展示ホール、国際会議場、国際ホテルを備えた最新鋭の統合エキジビション施設「国家会議中心」(China National Convention Center)に生まれ変わり、北京の新たな拠点になっている。
 2012ロンドン五輪のIBC/MPCは、ロンドン東部に建設されたオリンピック・ パーク内に新築された。IBCの建物は 総床面積6万平方メートル、ジャンボジェッ ト機5機が格納可能な広さだ。さらにMPCやケータリング・ブリッジ(プレス用レストラン[仮設])など、合計約10万平方メートルのメディア施設が整備された。
大会終了後、IBCとMPCは改装され、ロンドン の最先端のデジタル・メディア拠点として 生まれ変わった。BTスポーツ(衛星 放送局)のスタジオや大学、研究・研修施 設、イノベーション・インキュベーション企 業支援エリアなどが設けられている。
 2016リオデジャネイロ五輪のIBC/ MPCも、オリンピック・パーク内に新設された。IBCが約8万5000平方メートル、 MPCが約2万7000平方メートルの建物である。
五輪開催後は、民間企 業が管理・運営を請け負い、展示ホール、 イベント会場などの商業施設として利用する計画だ。  
こうした事例でも明らかなように、IBC/MPCは五 輪後の展開も視野に入れた上で新たに建設して、五輪のレガシー(遺産)にしているのである。


(2012年ロンドン五輪の“Media Complex” ロンドン・オリンピック・パーク 出典 London Olympic OCOG)


London Olympic IBC/MPC 出典 London Olympic OCOG


Here East 後方に見えるのがオリンピック・スタジアム   Here Eastホームページ



 五輪開催に伴って、世界から日本や東京が注目を浴びる。日本の先端技術や伝統文化を発信するショールームにすることが恰好の機会で、大きな“ビジネスチャンス”でもある。その重要なツールとして、展示会、関連イベントは極めて重要だ。
 日本が誇る最先端技術、IoT、AI、自動走行自動車、ロボット、それを支える第五世代移動通信5G、そして超高精細映像技術4K8KやAR/VRは、次世代の日本の命運が委ねられているといっても過言ではない。
 また、コミケ、アニメ、ゲーム、音楽などの新たな日本文化を発信する絶好のチャンスでもある。
 五輪開催経費は総額では「約3兆円」超の巨額の費用が使われるのである。東京五輪を単に「スポーツの祭典」と見なして欲しくない。

 世界の主要都市は、都市の競争力、ひいては国の競争力向上につなげる成長戦略として「MICE」を重視している。
「MICE」とは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字をとったものである。
 しかし、東京は大型の展示場やコンベンション施設が不足して、すでに飽和状態、海外諸国に比べて遅れをとっていると指摘されている。五輪開催と有機的に結び付けて、首都圏に大型の展示ホール、国際会議場、国際ホテルなどを備えた統合型のコンベンション施設の整備に取り組むべきだろう。
 日本は、確実に少子高齢化社会に突入する。東京五輪の開催を、50年後100年後の日本を見据えた成長戦略を構築する上で、“絶好の機会”とする視点が欲しい。道路・鉄道建設や競技場整備などの“箱もの”主義の発想では、次世代の展望はまったく描けない。

 1964年の東京五輪大会の“レガシー(未来への遺産)”は、東海道新幹線、首都高速道路、地下鉄日比谷線、そしてカラーテレビだとされている。
 東海道新幹線は、いうまでもなく、日本列島の大動脈となり、日本の高度成長の牽引車となった。
 カラーテレビ”は、その後のHD、4K、8Kの開発で世界の主導権を握り、放送・エレクトロニクス産業の分野で、日本が世界のトップを疾走するきっかけとなった。
 2020年東京五輪大会の“レガシー(未来への遺産)”として、一体、何を残そうとしているのだろうか。








月刊ニューメディア 2016年1月号加筆
2018年12月1日 改訂

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******************************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
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新国立競技場 建設費 建設単価 坪単価 破格 高額

