根抵当権の確定登記を依頼され,色々調べてみると既に抵当不動産に滞納処分による差押がなされているとか,抵当権設定者(又は債務者)が破産手続開始の決定を受けて既に根抵当権の元本が確定しているときにどうすればいいでしょうか。
1 民法には,根抵当権の元本確定事由が幾つか規定されていますが,不動産登記 法93条の規定により,根抵当権者が単独で元本確定登記ができるのは,次の三 つの場合です。
(1) 根抵当権者が元本確定の請求をしたとき(民法398条の19,2項)
(2) 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押があったことを知った時から2週間を経過したとき(民法398条の20,1項 3号)。
(3) 債務者又は根抵当権設定者が破産手続きの開始決定をうけたとき(民法398条の20,1項4号)。
2 上記3つの内,(2)と(3)は不動産登記法93条但し書きに規定により,元本確 定登記は,例えば根抵当権移転登記のような,この根抵当権またはこれを目的とする権利取得の登記と同時でなければすることができません。これは,根抵当権の確定事由である上記(2)と(3)場合は,後日その効力が消滅する可能性があるから,元本が確定したものととしてその根抵当権またはこれを目的として権利を取得した者を保護するためと考えるのでしょう。
3 では,根抵当権設定者が破産手続開始決定を受けた後に,民法398条の19 2項により,根抵当権者から根抵当権設定者に対してなされた元本確定請求を登 記原因として根抵当権者からなされた元本確定登記はできるのでしょうか?
4 登記研究706号の『カウンター相談』では上記3の元本確定登記は,次の理由によりできると回答しています。
(1) 根抵当権設定者が破産手続き開始決定を受け,既に元本確定の効果が生じている以上,破産手続きの開始決定後の根抵当権者による元本確定請求を原因として元本確定の登記をすることは,実体と登記の間にそごが生じことになるので相当ではない,とする考えもある。
(2) しかし,破産手続きの開始決定により元本確定の効果が生じているにもかかわらず,根抵当権等の権利取得の登記等を併せて申請することができずに元本確定の登記を申請することができない場合には,根抵当権の処分の登記がきなくなるという不都合が生じる。
(3) むしろ,破産手続き開始決定後になされた元本確定請求に基づき元本確定の登記ができることとしてこの不都合を回避した方が,民法398条の19,2項の趣旨に合致すると考える。
(4) さらに,実体とのそごが生じるとしても,元本確定の登記は第三者に対抗するものではなく,根抵当権の元本が確定したという事実を公示するにすぎないので,これにより実体上何らかの不都合が生じることも考え難い。
5 信用保証協会等が根抵当権者に対して代位弁済をする場合も,先ず根抵当権の確定登記をし,その登記がなされたことを確認してはじめて代位弁済をするので,根抵当権確定の日が同一でないということには若干の違和感がありますが,極めて実務的な考えだと思います。
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