Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

台湾「国土生態保育グリーンネットワーク構築プロジェクト」と日本の「つなげよう、支えよう森里川海プラジェクト」

2020-09-02 | ゼミ

 

第五次環境基本計画では、2018年(平成30年)に閣議決定され、持続可能な社会を実現するために、国連の持続可能な目標(SDGs)を志向し、環境・経済・社会を総合的に向上する仕組みを計画した。また、「地域循環共生圏」という概念を提示し、各地域との連携,特に農山漁村と都市のつながりを推進することとした。

また、環境省は2016年(平成28年)「つなげよう、支えよう森里川海プラジェクト」を公表し、全国に実証地域を指定し多様な主体によるプラットフォームづくり,自立のための経済的仕組みづくりなどを進めてきた。具体的な取り組み例が全国的展開され、人と森・里・川・海とのつながりの意識が高まることが期待される。これらの取り組みは,政府が中心となるのではなく、市民一人一人が主体的に参加するように政府が支援する形となっているのが特徴である。一人ひとりの積極的な活動参加によって、森里川海のつながりを実感し、郷土愛を高め、身近な環境を大切にしようとする意識が育まれていく。

この計画では、市民の内発的動機づけを高め,ボトムアップによる政策の遂行が地域活性化に寄与するという考え方を重視している。

一方,台湾に森里川海に関する政策として、「国土生態保育グリーンネットワーク構築プロジェクト」がある。このプロジェクトでは,里山,里海については明確に言及し実際に具体例が示されているが、森里川海という全体的に計画するプロジェクトは今のところ存在しない。この部分を日本の政策に学ぶべきだ。 (郭欣怡)


グローバル環境問題の解決に向けた授業開発と実践研究(ゼミでの論文購読)

2020-08-07 | ゼミ

広島大学附属三原学校園研究紀要第62016,pp.75-82

グローバル環境問題の解決に向けた授業開発と実践研究 -6学年「世界の中の日本」を事例としてー 

伊藤公一

https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/3/39635/2016040813411458582/MiharaEIKenkyukiyo_6_75.pdf

.要約:

現在、日本に限らず,環境問題の解決のためには,国家、地域を超えて、地球市民として連帯と負担の分かち合いを核としたグローパル・パートナーシップを持つことが必要です。このようなパートナーシップの構築によって,人々や自然環境との関係価値が重視されることで、環境問題の課題解決の方法が見いだされるものと考えています。

この実践報告では,「関係価値」の構築を重視した「グローパル社会学習」の授業開発を行い,子どもたちのの環境意識の変容について記述しています。

人間と自然との「関係性」から生じる「関係価値」を意識しながら環境問題とつなげていくことのできる授業を構想していくために,「フェアトレード」を取り上げることができるのではないかと筆者は考えました。

先行研究により、今フェアトレードを取り上げた授業は,中学校・高等学校を対象にした実践が多く,また環境保護の観点から授業が構想されていないことから,小学6年生を対象に環境保護の側面から授業開発して実践結果を報告しています。

 .関係価値について:

生産地と消費地での活動は,別の地域の環境に対し大きな影響を与えています。したがって,私たちは,海外から輸入されているもの(食料品・原材料等)が環境問題とのつながり(関係性)を具体化したものである可能性があるとの認識をもち,食品・原材料等と環境との関係性を意識していくこと,想像していくのが重要です。消費者が食品等を通じて生産地の環境問題とのつながりを意識、重視することができれば,生産地の環境問題の解決への糸口に繋がる可能性があります。

3、授業開発の視点と授業実践

以上の考察を踏まえ、子供たちの消費活動と生産地の環境と関連させる学習活動は、環境問題を解決する方向に向かっていくと考え授業開発を行いました。

授業構成として, 1次では現在の地球環境問題について概観し,消費者としての価値観について,第2次では,子どもたちの消費活動の先にある流通や生産者 (生産地)の現状について,安さと商品の多様性に価値を置く「100円ショップ」の生産地の現状や,日本が抱える「フードマイレージ」の問題から,生産地のことを知ろうとすること(知産知消)が必要であることをおさえる。これらの学習を踏まえて,第3次では生産者(生産地)のことを意識しながら,子どもたち自ら消費活動を行う際に「フェアトレード」等の商品を購入するだけで環境問題やその解決につながっていることについて理解させる,としています。

4、本論文の成果と課題

本研究の成果として,子どもたちの生活から遠い社会での出来事(地球環境問題)を取り上げる際に,まずは子どもたちの身近な教材を入口にして,「関係価値」を重視した授業を構成した点が,子どもたちの環境意識や社会参画への意識を高めることができた要因となったとのことです。

