『行進は、平和が、よく似合う』
8日、全国高校野球選手権大会が開幕した。
私は、球児たちの入場行進を、毎年楽しみに観ている。
野球そのものが好きなわけではないのだが、地域、母校の誇りと期待を背負って、行進する若者の姿を見るのが何とも嬉しいのだ。
入場校毎に、各校の紹介が短くアナウンスされると、私は日本地図を思い浮かべながら、その学校のある町のたたずまいや、山並み、川の流れなどを想像してみる。
紹介される内容は様々なのだが、今年は「スタミナをつけるために、寮の朝食は、丼ぶり三杯が…」というアナウンスが、何とも若さに溢れ、微笑ましく感じられて耳に残った。
作家の松谷みよ子さんは、著書『現代の民話』のなかで、福島県国見町の老女の語った言葉として次の様に記している。
《ガダルカナルではねえ、天皇陛下万歳なんて死んでいくもんは、あんまりねかったってよ。みんな飢えて飢えて、腹ぁ空かして、まず目ん玉から蛆がわくってよ。ころころころころ、そのうち、からだじゅうから蛆がわいて、……》
老女の話は続く。
そうした兵士の腐れ切った身体が、いきなり立ち上がって、
「隊長殿、内地から姉が迎えにきました、帰っていいでありますか」と隊長に問うとのこと。
迎えに来るのは、死んだ姉さんとか、ばあちゃんとかで、
隊長が、「よし、帰れ」っていうと、
「はっ、帰ります」と言って、ぱたって死ぬんだそうだ。
この老女は、餓死の島ガダルカナルから命あって戻った兵から、この話を聞いたとのことである。
1942年、今から71年前、南の島ガダルカナルで、投入された将兵三万千四百人は、飢えとマラリアのため、次々と死んでいった。
同年12月、日本軍のガダルカナル島からの撤退により、一万六百五十二人が救出された。この撤退を、大本営は「転進」と発表。
戦場にまつわる話は残酷で胸が痛むのだが、ここで紹介されている話は「飢え」がらみなだけに、切ない。
面会に来たという、この世にすでにいないばあちゃんは、きっと、手作りの「おはぎ」を丼ぶりいっぱい持参したのであろう。優しい笑顔と共に。
平和はいい。
平和ならば、野球の練習や試合に備えて、「丼ぶり三杯」を食べさせることができる。
若者は戦争で死んではいけない。死なせてはいけない。
憲法九条を変えてはいけない。
若者の行進は、平和がよく似合う。
〈実(げ)に腹ふくるる心地の〉ばーば