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フェルマー予想からトーラスに至る

2022-11-27 08:28:42 | ブログ
 まず、フェルマー予想(最終定理)として知られるものを挙げる。
  nが3以上の自然数なら、x^n+y^n=z^nとなる自然数x,y,zはない。

 nが2の場合には、ピタゴラスの定理として知られ、この式を満足する自然数は、無限に存在する。

 フェルマー予想の方程式x^n+y^n=z^nの全体をz^nで割り、X=x/z,Y=y/zと置き換えると、元の方程式はX^n+Y^n=1となる。この方程式をフェルマー方程式と呼ぶことにする。元の方程式に自然数の解があるとすれば、フェルマー方程式は有理数を解にもつことになる。以下、フェルマー方程式をx^n+y^n=1と、記号表示を書き直す。n=2の場合には、この式は、円の方程式に他ならない。

 次に、有理数あるいは実数の範囲にある数の体系を複素数まで広げ、n=2の場合のフェルマー方程式の解を複素数まで拡張することにする。複素数は、a,bを実数、iを虚数単位とすると、a+ibの形式で表現できる。

 (x,y)を実数の組とすると、円の方程式x^2+y^2=1は、y=SQR(1-x^2)となり、SQRの先頭には+と-の両方の符号がつく。f(x)=1-x^2を因数分解すると、(1+x)(1-x)であるから、2次方程式f(x)=0の解は1と-1であり、実数である。よってf(x)=0の解は2つの実数が揃っているので、これらが解のすべてであり、複素数の解は存在しない。

 nが3の場合のフェルマー方程式は、x^3+y^3=1である。この式を満足するいくつかの実数の組(x,y)をプロットしながらこのフェルマー曲線を描いてみる。この曲線は、直線y=-xより上位にあり、直線y=xに関して対称であって、y=-xに漸近する。

 楕円曲線y^3-x^3=1について、この式を満足するいくつかの実数の組(x,y)をプロットしながらこの曲線のグラフを描いてみる。この曲線は、直線y=xより上位にあり、直線y=-xに関して対称であって、y=xに漸近する。

 この楕円曲線に関し、x軸を直線y=xに一致させるような回転、すなわちx軸をパイ/4回転させるような座標変換をする。曲線y^3=x^3+1を変換後の座標で記述すると、x^3+y^3の結果に一致する。つまり、ここで挙げたフェルマー曲線は、対応する楕円曲線に一致することが分かる。

 y^3=x^3+1の式を楕円曲線の標準形式に書き直すと、y^2=x^3+rの形になる。ここで実数の変数(x,y)を複素数の変数(z,w)に置き換えると、w^2=z^3+r(r<0)となる。よってw=SQR(z^3+r)となるが、wは実数ではなく複素数であるので、SQRは正とは限らず負にもなり得るのであり、SQRの先頭には+と-の両方の符号がつく。

 zは複素数なので、関数w=SQR(f(z))は複素平面C上の点としてプロットできる。楕円積分をする場合に、点z=0の周りを一周するような閉曲線を描くと、SQR(f(z))の符号が変わるので、z=0は分岐点と呼ばれる。

 f(z)=z^3+rは、3次多項式なので、a,b,cを実数とすると次のように因数分解できる。
   f(z)=(z-c)(z-c(a+ib))(z-c(a-ib))
ここでr=-c^3(a^2+b^2); a^2+b^2=1; a=-1/2である。

 f(z)=0の3根をa1,a2,a3とすると、これら3点のうちの少なくとも1点の周りを一周するような閉曲線を描くと、SQR(f(z))の符号が変わる場合があるので、これら3点も分岐点である。

 2次元球面S2上に北極点を設ける。S2上の各点と北極点とを結ぶ直線は、北極点自身を除いて複素平面C上にその点の像を1対1対応に射影する。そうすると、北極点を無限遠点とみなし、Cに無限遠点を加えれば、S2とC上の各点は完全に1対1対応の空間になるだろう。このように設定されたS2は、リーマン球面と呼ばれる1次元複素多様体をなす。定義域が無限大を含む場合と、有限の場合とで複素数の演算方法が異なるので、便宜的に2つのリーマン球面を用意し、場合によってリーマン球面を使い分けるのが便利である。これによって一方のリーマン球面はzを変数とする関数fが展開できるような座標系となり、他方のリーマン球面はzの逆数を変数とする関数fが展開できるような座標系となる。

 x=0の分岐点をa0とする。2つのリーマン球面の一方に点a0,a1,a2,a3を設定し、他方のリーマン球面に(a0,a1,a2,a3)の逆数(1/a0,1/a1,1/a2,1/a3)を設定する。ただし後者のa0を無限大とみなす。

 参考文献に習って2つのリーマン球面を貼り合わせることにする。一方のリーマン球面のa0とa1の間、a2とa3の間に切れ目を入れ、他方のリーマン球面の1/a0と1/a1の間、1/a2と1/a3の間に切れ目を入れ、両方のリーマン球面を貼り合わせると、トーラス(ドーナツの表面)が出来上がる。これが楕円曲線と呼ばれる1次元複素多様体である。

このトーラスが2次曲面でありながら「曲線」と呼ばれる理由は、関数fの変数として複素数を一つだけ使うからである。

 y^3=x^3+1のように楕円曲線を実数の範囲で考えているときにはトーラスの形状は見えないが、(x,y)の代わりに複素数を使うことによって楕円曲線の全貌ともいうべき風景が見えてくるのである。基本的原理として、3次方程式は複素数体において3つの根をもつのであるから、実数解のみを考慮するのは不自然であり、複素数を考慮した幾何学こそ自然の理に適っていると言うべきである。

 参考文献
 武部尚志著「楕円積分と楕円関数」(日本評論社)
 栗原将人著「ガウスの数論から現代数学へ(3)」(数学セミナー2022.04)
 宮崎弘安著「数理の窓から世界を読みとくー第1章「数のふしぎ」のその先へ」(岩波ジュニア新書)