(担当 李思聡)


ノルウェーサーモンの産業集積による外部性,生産性,技術非効率性の関係

2020-04-26 | ゼミ

AGGLOMERATION EXTERNALITIES, PRODUCTIVITY, AND TECHNICAL INEFFICIENCY*

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1467-9787.2006.00470.x

 今回のゼミは,ノルウェーサーモンの産業集積による外部性,生産性,技術非効率性の関係に関する経済的分析についての論文に目を通した。

 確率フロンティア生産理論(SFP理論:stochastic frontier production model )は,経済学で一般的に用いられる理論で,企業の生産力を示す考え方である。

一般的に,生産力は,

y = f (x; E, t) + VUで示される。

Y;産出,f; 平均の生産技術,x;投資, E; 外部性指標, t; 生産性指標,V; 誤差− U; 技術の非効率性

で表すことができる。

 SFP理論のメリットの一つは,どのような異なる変数(x;投資, E; 外部性指標, t; 生産性指標)の効果が最もよい技術に関連するのかを分析することができる。

 ここで外部性とは,生産には直接関係のないもので,例えば知識,環境への負荷などが該当する。外部性を測定することは,理想的な生産関数と技術の非効率性(理想的な生産と実生産との差)の両方に影響することを示すことになる。

 この理論を使って,ノルウェーのサーモン養殖の産業集積の生産性を検討した。その結果,地域ごとのサーモン養殖の生産性は,産業集積によって生産効率が良くなるが,サーモン養殖の密度が高まると生産性が落ちることがわかったという。

 このことは,一般的に工業では,産業集積が起きることによって生産効率が挙がり,経済にプラスの面をもたらすと言われている。これは,サーモン養殖でも同様である。しかしながら,養殖密度が高まれば,生産性が落ちるという点では,工業生産とは異なる現象である。あるいは,農業や漁業生産でも,そうかも知れない。ただ,産業集積による高密度生産によるマイナスの効果はすぐには現れないことが大きな問題だ。これは,例えばカキ養殖でも,過密飼育は下記のサイズを減少させることが知られている。その理由として,餌の奪い合いがあるが,それに加えて海底に大量の糞がたまり環境悪化をまねく。

 この論文が出されたのは,2007年でノルウェーサーモンは赤潮を発生させず,増肉係数も1であり,残餌も糞も出ないと豪語しているレポートを目にしたことがある。しかし,2019年には26年ぶりに大規模な赤潮が発生したことは記憶に新しい。チリでも頻繁に赤潮が発生し,そのたびに生産する湾を移動している。

 全国各地で,ご当地サーモンの養殖が盛んになってきている。2000以上の企業がひしめくノルウェーにはかなわないが,国内ではサーモン(トラウトサーモンやサクラマスなど)で90箇所以上になる。日本のサーモン養殖では赤潮発生のニュースはあまり聞いたことがないが,産業が集積し生産効率が求められるようになると,これから確実に発生する。経済の外部性,すなわち環境の外部性に関する計測と開示が必要である。

 消費者にが知らない部分が問題を招く。日本において,情報の開示を高めることができるか,環境の外部性をしっかりと評価し,消費者に伝達する組織の必要性が出てくるだろう。環境と経済のバランスを維持するために。


Exploring Our Oceans: Using the Global Classroom to Develop Ocean Literacy

2020-04-15 | ゼミ

https://doi.org/10.3389/fmars.2019.00340

この論文は、MOOCというインターネット講義によって、オーシャンリテラシー(水圏環境リテラシー)を身につけて行動を起こす人材を育成を目指した取り組みを紹介した論文である。イギリスのサザンプトン大学の事例である。世界中で140か国、合計4万人が受講した。教化主義的な内容だけでなく、構成主義的なインタラクティブなメニューを盛り込みオーシャンリテラシーの向上を図った。コメント欄を見ると、自分の日常生活における海洋とのかかわりについての記述など大きく分けると5つのカテゴリーになった。各国で翻訳されて使用されているが、日本で行ったという話は聞いていない。確かに、専門の大学では、専門的な海洋教育は行われているが、一般人を対象とした教育は十分ではない。ぜひ、日本でも導入したいものである。https://www.futurelearn.com/courses

言葉の壁があるものの、グーグル翻訳で、ある程度カバーできる。このようなインターネットによる情報の共有だけでは、十分ではない。身近な環境における体験と気づきが最も必要である。そのうえでの形式知としてのオーシャンリテラシーであることを理解する必要がある。

