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ロンドン五輪スタジアム 改修費 サッカースタジアム ウェストハム 迷走 ロンドンオリンピックスタジアム

2021年05月11日 09時52分19秒 | 東京オリンピック
苦難の再出発 ロンドン オリンピック スタジアム



出典 LOCOG



 2006年10月、ロンドン・オリンピック組織委員会は、McAlpine(建設会社)、POPULOUS、Buro Happold(建設コンサルタント)のコンソーシアムによるオリンピック・スタジアム設計案を採用した。スタジアムは屋根が建物をまるごと覆う独特の外観で、「筋肉が人体を支持するのと同じ構造で、スタジアム自体が人体を表現する」と、デザイン案を評価した。
 設計者のPOPULOUSは、アメリカ・ミズーリ州・カンザスシティに本社を持つ、スポーツ施設及びコンベンションセンターなどの設計を専門とする設計事務所、建設コンサルタント。スポーツ施設やコンベンションセンターの設計から大規模イベントの企画までを専門とする建築設計事務所である。
 オリンピック・スタジアムは、ロンドン東部にあるオリンピックパークの敷地の一画にあった廃止されたドッグレース場の跡地に建設された。
 着工は2007年、2011年の竣工まで4年間を要した。 オープンは2012年5月。
 スタジアムは、広さ310メートル×260メートル、高さ67.7メートルの建物で、観客席は8万席、1層の恒久エリアの観客席が2万5000席、2層の仮設エリアの観客席が5万5000席である。当初は、2層の5万5000席はすべて大会後に撤去し、2万5000席にする計画だった。
 固定式の屋根で観客席を覆っているが、全体の観客席のうち1層前方の約40%が屋根に覆われていない構造だった。

 施工者は、ロンドン五輪の競技場や交通機関などのインフラ建設・整備を担当するODA(Olympic Delivery Authority)である。
 建設費は、ロンドン五輪招致時は、2億8000万ポンド(約413億3000万円)だったが、基本計画(2007年11月)作成時には約4億9600万ポンド(732億2000万円)と倍近くに膨れ上がり、見直し予算(2008年3月)では5億2500万ポンド(約773億5000万円)に達した。その後、経費削減が行われ修正予算では、約4億9600万ポンド((732億2000万円)に戻り、最終的(2012年9月)には4億2900万ポンド(約633億3000万円)となった。
 9レーンの陸上トラックはイタリアの会社Mondoによって設計され、最新のMondotrack FTXを使用された。


出典 Olympic Stadium 2012 ARC 5824 Advanced Studio2 Case Study

 スタジアム照明は、532個、2KWのLED照明器具が設置された。
 またスタンドにはTait Technologiesが開発した映像システムがあり、スタンドを巨大なビデオスクリーンとして機能させることができた。各座席の間にLED照明装置が組み込まれ、これを制御して様々な映像を表示する。このシステムは、主にオリンピックとパラリンピックの開会式や閉会式で使用することを目的とした
 2012年の夏季オリンピックの主競技場として、開閉会式と陸上競技が行われた。
 五輪大会終了後は、最終的には、観客席を54,000人に減築して、夏季期間は陸上競技やコンサートなどのイベントで使用、冬季期間はサッカー専用スタジアムとして使用する計画で決定された。撤去される仮設エリアの上部観客席は観戦しにくいとして評判が悪く、1層地上部の観客席とピッチとの間の距離が長く、サッカースタジアム向きではないとされていた。
 改修工事は、約2万5000席の観客席の撤去や、サッカー試合の観戦環境を改善するために陸上トラックの上を覆う「収納式」可動席(約2万1000席)の設置、観客席の全てを覆う屋根の設置(五輪大会開催時は約40%の観客席が屋根なし)をLLDC側の責任で実施する。


出典 Olympic Stadium 2012 ARC 5824 Advanced Studio2 Case Study

 改修工事費は、当初は1億5400万ポンド(約227億3000万円)と見積もられていたが、可動席の設置や屋根の設置費用が増え、最終的には3億2300万ポンド(約476億8000万円)に膨れ上がった。3億2300万ポンド(約475億8000万円)とは、新たに巨大スタジアム1個分を建設する費用に匹敵する破格の巨額経費である。
 改修工事費が3億2300万ポンドに上ったことで、当初、建設費の4億2900万ポンド(約633億3000万円)を加えるとオリンピックスタジアムの整備費の合計は7億5200万ポンド(約1100億1000万円)に膨れ上がった。
 * 為替レート  £=147.62円  2016年の平均レート

