Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

ノルウェーサーモンの産業集積による外部性,生産性,技術非効率性の関係

2020-04-26 | ゼミ

AGGLOMERATION EXTERNALITIES, PRODUCTIVITY, AND TECHNICAL INEFFICIENCY*

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1467-9787.2006.00470.x

 今回のゼミは,ノルウェーサーモンの産業集積による外部性,生産性,技術非効率性の関係に関する経済的分析についての論文に目を通した。

 確率フロンティア生産理論(SFP理論:stochastic frontier production model )は,経済学で一般的に用いられる理論で,企業の生産力を示す考え方である。

一般的に,生産力は,

y = f (x; E, t) + VUで示される。

Y;産出,f; 平均の生産技術,x;投資, E; 外部性指標, t; 生産性指標,V; 誤差− U; 技術の非効率性

で表すことができる。

 SFP理論のメリットの一つは,どのような異なる変数(x;投資, E; 外部性指標, t; 生産性指標)の効果が最もよい技術に関連するのかを分析することができる。

 ここで外部性とは,生産には直接関係のないもので,例えば知識,環境への負荷などが該当する。外部性を測定することは,理想的な生産関数と技術の非効率性(理想的な生産と実生産との差)の両方に影響することを示すことになる。

 この理論を使って,ノルウェーのサーモン養殖の産業集積の生産性を検討した。その結果,地域ごとのサーモン養殖の生産性は,産業集積によって生産効率が良くなるが,サーモン養殖の密度が高まると生産性が落ちることがわかったという。

 このことは,一般的に工業では,産業集積が起きることによって生産効率が挙がり,経済にプラスの面をもたらすと言われている。これは,サーモン養殖でも同様である。しかしながら,養殖密度が高まれば,生産性が落ちるという点では,工業生産とは異なる現象である。あるいは,農業や漁業生産でも,そうかも知れない。ただ,産業集積による高密度生産によるマイナスの効果はすぐには現れないことが大きな問題だ。これは,例えばカキ養殖でも,過密飼育は下記のサイズを減少させることが知られている。その理由として,餌の奪い合いがあるが,それに加えて海底に大量の糞がたまり環境悪化をまねく。

 この論文が出されたのは,2007年でノルウェーサーモンは赤潮を発生させず,増肉係数も1であり,残餌も糞も出ないと豪語しているレポートを目にしたことがある。しかし,2019年には26年ぶりに大規模な赤潮が発生したことは記憶に新しい。チリでも頻繁に赤潮が発生し,そのたびに生産する湾を移動している。

 全国各地で,ご当地サーモンの養殖が盛んになってきている。2000以上の企業がひしめくノルウェーにはかなわないが,国内ではサーモン(トラウトサーモンやサクラマスなど)で90箇所以上になる。日本のサーモン養殖では赤潮発生のニュースはあまり聞いたことがないが,産業が集積し生産効率が求められるようになると,これから確実に発生する。経済の外部性,すなわち環境の外部性に関する計測と開示が必要である。

 消費者にが知らない部分が問題を招く。日本において,情報の開示を高めることができるか,環境の外部性をしっかりと評価し,消費者に伝達する組織の必要性が出てくるだろう。環境と経済のバランスを維持するために。



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