17日のLPSA麹町サロンin DISは、昼の部に船戸陽子女流三段が登板していた。だいぶ前から1席空きがあり、私も行けたのだが、当日朝にバイトが入るかもしれないから、静観していた。
もっとも私は、船戸女流三段の大ファンだった。だけど船戸女流三段が2011年に結婚してからファンを止めた。そればかりか、当時私は船戸女流三段のメアドを知っていたので、ひどい文章を送ったりもした。だから船戸女流三段に合わせる顔、いやアタマもなかったのである。
ところが17日朝になっても空席は埋まらず、けっきょく私は予約をした。これも運命の気がして、それに抗えなかった。
当日は神田で下車し、日本橋に向かった。23日は船戸女流三段の誕生日なので、プレゼントを買うためである。指導対局に加え、プレゼントも買うとは、何の因果だろう。だけどこんなもの渡したって、当人はちっともうれしくないだろう。そういう相手の気持ちを考えないのが、私の悪いところである。
然るべき店でプレゼントを買ったあと、神田に戻るか、先に進むか。銀座のOKスーパーに行きたいが、そのまま歩いていくことにした。
辺りは外国人でいっぱいである。こんなビル街を観光したって面白くないと思うが、愉しみ方は人ぞれぞれである。
銀座に着いたが、OKスーパーが見当たらない。道を1本間違えたみたいだが、けっこう時間が押しており、微妙である。とりあえずOKスーパーは保留とし、私は地下鉄に向かった。
銀座一丁目から乗り、麹町で下車し、教室に入ったのは午後3時5分だった。あれだけ余裕を持って家を出たのに、日本橋の散歩がマズかった。
教室に客は集まっていたが、その数が4人だったので、驚いた。客の定員は4人である。だけど船戸女流三段は笑顔で迎えてくれる。これが大人の対応というやつである。ほかにTod氏もいて、私は混乱の極みである。ああたぶん、当日朝に2人の申し込みがあったのだ。そして私は対局確定を確認しないまま、ここに来てしまった。なら、私がお邪魔虫ではないのか?
私はとりえず船戸女流三段にプレゼントを渡し、「帰ります」と言った。だが、船戸女流三段は私を帰さない。すでに将棋盤も「5人目」が用意してあるし、このまま指していくことにした。
「きょうの朝に申し込んだんだけど」
私がTod氏に言うと、「ボクのほうが遅かった」と彼は言った。だけど私の可能性もあり、よく分からない。ただ、LPSAの売り上げが増えたんだから、これはこれでいいと思う。
早速駒を並べ、対局開始である。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4三銀▲5八金右△5四歩▲6八玉(第1図)
船戸女流三段は相変わらずエレガントだった。
といっても船戸女流三段にお目にかかるのは久しぶりで、2022年11月27日に田町駅前で行われた「Minerva交流将棋団体戦2022」以来となる。
その前となると、2020年1月9日の麹町サロンとなる。このときはTod氏の熱心な誘いを受けてのもので、船戸女流三段と「再会」するのに相当な勇気が要ったことを憶えている。
だから今回、自発的に指導対局を申し込んだのは14年ぶりとなる。その間に私は老け、頭髪は無残なことになってしまった。歳は取りたくないものだ。
しかし船戸女流三段は私の風貌には触らず、
「誕生日が近いから、誰かがプレゼントを持ってきてくれるかと思ってました」
と屈託がない。
私は盤面に集中する。私の居飛車明示に船戸女流三段は得意の雁木をにおわす。しかし△3二金が決まってないので、振り飛車の可能性も残っている。

第1図以下の指し手。△8四歩▲7八銀△9四歩▲7七銀△7二銀▲7八玉△8三銀▲2五歩△3三角▲7九角△2二飛(第2図)
右斜め前の男性氏は、すでに中盤に入らんとしている。いったいいつから始めていたのか。
船戸女流三段は居飛車を明示した。当然なのだが、意外な気もした。それが証拠に、私はその前に▲6八玉と上がってしまっている。このせいで、玉の整備に制約が加えられることになった。
奥の部屋から、渡部愛女流四段が出てきた。私は気付かなかったが、さっきから奥の部屋で声がしていたようだ。
みんなは口々に「おめでとうございます」と言う。渡部女流四段は昨年結婚したが、そのお祝いをまだ言っているのか? いや違う、渡部女流三段は先日の対局で勝利し、女流四段に昇段した。そのことであろう。
笑顔で返事をする渡部女流四段の視線が、私の頭頂部に注がれた気がした。いつぞやの中倉宏美女流二段のときもそうだったが、久しぶりに私に会った女流棋士は、みんな同じ反応をする。
その意味で、いまは「ハゲ耐性」ができている上川香織女流二段と指すときは、最もリラックスできる。
右の男性は「渡部先生にお会いできるとは、得した気分です」と、よろこびを隠せない。そんなものかなと思った。
局面、船戸女流三段は飛車先の歩を決めていないが、棒銀っぽい構想だ。このまま銀交換をされると、8筋が薄い私が悪い。
そこで私は▲2五歩から▲7九角としたが、これに船戸女流三段は△2二飛と受けた。この局面での振り飛車は、意外だった。
それに驚いて指した次の手がマズかった。