 2016年に改修工事は終了し、可動席を含めると約6万人収容となったスタジアムは再オープンした。
 2017年8月4日から8月13日には「世界陸上競技選手権大会」が開催され、2015年9月18日から10月31日まで開催された「ラグビーワールドカップ2015 イングランド大会」ではプール戦(予選)や三位決定戦の5試合が行われた。
 2019年6月29、30日の2日間、米大リーグ、MLBは、リーグ史上初めてロンドンで公式戦を開催し話題を集めた。歴史的な試合だったこともあり、MLBはリーグ屈指の好カードのヤンキース対レッドソックス戦を用意し、ロンドンスタジアムには2試合で約12万人(MLB発表11万8718人)の観客でスタンドは埋まった。
 MLBではすでに来年もロンドン開催を決定しており、カブス対カージナルス戦を2020年6月13、14日に行う予定になっている。


出典 Olympic Stadium 2012 ARC 5824 Advanced Studio2 Case Study

迷走 大会後の利用計画
 五輪スタジアムを大会後どうするのか、大会開催前から議論されていたが、政府の五輪大臣や関係者は、陸上トラックは維持すると決定した。
 2008年にロンドン市長に就任したボリス・ジョンソン(Boris Johnson)氏は、大会後は五輪スタジアムの観客席を、2層の5万5000席をすべて撤去し、2万5000席に大幅に削減してコミュティ施設とする計画を放棄し、プレミアリーグのサッカークラブを誘致して、大規模なスタジアムを維持するためにするという方針を示した。
 そもそも2006年の五輪スタジアムの当初計画時には、政府オリンピック委員会と五輪施設の整備を行うオリンピックデリバリー局は、大会開催後は、2万5000人収容の「90パーセント(減築)スタジアム」」にする計画で合意していた。
 ボリス・ジョンソン前市長はこの合意をあっさり覆したのである。

 こうした動きの中で、ロンドンを本拠地とする英プレミアリーグ加盟のクラブチーム、ウエストハム・ユナイテッド(FCWest Ham United Football Club)は、いち早く手を挙げた。ウエストハムはロンドン南部のアップトン・パーク(Upton Park)を本拠地にしていたが、施設が老朽化している上に、観客収容数も約3万5000人とコンパクなスタジアムで、ウエストハムは新たな展開を探っていた。
 ウェストハムは、ロンドン市長の方針に沿った陸上競技、コンサートやその他のスポーツをスタジアムで開催する「多目的スタジアム」を提案した。ホームスタジアムにする条件として、全座席を屋根で覆う屋根の設置費やサッカー観戦環境を改善する可動席の設置はなどスタジアムの改修を所有者であるLLDC(London Legacy Development Corporation)とニューハム評議会((Newham Council)の責任で実施することをなどを提示した。改修費用は所有者の負担である。
 これに対し、ウエストハムと同じロンドンを本拠地とするスパーズ(Spurs Tottenham Hotspur)はウエストハムの計画に異議を唱え、五輪スタジアム壊し、サッカースタジアムとして新たに再建し、陸上競技場はロンドン南部郊外にあるサッカースタジアム、クリスタルパレスを改修して整備するという再開発計画を提案して、ウエストハムと激しく争った。
 但し総経費はなんと約5億ポンド(約763億円)。
 もっともスパーズの計画は、「ロンドン五輪陸上競技の遺産の裏切りだ」という批判が五輪関係者から巻き起こっていた。
 サッカー専用スタジアムか陸上競技も開催する「多目的スタジアム」か、両陣営の間で非難と中傷合戦が繰り広げられた。

