ある取引が利益相反取引に該当するかしないかの判断はそれほど難しいことではないと思いますが,その取締役が特別利害関係人になるのか,ならないかの判断は困難を極めます。参考文献を元にまとめてみました。実務の参考になれば幸甚です。
1 取締役が,自己または第三者のために会社と取引をする場合は利益相反取引と なり,取締役会非設置会社の場合は,株主総会の決議(356条)が,取締役会 設置会社の場合は取締役会(365条)の決議が必要になります。対象となる取 締役は,代表取締役だけではなく,全ての取締役です。
2 取締役会においては,会社と利益相反取引を行う取締役および間接取引により 利益を受ける取締役は,特別利害関係を有する取締役として,取締役会の議決に 参加することができません(369条)。
3 例えば,甲会社の取締役Aが,甲会社所有の不動産を購入するという様な直接 取引の場合は,Aが利害関係人になることについては,争いがありません。
4 それでは,甲株式会社が債務者となり,乙会社がその物上保証兼連帯保証人と なる根抵当権設定申請事件の場合,甲株式会社の取締役全員と乙株式会社の取締 役全員が同一人であるときは(但し,代表取締役は同一人ではない),取締役全 員もしくは代表取締役が特別利害関係人となるのではなかという疑問があります。 もし全員が特別利害関係人となれば,会社法365条の承認決議ができないとい うことになります。
5 上記3の事案について,乙会社が,取締役会の構成員を同じくする甲株式会社
のために抵当権を設定するには,取締役会の承認を要するが,各取締役は有効に 議決権を行使することができるとしています。(昭和41年民事甲第1877 号民事局長回答)
すなわち,「利益相反となるのは,乙会社の自身の行為であって,取締役個人と 甲株式会社との間には直接の利益相反行為はないのであるから,取締役が乙会社 の行為によって経済的利益を受けることがあったとしても,これをもって商法2 60条の2に定める特別名利害関係があるとみることは適当でないように思われ る」(不動産登記先例解説総覧792頁)。このように,登記先例では,会社間の 取引に関しては,取締役は特別利害関係人に該当しないとしています。
6 さらに,(不動産登記のQ&A200選)では,「代表取締役を同じくする甲会 社・乙会社間で不動産の売買契約をする場合に,取締役会においてその代表取締 役Aは議決権を行使することができますか」との質問に対し「Aは特別利害関係 人に該当しないと考えます。なぜならば,本問の不動産の売買契約は会社間の取 引であり,A個人が利益を得ることはないからです」と解説しています。
7 ただし,実務家の中には,子会社が銀行から融資を受けるに当たり,親会社(親 会社も子会社も代表取締役はAである)がその連帯保証人場合,Aは特別利害関 係人に該当すると考えている人もいます(利益相反の判断と処理の実務200頁, 新日本法規出版)
参考文献
1 不動産登記先例解説総覧(テイハン)
2 不動産登記のQ&A200選(日本法令)
3 利益相反の判断と処理の実務
4 「利益相反取引の実務」(新日本法規)
参照条文
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引に つき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしよ うとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
(以下,省略)
(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第三百六十五条 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用について は、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
(以下,省略)
(取締役会の決議)
第三百六十九条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(こ れを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その 過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をも って行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることがで きない。
(以下,省略)
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