第2図以下の指し手。▲7五歩△6二玉▲7六銀△7二玉▲6六歩△8二玉▲5七銀△7二金▲6五歩△5二金(第3図)
▲7五歩は、私が好きな玉頭位取りの構想だが、駒が上摺ってよくなかった。ここは▲8八玉から▲9八香とし、穴熊の構想で指すのがよかった。
船戸女流三段は△6二玉と上がったが、私は△7二飛を気にした。もっともすぐに△7二飛は、▲2四歩△同歩▲同角で、以下△2二飛なら▲3三角成が王手で下手勝ち。だから△7二飛は気にする必要はなかったのだが、私はこの幻影にしばし悩むことになる。
数手進み、△7二金で△7二飛がなくなり、ほっと一息。しかし▲6五歩がまたマズかった。上手の△4二角から△7四歩を気にし、そのとき▲6六銀を間に合わせようとしたのだが、考えすぎた。
船戸女流三段は△5二金と上がり、涼しい顔である。

第3図以下の指し手。▲7七桂△6二金左▲8六歩△4五歩▲6七金△4四銀(第4図)
▲7七桂も陣形が薄くなりよくないが、△4五歩のときの角成をあらかじめ受けたもの。でも△4五歩を受けるなら、▲8八角と戻る手もあった。
▲8六歩に△4五歩が大きな手。これがあるから▲8六歩では▲4六歩も考えたが、バランスが悪いと思い、やめた。
△4四銀に次の手も悪かった。

(つづく)
もっとも私は、船戸女流三段の大ファンだった。だけど船戸女流三段が2011年に結婚してからファンを止めた。そればかりか、当時私は船戸女流三段のメアドを知っていたので、ひどい文章を送ったりもした。だから船戸女流三段に合わせる顔、いやアタマもなかったのである。
ところが17日朝になっても空席は埋まらず、けっきょく私は予約をした。これも運命の気がして、それに抗えなかった。
当日は神田で下車し、日本橋に向かった。23日は船戸女流三段の誕生日なので、プレゼントを買うためである。指導対局に加え、プレゼントも買うとは、何の因果だろう。だけどこんなもの渡したって、当人はちっともうれしくないだろう。そういう相手の気持ちを考えないのが、私の悪いところである。
然るべき店でプレゼントを買ったあと、神田に戻るか、先に進むか。銀座のOKスーパーに行きたいが、そのまま歩いていくことにした。
辺りは外国人でいっぱいである。こんなビル街を観光したって面白くないと思うが、愉しみ方は人ぞれぞれである。
銀座に着いたが、OKスーパーが見当たらない。道を1本間違えたみたいだが、けっこう時間が押しており、微妙である。とりあえずOKスーパーは保留とし、私は地下鉄に向かった。
銀座一丁目から乗り、麹町で下車し、教室に入ったのは午後3時5分だった。あれだけ余裕を持って家を出たのに、日本橋の散歩がマズかった。
教室に客は集まっていたが、その数が4人だったので、驚いた。客の定員は4人である。だけど船戸女流三段は笑顔で迎えてくれる。これが大人の対応というやつである。ほかにTod氏もいて、私は混乱の極みである。ああたぶん、当日朝に2人の申し込みがあったのだ。そして私は対局確定を確認しないまま、ここに来てしまった。なら、私がお邪魔虫ではないのか?
私はとりえず船戸女流三段にプレゼントを渡し、「帰ります」と言った。だが、船戸女流三段は私を帰さない。すでに将棋盤も「5人目」が用意してあるし、このまま指していくことにした。
「きょうの朝に申し込んだんだけど」
私がTod氏に言うと、「ボクのほうが遅かった」と彼は言った。だけど私の可能性もあり、よく分からない。ただ、LPSAの売り上げが増えたんだから、これはこれでいいと思う。
早速駒を並べ、対局開始である。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4三銀▲5八金右△5四歩▲6八玉(第1図)
船戸女流三段は相変わらずエレガントだった。
といっても船戸女流三段にお目にかかるのは久しぶりで、2022年11月27日に田町駅前で行われた「Minerva交流将棋団体戦2022」以来となる。
その前となると、2020年1月9日の麹町サロンとなる。このときはTod氏の熱心な誘いを受けてのもので、船戸女流三段と「再会」するのに相当な勇気が要ったことを憶えている。
だから今回、自発的に指導対局を申し込んだのは14年ぶりとなる。その間に私は老け、頭髪は無残なことになってしまった。歳は取りたくないものだ。
しかし船戸女流三段は私の風貌には触らず、
「誕生日が近いから、誰かがプレゼントを持ってきてくれるかと思ってました」
と屈託がない。
私は盤面に集中する。私の居飛車明示に船戸女流三段は得意の雁木をにおわす。しかし△3二金が決まってないので、振り飛車の可能性も残っている。