2021年05月28日 09時43分37秒 | 新国立競技場
破格に高額 新国立競技場「1550億円」


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新国立競技場竣工
 迷走に迷走を重ねた新国立競技場が、全体工期36か月を経て、計画通りに11月30日に予定通り竣工した。
 新国立競技場の整備経費については、1590億円を上限として、賃金や物価変動が発生した場合のスライド、消費税10%の反映、設計変更に伴う修正などを行う契約で工事が開始されたが、最終的に21億円下回る1569億円となった。
 厳しいとされていた36カ月の工期は悠々達成し、工費も上限を下回ることで、日本の建築技術の高さが実証されてといっても良い。
 計画段階の唖然とした迷走ぶりに比べて、一転して見事な施工管理で完了した。
 問題は、五輪大会開催後の後利用の計画が未だに示されていないことである。
 計画では、今年中に後利用の計画を策定して大会後の改修工事の方向を決めて、指定管理者の選定を開始する予定だった。
 新国立競技場の後利用については、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」を設立して、文部科学副大臣が座長となり、スポーツ庁、内閣官房、日本スポーツ振興センター(JSC)、東京都で議論を重ね、2017年11月に「基本的な考え方」を取りまとめ、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承された。
 これによると、陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修してサッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保する。観客席は6万8千席から国内最大規模の8万席に増設し、改修後の供用開始は2022年を目指すとした。
 しかし、陸上競技関係者などから、陸上トラックを残して、新国立競技場を「陸上競技の聖地」として存続するべきだという声が強く出され、陸上トラックは残して陸上と球技の兼用にする方向で調整も進んでいることが明らかになった。
 新国立競技場の後利用の方向性が再び混迷を始めている。
 こうした中で、11月19日、萩生田光一文部科学相は、新国立競技場の後利用について、民営化の計画策定時期を大会後の2020年秋以降に先送りし、その後に公募を行うと明らかにした。今年半ばごろに計画を固める予定はあっさり放棄した。
 先送りした理由については、大会の保安上の理由で現時点では詳細な図面を開示できず、運営権取得に関心を持つ民間事業者側から採算性などを判断できないとの声が上がったためだと説明した。
 また萩生田氏は、焦点となっている陸上トラックの存続可否については「民間の方の意見を聞いた上で最終方向は決めるが、基本的には球技専用スタジアムに改修する方向性で継続して検討を続けていきたいと思っている」と述べた。
 一方、橋本聖子五輪相は後利用について「トラックを残すべきだという意見もあるというのは承知している。新国立にふさわしい運営をしていただけるような検討をお願いしたい」と語った。(11月19日 共同通信)
 新国立競技場の改修後の供用開始、2022年は大幅に遅れることは必至である。その間も、新国立競技場は、年間24億円の維持管理費が必要となるとされている。当面、所有者の日本スポーツ振興センター(JSC)は赤字を背負うことになる。
 陸上トラックを存続して「陸上競技の聖地」として出発しても、陸上トラックを撤去くしてサッカーなどの球技専用のスタジアムになるにしても、6万人収容の巨大スタジアムを維持するのは至難の業である。フランチャイズチームがないスタジアムの経営はなりたたないというのが常識である。
 「木と緑のスタジアム」、新国立競技場は、五輪のレガシーどころか大会後は赤字を背負ってのスタートとなるのは避けられない。
 負の遺産になる懸念は拭えない。


提供 日本スポーツ振興センター(JSC) 2019年11月撮影


竣工した国立競技場 「杜のスタジアム」 提供 JSC


筆者撮影 2019年12月15日
日本の伝統建築の技法、「軒庇」を取り入れる。縦格子には全国47都道府県の木材を使用


筆者撮影 2019年12月15日


筆者撮影 2019年12月15日
国産木材を使用した巨大屋根 観客席を覆う


筆者撮影 2019年12月15日
南北の3層に設置された大型スクリーン 南/9.7m×32.3m 北9.7m×36.2m フルHD画質


筆者撮影 2019年12月15日
五色に塗り分けられた観客席 木漏れ日を表現 約6万席(五輪大会開催時)


筆者撮影 2019年12月15日
9レーンの最新鋭の「高速トラック」
 大会組織委員会はイタリアのモンド社とソールサプライヤー契約を結び、陸上競技トラックなどの陸上競技の備品の独占的供給を受ける契約を結んだ。モンド社は11大会連続で陸上競技トラックの公式サプライヤーとなった。トラックは二層の合成ゴム製で、表層はノンチップエンボス仕上げ、下層はハニカム構造のエアクッション層となっている。


提供 JSC
 芝生は鳥取県の天然の砂丘の砂地で生産された「北条砂丘芝」を採用。2019年7月、暖地型芝草(バミューダグラス系)の「ティフトン」を敷き詰めて、秋には冬芝の種をまいて冬期間の芝生の緑も保つ。

