「養子縁組さえしておけば単純な相続だったのに」,と悔しくなる事例に時々遭遇します。
1 山男さんは,海子さんと結婚し,太郎が生まれましたが,数年後海子さんは病 気で亡くなりました。→海さん死亡。
2 それから数年後,山男さんは,花子さんとめぐり逢い愛し合うようになり,二 人は結婚しました。太郎君も花子さんを「お母さん」と呼び,三人は仲良く暮らしました。
3 それから十数年,太郎君も好きな人を見つけて結婚し,独立しました。
4 それから数十年後,山男さんが亡くなりました(第一の相続)。山男さんは, 山男さん名義の土地建物を 残しました。その建物には,山男さん亡き後も花子さ んが住み続けましたが,土地建物の名義変更はしませんでした。
5 それから数年後,花子さんも山男さんの後を追うようにして亡くなりました(第 二の相続)。太郎さんは,山男さんと花子さんが結婚して以来,花子さんのこと をずっと「お母さん」と慕い,また花子さんが亡くなるまで生活の面倒を見てき ました。一方,花子さんは,その兄弟姉妹とは数十年間,音信不通でした。
6 花子さんが亡くなってから数ヶ月後,太郎さんは土地建物の名義変更をしよう と司法書士事務所に行って,誰が梅子さんの相続人になるかということを知りま したが,それは到底納得のいくものではありませんでした。
第一の相続である山男さんが亡くなった時の相続人は,花子さん(2分の1) と太郎さん(2分の1)であること。
第二の相続である花子さんが亡くなった時の相続人は,花子さんの兄弟姉妹で, 太郎さんは相続人になれないこと。
したがって,土地建物の名義変更をするためには,太郎さんは一面識もない花 子さんの兄弟姉妹と遺産分割協議をしなければならないこと。
7 民法は相続人に順位を付けていて,被相続人の子が第一順位,直系尊属(両親 等)が第二順位,兄弟姉妹が第三順位で,配偶者(妻または夫)は常にこれらの 相続人と同順位で相続人になると規定しています。
太郎さんは,花子さんとは仲の良い義理の親子ではありましたが,花子さんと 養子縁組をしていなかったので法律上の親子にはなっていませんでした。だから 花子さんの相続人になれなかったのです
8 もし太郎さんと花子さんが養子縁組をしておけば,花子さんが死亡した時の相 続人は太郎さん一人だったので,遺産分割協議は必要なかったのです。
太郎さんからお訊きしたところによると,花子さんはなくなる直前まで,判断能 力はしっかりしていたそうです。ということは,花子さんが亡くなる少し前にでも相談に来ていたら,もっとシンプルな相続になっていたのに……