ウェストハムとスパーズ、サッカーチーム同士の争い
 2011年2月、ウェストハムは、五輪開催後にオリンピック・スタジアムを本拠地として使用する権利を勝ち取った。
オリンピック・スタジアムを巡っては、同じロンドンを本拠地とするスパーズも使用を申請していたが、LLDCが協議した結果、陸上トラックを残して多目的使用を可能とする総額9500万ポンド(約145億円)のウェストハムの再利用計画が、トラック撤去でサッカー専用競技場とする5億ポンド(約763億円)のトットナム案を退け、満場一致で推薦を受けた。
LLDCの関係者は、スポーツや文化、エンターテインメントなど、地域社会のニーズを考慮した上での決定であるとコメントした。一方、かつてウェストハムでプレーし、現在はトットナムで指揮を執るハリー・レドナップ監督は、陸上トラックを残すことで観客とピッチの距離が遠くなり、サッカーの観戦には不向きだと指摘した。
 2012年、スタジアムの所有者であるLLDC(London Legacy Development Corporation)は、コンペを実施してテナント組織を公募した。
公募にはウェストハムの他に、レイトンオリエント(Leyton Orient Football Club)、フォーミュラワン、UCFBフットボールビジネス(University Campus of Football Business)の合わせて4者が応募した。

ウェストハムの本拠地へ
 2013年3月23日、ロンドンのボリス・ジョンソン市長とニューハム評議会のロビン・ウェールズ市長は、最終的にウエストハムを長期アンカー・テナントとして選定し、ウエストハムとテナント契約を仮締結した。紆余曲折を経て難航したコンペはようやく決着した。
陸上トラックを残し、夏季期間は陸上競技やコンサート、その他のイベントをスタジアムで開催し、サッカーシーズンは、ウエストハムがサッカースタジアムとして使用する「多目的スタジアム」にするスキームで合意がなされた。ウエストハムはこれを条件に99年間の占有使用権(テナント料)を、年間250万ポンド(約38億2000万円)を支払うことでホームスタジアムとして使用する権利を手にした。ウエストハムは年間25日程度、サッカーのホームゲームで使用するとしている。
 仮締結が行われた際に見積もられた改修経費は、スタジアムとしては全座席を覆う最大級の片流れ式の屋根や陸上競技場のスタジアムを「サッカーモード」に改修するために整備する「格納式」可動座席、21,000席の設置などで、総額1億5400万ポンド(約235億1000万円)、すべてLLDC側が負担する。
 スタジアムを所有するLLDC(Boris Johnson議長)とニューハム評議会は、スタジアムの改修工事や運営を担うために、「E20スタジアムパートナーシップ」を設立した。
 * 為替レート  £=152.70円  2013年の平均レート

 ウェストハムが支払う年間250万ポンドのテナント料は、インデックス連動変動で、2016年/ 17年に支払ったテナント料は210万ポンド(約30億3000万円)で、2017年4月1日の増税後には230万ポンド(約33億2000万円)に増えた。
 これに対し、ウェストハムのライバルのアーセナル(Arsenal Football Club)は、エミレーツスタジアム(Emirates Stadium 収容人数 6万260人)のテナント料を、300万ポンド(約44億2000万円)を支払い、新しいプレミアリーグチャンピオン、チェルシー(Chelsea Football Club)は、スタンフォードブリッジ(Stamford Bridge 収容人数 4万1631人)に200万ポンド(約29億5000万円)を支払っている。
 * 為替レート  当時の年平均レート

 またウェストハムは、年間25試合を超えてホームゲームを開催した場合は、1試合につき10万ポンド(約1500万円)を支払い、リーグでToP Halfに入った場合や優勝した場合、さらに欧州カップに出場した場合などは追加金を支払う。ケータリングの収入は、50万ポンド(7300万円)までの利益はLDCCが収納し、50万ポンド超の利益は、70%/30%で案分するとしている。

 ウェストハムは、陸上競技の開催、可動式座席の運用コスト、長期維持費については、解決しなければならない問題が残されているとしている。特に「このスタジアムの問題は、陸上競技の座席移動のコスト、それが、この収益のすべての命題の根底にある」と述べている。

 一方、改修経費が膨張することが明らかになり、激しい批判を浴びる。
 LLDCが担当する改修工事費は、当初は1億5400万ポンド(約227億3000万円)と見積もられていたが、2014年9月、屋根の構造が複雑化して1億9300万ポンド(約284億9000万円)に膨れ上がりことが明らかになり、2015年には、「格納式」可動席の設置費用などが膨らみ、2億7200万ポンド(約401億5000万円)に引き上げられた。
 これまでの屋根は全座席の約60%しか覆っていなかったが、全座席を覆う屋根を新たに設置することがLLDC側に求められていた。新たな屋根は巨大で、世界でも最大規模の片流れ式の屋根となり、工事には北海の石油掘削装置で使用するために開発された先端技術を使用し、改修経費膨張の一因となった。