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 2015年8月、“迷走”を繰り返した新国立競技場の建設計画は、安倍首相の最終決断で、ザハ・ハディド案を白紙撤回して、総工費「2520億円」を約「1000億円」削減して、「1550億円」とすることでようやく終息した。
 当初案で試算された「3000億円超」と比べると約半分、「2520億円」からは「1000億円」削減したとし、新国立競技場の建設費の削減は大きな成果を上げたと関係者は胸をはる。この削減額を聞いて、「見直しで大きな成果を上げたのでは」と感じる人も多いと思うが、これは“大いなる誤解”だ。
 「1550億円」は、スタジアムの建設費として本当に妥当な水準なのろうか、疑念は深まるばかりだ。

海外の五輪スタジアム建設費比較 断トツに高額「1550億円」
 「1550億円」でも、これまでに海外で建設されたオリンピック・スタジアムの建設費に比べて群を抜いて高額の建設経費だ。
 2000シドニー五輪では、収容人数11万人という五輪史上最大のオリンピック・スタジアムを建設した。総工費は「483億円」(6億9000万豪ドル)で、蝶々が羽を広げたようなデザインで注目を浴びた。大会後は、収容人数8万3500席に減築され、陸上トラックを取り外して球技専用スタジアムとなった。オーストラリアで最も人気のあるスポーツ、ラグビーのナショナルラグビーリーグ(オーストラリアとニュージーランド)の本拠地となり、”ラグビーの聖地”に衣替えをした。
またラグビーリーグの2チームをはじめ、サッカー、フットボール、クリケットなど12のプロチームのホームスタジアムになっている。

 2008北京五輪では、中国が五輪開催で世界に威信を誇示するためにオリンピックスタジアム、「北京国家体育場」を建設した。全長36キロ・総重量4万5000トンの膨大な鋼鉄を組み込んだユニークなデザインを採用し、「鳥の巣」(Big Nest)と呼ばれて世界から注目された。収容人数9万1000人で、総工費は35億元(約518億円)。
 大会後は、収容人数8万に減築し、マラソン、サッカー、馬術などのスポーツ競技会や自動車ショーなどイベント、コンサートなどで利用されている。大会開催直後は年間8万人の観光客でにぎわったが、その後は来場者も消えて閑古鳥が鳴くようになった。年間維持費は約3億元(約30億円)とされ、収支は赤字と思われる。
 * 為替レート 元=14.81円(2008年平均)
 2018年は年間26件のイベントが開催された。ユニークなのは冬期間はスノーパークとなり、スノボー・ビックエアの競技会も開催されている。しかし、8万人収容のスタジアムは、どんなイベントを開催するにしても巨大過ぎて、敬遠されているという。
 ビックイベントでは、2015年世界陸上競技大会の会場となり、2022北京冬季五輪の開会式・閉会式も開催される予定である。


北京国家体育場 鳥の巣 出典 COCOG

 2012ロンドン五輪では、イギリスのロンドン東部、オリンピック・パークの一角に、収容人数8万人のスタジアムを、4億2900万ポンド(約733億円)で建設した。大会後は、観客席を約5万4000席に減築する一方で、「格納式」可動席や全座席を覆う屋根を増築するなど改修工事を行い、その改修費は3億2300万ポンド(約493億円)に上った。 陸上トラックは残し、夏季期間は陸上競技、サッカーシーズンはサッカー場として利用することで、英プレミアムリーグのウェストハム・ユナイテッドのホームスタジアムとなった。しかし改修費が余りにも巨額になったことで、世論から激しい批判を浴びた。
 スタジアムの整備費は、建設費の4億2900万ポンド(約733億円)に改修費は3億2300万ポンド(約493億円)を加えると、総額は7億5200万ポンドという巨額の経費に膨れ上がった。
 * 為替レート £=152.70円(2013年平均)
 こうした事態を受けて、ロンドン市長は、スタジアムの運営スキームの徹底調査を指示し、このままでは年間2000万ポンド(約29億5000万円)の赤字が予想され、投資額の回収は不可能になるとして計画の見直しを表明した。
 ロンドンスタジアムでは、2015年にはラグビーW杯が開催され、2017年には世界陸上大会を開催し、陸上競技場としても利用された。また2019年には米大リーグ、MLBのヤンキース対レッドソックス戦を開催し話題になった。