第1図以下の指し手。△8四歩▲7八銀△9四歩▲7七銀△7二銀▲7八玉△8三銀▲2五歩△3三角▲7九角△2二飛(第2図)
右斜め前の男性氏は、すでに中盤に入らんとしている。いったいいつから始めていたのか。
船戸女流三段は居飛車を明示した。当然なのだが、意外な気もした。それが証拠に、私はその前に▲6八玉と上がってしまっている。このせいで、玉の整備に制約が加えられることになった。
奥の部屋から、渡部愛女流四段が出てきた。私は気付かなかったが、さっきから奥の部屋で声がしていたようだ。
みんなは口々に「おめでとうございます」と言う。渡部女流四段は昨年結婚したが、そのお祝いをまだ言っているのか? いや違う、渡部女流三段は先日の対局で勝利し、女流四段に昇段した。そのことであろう。
笑顔で返事をする渡部女流四段の視線が、私の頭頂部に注がれた気がした。いつぞやの中倉宏美女流二段のときもそうだったが、久しぶりに私に会った女流棋士は、みんな同じ反応をする。
その意味で、いまは「ハゲ耐性」ができている上川香織女流二段と指すときは、最もリラックスできる。
右の男性は「渡部先生にお会いできるとは、得した気分です」と、よろこびを隠せない。そんなものかなと思った。
局面、船戸女流三段は飛車先の歩を決めていないが、棒銀っぽい構想だ。このまま銀交換をされると、8筋が薄い私が悪い。
そこで私は▲2五歩から▲7九角としたが、これに船戸女流三段は△2二飛と受けた。この局面での振り飛車は、意外だった。
それに驚いて指した次の手がマズかった。

第2図以下の指し手。▲7五歩△6二玉▲7六銀△7二玉▲6六歩△8二玉▲5七銀△7二金▲6五歩△5二金(第3図)
▲7五歩は、私が好きな玉頭位取りの構想だが、駒が上摺ってよくなかった。ここは▲8八玉から▲9八香とし、穴熊の構想で指すのがよかった。
船戸女流三段は△6二玉と上がったが、私は△7二飛を気にした。もっともすぐに△7二飛は、▲2四歩△同歩▲同角で、以下△2二飛なら▲3三角成が王手で下手勝ち。だから△7二飛は気にする必要はなかったのだが、私はこの幻影にしばし悩むことになる。
数手進み、△7二金で△7二飛がなくなり、ほっと一息。しかし▲6五歩がまたマズかった。上手の△4二角から△7四歩を気にし、そのとき▲6六銀を間に合わせようとしたのだが、考えすぎた。
船戸女流三段は△5二金と上がり、涼しい顔である。

第3図以下の指し手。▲7七桂△6二金左▲8六歩△4五歩▲6七金△4四銀(第4図)
▲7七桂も陣形が薄くなりよくないが、△4五歩のときの角成をあらかじめ受けたもの。でも△4五歩を受けるなら、▲8八角と戻る手もあった。
▲8六歩に△4五歩が大きな手。これがあるから▲8六歩では▲4六歩も考えたが、バランスが悪いと思い、やめた。
△4四銀に次の手も悪かった。

(つづく)