ウェストハムのホームスタジアムになったロンドンスタジアム 出典 e-Architect

改修経費 3億2300億円(約476億8000万円)に膨張 ロンド市長、スキームの見直しを表明 
 2016年5月、労働党のサディク・カーン(Sadiq Khan)氏はロンドン市長に選出された。前任者の保守党のボリス・ジョンソン氏の後任である。カーン氏はロンドン五輪スタジアムの改修費用が膨張したのは、「すべて前市政による混乱が責任」と批判した。
 2016年11月、カーン市長は、「前市長は2015年、スタジアムを改修費用が2億7200万ポンド(約401億5000万円)と発表したが、 実際には、5100万ポンド(約75億3000万円)以上の多い、3億2300万ポンド(約476億8000万円)であることが明らかになった」と述べて、スタジアム改修費用に関わるあらゆる問題について詳細な調査を指示した。
 3億2300万ポンド(約476億8000万円)に増えた主な原因を、サッカーの観戦体験を改善するために設置する可動座席の費用が 1億2300万ポンド(181億6000万円)増えたことだと明らかにした。また大画面デジタルスクリーンやスタジアムの外壁を覆う「ラップ」の整備費用などが増加したこともその原因としてあげている。

 大会終了後の改修費用が3億2300万ポンド(約476億8000万円)に膨らんだことで、建設費用の4億2900万ポンド(633億3000万円)を加えると五輪スタジアムの総額は7億5200万ポンド(約1110億1000万円)という巨額の経費に達することが明らかになった。

 改修費用膨張の主因となった「格納式」可動座席は、設置後も座席を移動するごとに多額の経費がかかることが明らかになって、問題化している。
 カーン市長が発表したデータによると可動座席の出し入れに必要な推定年間運用コストは、当初は30万ポンド(約4400万円)から800万ポンド(約11億8000円)に膨れ上がるとした。可動席の出し入れの作業は、24時間の突貫作業で行っても15日間が必要とされた。夏季シーズンの一ヶ月間、陸上競技などのイベント開催のために座席を移動する経費である。
 2017年夏にはスタジアムの座席の移動作業にかかった運用経費が1180万ポンド(約17億4000万円)だったことが明らかになっている。ワンシーズンでこれだけの経費をかけてもそれを上回る収入が陸上競技などの開催で確保できれば問題はないが、果たして達成できるのか問題視された。

 3億2300万ポンド(約476億8000万円)に膨れ上がった改修経費の原資は、LLDCが拠出する1億4880万ポンド(約219億7000万円)を中核に、ニューハム評議会が4000万ポンド(約59億円)(E20スタジアムパートナーシップへの35%の出資を振替)を融資、五輪開催予算の93億ポンドから4000万ポンド(約59億円)、さらに政府が2500万ポンド(約39億9000万円)を拠出した。また英国陸上競技は100万ポンド(約14億8000万円)を投資し、ロンドンマラソン慈善信託は350万ポンド(約51億7000万円)を提供すること賄うことが決まった。
 ウエストハムは、世論から巨額に膨れ上がった改修費の負担もすべきだと激しい批判を浴び、冬季期間のスタジアムのアンカーテナントとしての契約料、年間250万ポンド(約36億9000万円)を支払うことに加えて、改修費用としてさらに総額1500万ポンド(約22億1000万円)を寄付することで合意した。
 * 為替レート  £=147.62円  2016年の平均レート


ウェストハムのホームスタジアムになったロンドンスタジアム 出典 e-Architect

スタジアムの運営経費も問題化
スタジアムの運営経費はスタジアムを所有するロンドンレガシー開発公社(LLDC)とニューハム評議会が負担をするになっている。
 LLDCは、運営はコンセッション方式を採用し、フランスのインフラ運営会社、ヴィンチ(Vinci)に25年契約で委託することとした。 ヴィンチへ委託することで、五輪スタジアムの運営コストはさらに膨れ上がったとして批判が巻き起こっている。
 またウェストハムは、ホスピタリティ施設やケータリングから収入を得ることが認められた。
 こうした取引に対して、ウェストハムが納税者の費用で「今世紀の取引」を手に入れたとして批判を浴びた。