ロンドン五輪スタジアム 出典 LOCOG

 2016リオデジャネイロ五輪は、2度に渡ってサッカーW杯のブラジル大会の決勝戦が行われた“サッカーの聖地”、マラカナン・スタジアムを、13億レアル(約585億6000万円)かけて、収容人数約9万人のオリンピック・スタジアムに改修して、開会式、閉会式、サッカーと開催するオリンピック・スタジアムとして使用した。
 マラカナン・スタジアムの所有者はリオデジャネイロ州、州はスタジアムを管理する民間の会社を公募し、ブラジルの大手建設会社、オデブレヒト社が率いる「コンソルシオ・マラカナン 」が約1億8,000万レアル(約81億7000万円)で2013年5月より35年間の運営権を獲得した。
 リオデジャネイロ州は、リオ五輪開催を前提にして、2014FIFAワールドカップ開催に合わせて、約13億レアル(約585億6000万円)をかけて収容人数9万人のスタジアムに全面改修を行った。
 2016年3月からは、コンソルシオは、リオ五輪大会2016開催のためにコンソルシオは大会組織委員会へスタジアムを貸与した。しかし、大会終了後、大会組織委員会がコンソルシオにスタジアムを返還したところ、五輪大会のために改修された部分が元通りになっておらず、「契約違反」としてコンソルシオ側は受け取りを拒否した。組織委員会は約2億レアル(約72億円)の負債を抱えており、スタジアムの改修費用を捻出できなかったのが原因とされている。この結果、管理者不在の状況に陥り、ピッチの芝は枯れて茶色になり、不法侵入者によってスタンドの座席が約7,000席壊されたり、事務所の備品などが盗まれるなどの問題が起きて、スタジアムは荒廃した。また、コンソルシオも、過去3年足らずの間に多額の損失を計上しており、スタジアムの運営権を他の会社に譲渡するこになった。2017年5月、フランスのコングロマリット、ラガルデール(Lagardère)が約5億レアル(約175億8000万円)で運営権を取得して、緊急課題としてエネルギー関連の改修工事を1500万レアル(約5億2000万円)投入して行うとした。


Maracanã Stadium 出典 リオデジャネイロ五輪招致ファイル


筆者作成 出典 海外スタジアムの事例 JSC(2017年)等各種資料を参照

 国内で建設されたスタジアムの建設費に比べても飛びぬけて高額だ。国内で最大のスタジアム、日産スタジアム(横浜スタジアム)は、1997年に完成したが、収容人数は7万2327人で、総工費は「603億円」、資材費や労務費などの物価上昇率を加味しても、新国立競技場の「2.5倍」の建設費は余りにも異常である。現在の物価水準でも、新国立競技場は「1000億円」程度が妥当な水準と指摘する建設専門家も多い。
 はたして、本当に「1550億円」のスタジアムは必要なのだろうか。
 さらに、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から“抜け落ちた”経費が浮上したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。
 総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか、不安材料は依然として残り、国民の批判が収まるかどうか不透明である。

 とにかく、「1550億円」のオリンピック・スタジアムは破格の高額スタジアムなのは明らかである。“世界一コンパクトな大会”を掲げた2020東京五輪の精神は何処へいったのだろうか。



建設単価 飛びぬけて高額 新国立競技場
 安倍首相の決断で、「2520億円」から「約1100億円」削減して「1550億円」になったと聞くと、かなり建設費が削減されて適切になったと誤解する人が多いが、実はこれは“大間違い”である。
 大規模な建造物の建設費が適正であるかどうかを全体として把握する最良の手法は、「坪単価」で見るのが常識である。
 新国立競技場を他のスタジアムと「坪単価」で比較してみよう。
 新国立競技場は、最終案の「1550億円」(延べ床面積19万4500平方メートル)とザハ・ハディド案を踏襲してゼネコン2社が積算した「3088億円」(延べ床面積22万4500平方メートル)の「坪単価」(3.3平方メートル)を計算した。 「1550億円」では、265.5万円、「3088億円」では、なんと453・9万円となった。スタジアム建設の「坪単価」では、唖然とする高額だ。
 現在では国内最大規模の日産スタジアムの「坪単価」は155.7万円、サッカー専用スタジアムとては東アジアで最大規模のさいたまスタジアムは105.5万円、屋根を備えている京セラドーム大阪は122・8万円である。
 新国立競技場は、可動式屋根や「キール・アーチ」を取り止めて電動式可動席や観客席冷房装置も設置を止めても、「坪単価」は破格の265.5万円、あきれるほどの高額なスタジアムである。
 建設費の高騰の理由として、労務費や建設資材費の値上がりを挙げるが、国土交通省が公表している建設工事費の指標となる「建設工事デフレーター」によれば、2015年度(平成27年度)を100として、2019年度(平成31年度)は、109.6となっている。東日本大震災の復興需要が発生して建設工事費が値上がりする前の2000年度頃と比較しても、値上がりは約20%程度と見ることができる。なぜ倍近くに高騰したのか、建設工事費の値上がりでは説明がつかない。
 一体、どんなコスト管理を行ったのだろうか?
 「1550億円」やはっぱり納得できない。


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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2018年5月19日
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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
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