オーシャンリテラシー教育も、環境教育と同様に、いかに内発的に行動を起こす人材を育成するかである。環境倫理学で言えば、規範意識というものだろう。そのような活動はお金には直接結びつかない。だが、人々が郷土の環境とその作用をよく理解し誇りを持って生きていくためには、人間と自然との関わり方の意識を高めることが大変重要である。

国土交通省は、経済活動を維持発展するためにインフラの整備を行う。莫大な予算を投じて簡単にトンネルにも穴をあけ、防潮堤を作り津波から人命を守り、水門を作って災害に備える。

一方で、人間が作ったものが災害の引き金になることもある。防潮堤が流木等によってふさがり水があふれ二次災害を発生させたことも記憶に新しい。

また、人間の経済活動を優先させることによって自然環境や自然景観は損なわれてしまう。交通に便利なトンネルを作れば、それだけ山の保水力は下がる。防潮堤を築けば、海が見えなくなる。小窓を作っても全体の空間認識は不可能となる。

災害が起きても、また不便な環境であっても、自然環境は人間生活の基盤である。自然環境がなくなれば,人は生きていかれない。社会や経済は成り立たない。自分が住んでいる自然環境を大事にし、そこから生活の糧を得て長い世代にわたって生きてきた。自然を大事にすることは、そこに生活する人々の義務であり権利である。持続的な生活基盤を維持するためには自然環境の存在が必要だ。

自然環境の開発も維持も本来は、本来は国が主導するものではなく、そこに住む人々が主導するものである。そのためには、自然環境に関する知識を持ち,考えて行動するリテラシーが必要なのである。自然環境と人間活動のバランスを考えて,自律的,自発的,内発的に自ら考えて行動する人材を育成することが環境教育の最大の目的だ。

すなわち,身近な自然環境での暗黙知に基づいた行動とともに、世界の科学者が取り決めた形式知であるオーシャンリテラシーを取り入れ,世界の活動家とつながり、お互いを尊重し新しいアイデアを出し合いながら持続可能な地球環境の維持につながるような水圏環境教育活動をしたいものである。


形式知としてのオーシャンリテラシーと暗黙知としての在来知をどのように融合させるか?

2020-04-08 | ゼミ

Ocean Literacy to Mainstream Ecosystem Services Concept in Formal and Informal Education: The Example of Coastal Ecosystems of Southern Portugal

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmars.2019.00626/full#F2

 

を4年のゼミ生が中心となり講読した。ポルトガルのリアフォルモサで行われている,海洋リテラシー教育の紹介記事である。興味深い点として,1つはエコシステムサービスは定義されてから数十年になったがまだ浸透していないのは,十分な教育が行われないからであり,それを補うために海洋リテラシー教育が必要であるとしているところ。もう1つは学校カリキュラムの膠着が起きていて詰め込み教育の懸念があった。それを打破すべく,専門性の融合が求められるようになり,日本でいう総合的な学習の時間が始まったこと。さらに,カリキュラムの中で,地域の文脈を取り入れながら学校教育を行うよう義務化されている。そうした総合科目を実践する上で,オーシャンリテラシー教育が重要であるとして, リーズ(“Environmental Education Network for Ecosystem Services” (REASE) )が始まった。学校教育ということで,組織的に行われている。

 世界中の科学者によって,海洋リテラシーやエコシステムサービス(最近では,NCP)が定義されている。これは科学者によって定義された世界共通の形式知(explicit knowledge)であると言ってよいだろう。一方で私達は世界中の各地域で生活しておりローカル性を強く持っている。大変な多様性があり,それぞれの文化を形成している。それは,長い間時間をかけて構築されたものであり,いわば地域の独自の暗黙知(tacit knowledge)が備わっている。伝統的な風習などはその地域にとって欠かせないものでありこれからもそう簡単に変えられない重要なものである。今までは,その暗黙知の状態で良かったのである。しかし,なぜ,オーシャンリテラシー,エコシステムサービスが定義されたのか。それは,地球規模の解決できない大きな課題が生じているためなのである。それにいち早く気がついた人びとが,科学者という専門家の集団である。彼らが考え出した暗黙知は,科学者の間で浸透し合意を経て形式知として誕生した。だが,それらの形式知は,地域にとってはまだ暗黙知と融合していない。来年から海洋科学の10年がはじまる。いわば海洋分野に特化したSDGsであり,SDGsの達成の一環である。どれだけ,両者が協働できるのか,そのためのサポートはどうあるべきか,これはもはや個人的なレベルの段階ではない。世界全体,つまり世界の各国によって構成される国連が主導してはじまるわけであり,それぞれの国家もしっかりとその旨を理解して国を上げて取り組むようにしていかないとその協働的な取り組みは達成できない。もう秒読み段階に来ているのだ。