 また夏季期間(6月~7月末)の運営については、英国陸上競技連盟(UK Athletics)に対して、30年間のコンセッションを委託した。

  一方、同じロンドンが本拠地のトッテナム・ホットスパーがこの決定にも猛反発して、ウェストハムの計画は国家が支援した不公正なスキームだとして欧州員会に提訴した。このため一時、契約は白紙に戻され、改修工事の開始は延期された。
 2013年7月、この紛争は解決し、ウェストハムは、2016-2017シーズン(2016年)より五輪スタジアムを本拠地として使用することを改めて正式に発表した。
地元のニューハムでは、ウエストハムがアップトン・パークから本拠地を移動することで、ウエストハムのファンがニューハムに集結し、住環境が悪化する懸念が浮かび上がっている。
 LLDCは、中核となるテナントであるプレミアリーグのウェストハムユナイテッドと運営経費を巡って激しい対立を続け、その訴訟費用に400万ポンド(約61億円)を費やしたという。
 2018年12月12日、ウェストハムユナイテッドとLLDCは、ようやく訴訟を終了させることで合意した。

 LLDCの完全子会社であるロンドンスタジアムの所有者、E20は、2018年3月31日までの1年間で2270万ポンド(約33億5000万円 2018年の為替レート)の損失を計上した。
 2017年12月、ロンドン市長のカーン氏は、スタジアムの財政状況を立て直すために、コントロールを強化して膨れ上がっている運用経費を削減するプロジェクトを入札で立ち上げるとした。

ロンドン市長 独立調査員会の報告を公表 関係者と再交渉へ

 2017年12月1日、ロンドン市長は、独立調査員会の報告を公表した。

■ 骨子

•元市長はスタジアムの改修計画を適切な分析をせずに決定し、納税者にとって「高価で厄介な」取引につながった。
 スタジアムの改修費は3億2300万ポンドに膨れ上がり、「非現実的な」見積りだった1億9300万ポンド(約284億9000万円)より1億3000万(約191億9000万円)ポンドも膨れ上がることが明らかになっている。
 当時、改修費の審査は決して適切に精査されなかったと結論付けた。
 また元ロンドン市長は、ウエストハム・ユナイテッドと英国陸上競技連盟との拘束力のある契約を結び、現市長の選択肢を厳しく制限した。
・ロンドン市とウェストハムが契約した時に「間違った」と誤った値をとった見積もりが行われ1億3000万ポンド(約191億9000万円)以上の改修経費が更に必要となる。
 2015年にラグビーワールドカップ大会を開催するが決定され、改修費用は更に膨らんだ。改修工事の追加や遅延、混乱、そしてコスト増が経費膨張の要因となった。またプレミアリーグが開始に先立って2016年7月に再オープンしなけれならないというタイトな工期もコスト増につながっている。
スタジアムは2017年から2018年の間に2400万ポンド(約34億8000万円 2017年 £=144.46円)赤字が出ると予測
 レビューによると、今後に何らかの措置が取られなければ、スタジアムは毎年約2000万ポンド(約28億9000万円 2017年 £=144.46円)の赤字を計上すると予測し、投資額の回収は不可能である。

•ロンドン市長は、損失を最小限に抑えるための再交渉を、ニューハム評議会(Newham Council)と共に開始する。

 この報告書を受けて、カーンロンドン市長は、ニューハム評議会のロビン・ウェールス市長と協議し、スタジアムを単一の組織が完全な管理下に置くことで財務上の課題に対処することがより円滑に対応可能になるとし、ニューハム評議会はE20スタジアムパートナーシップの提携から撤退し、LLDCが五輪スタジアムの運営を単独で担うことで合意した。
 この合意で、ロンドン市は、LLDCを通じて、五輪スタジアムをフルコントロールして、安定した財政基盤へ移行するための措置を講じていくと表明した。 
 またカーン氏はウェストハムや英国陸上競技連盟、その他のスタジアムパートナーと協力して、納税者の利益のためにこれまでの取り決めの欠陥に対処するとした。
 カーン氏は、「提出されたレビューの内容には驚いた。前市長の痕跡がいたるところにある、意志決定プロセスの破綻を明らかにしている。彼が改修費用や格納式可動席も対する不適切な見積もりを適切に調べなかったという事実は、私たちが現在直面している悲惨な財政状況に直に反映されている」と述べた。
 E20スタジアムパートナーシップに4000万ポンドを融資したニューハム自治区は、ロンドン市が設置した独立調査委員会の報告書を、ニューハム評議会に共同で報告するとしている。

ウェストハムは6万席のチケットを発売へ
 2018年11月、E20スタジアムパートナーシップとウェストハムは共同声明を発表し、両社で争っていたロンドンスタジアムの収容能力に関する訴訟で、5万7000席を限度としたこれまでの制限を6万6000席とすることで和解したと発表した。両者は「両当事者は互いの利益のために、最大6万6000人収容の可能性に達するスタジアムへの第一歩を踏み出したことを喜んでおり、それがロンドンで最大となり、プレミアリーグで全体でも2番目の規模なることを期待する」と声明を発表した。
 ウェストハムは6万席のチケットを発売し、近い将来6万6000席に拡張するとしている。
 この和解で、ウェストハムはこれまでより多くのチケット収入を得ることが可能になった。
 またウェストハムは、観戦環境を改善するために、ゴールポストの後ろの観客席をピッチに近づける計画を進めている。これによりスタンドの最下段は約4メートルほどゴールポストに近づき、より臨場感があふれる観戦が可能になる。 伝統的なサッカースタジアムの雰囲気を提供することが可能になったとしている。
 ウェストハムの副会長、ブラディ(Karren Brady)氏は、ウェストハムのサポーターについて、現在、5万2000人のシーズンチケット保有者、1万人の16歳未満の定期チケット保有者を抱え、さらに3万6000人のシーズンチケット希望者のウエイティングがあり、それが5万5000人にまで増える可能性があるとしている。
 そして2016年の収入は、1億4400ポンド(約212億6000万円)を達成、経営的には楽観的な見通しを明らかにしている。
 これに対して、E20は、テナント料、年間250万ポンドを確保した後、ウエストハムが6万6000人に拡張した場合には、ショップ営業やオフィススペースで追加料金を支払うことを明らかにした。E20の経営難の状況の改善の見通しは、以前として明るくない。

メジャーリーグベースボール開催
 2019年6月29、30日の2日間、米大リーグ、MLBは、リーグ史上初めてロンドンで公式戦を開催し話題を集めた。歴史的な試合だったこともあり、MLBはリーグ屈指の好カードのヤンキース対レッドソックス戦を用意し、ロンドンスタジアムには2試合で約12万人(MLB発表11万8718人)の観客でスタンドは埋まり、成功裡に終わった。
 しかし、ロンドン市民からは、メジャーリーグの開催はロンドンスタジアムに似合わないという批判も巻き起こっている。
 MLBではすでに来年もロンドン開催を決定しており、カブス対カージナルス戦を2020年6月13、14日に行う予定になっている。


London Stadium transformed into MLB ballpark
Youtube

 ロンドンスタジアムは、新たな収入源を求めて、活発に動いている。
 しかし、ネーミングライツの売却は、スタジアムの大きな安定した収入源でだが、順調に進んでいない。E20は年間400万ポンド(約57億4000万円)のネーミングライツ料の獲得を目論んでいるが、未だに契約が成立していない。インドのコングロマリット、アヒンドラ社との交渉に期待をかけたが、結局、不調に終わった。
 ロンドンスタジアムは、巨額の改修費用、3億2300万ポンド(約476億8000万円)を投入して、サッカー・陸上併用スタジアムに改修し、英プレミアムリーグのウェストハムのホームグランドになったが、毎年約2000万ポンド(約28億9000万円)の赤字が予想されるなど、スタジアム経営は難航している。
 巨大スタジアムの維持は、陸上競技、サッカー、その他のスポーツ、そしてコンサートなどのイベントを開催する「多目的スタジアム」を目指しても、現実は極めて厳しいことが改めて明らかになった。



今年11月に完成する新国立競技場 2019年7月 筆者撮影


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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)






2019年7月15日
Copyright (C) 2018 IMSSR




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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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