犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

今年の漢字「絆」

2011-12-23 00:06:18 | 言語・論理・構造
12月19日  朝日新聞朝刊 読者投稿欄  
「今年の漢字『絆』に思い複雑」 (福岡県・27歳・医師)
  

 今年の漢字は「絆」。日本漢字能力検定協会の恒例の公募で、東日本大震災やなでしこジャパンの勝利などから連想されたという。

 予想はしていたものの、私は少し違和感がある。東日本大震災の大津波で1万5千人を超える命が奪われ、約3500人がまだ行方不明だ。(中略) 1年間の世相として、「絆」の字を選んだことは、痛いところから目を背け、口当たりのよい言葉を追いかけた結果ではないだろうか。

 今年の漢字が始まったのは阪神大震災が起きた1995年だ。その時選ばれた字は「震」だった。1月に起こった大震災がみんなの脳裏から離れなかったのだと、今も思う。あれから16年。この国は弱く、軽くなったように感じられてならない。


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 被災地のドキュメンタリー番組で、子どもを亡くした親や、行方不明の子どもを捜し続ける親の姿を目にします。実際に亡くなった人数に比べれば、テレビでの放映自体が少ないですが、それでもそのような親の姿を目にしてしまえば、私は言葉を失います。そして、自分の心を正直に記述してみれば、私は一瞬「見ていられない」「目を逸らしたい」と思います。世間的な反応としては、チャンネルを変える人も多く、視聴率は上がらないというところだろうと思います。

 「絆」という単語が本来の位置に収まるとすれば、それは死を受け入れないことによって絆が証明され、行方不明者を捜し続けることの中に絆がある、と言うしかないと思います。このように考えることによって、初めて偽善性が消失するからです。街が復興したとしても、その街にいるべき人がいなければ何もかもが虚しいと感じるとき、それが人の絆の証明です。間違っても、天国から復興を見守っているのが絆だ、といった生易しい話ではありません。

 今年の漢字として選ばれた「絆」は、その周辺で語られる言葉を聞く限り、マスコミの空気によって作られた出来レースの結果であり、軽い意味しか込められていないように感じます。もちろん、漢字そのものには良いも悪いもなく、「絆」という単語に恐ろしい意味を読み取ることも可能ですが、明るくポジティブな解釈が与えられてしまえば、国民としては逆らいようがないように思います。

 痛いところから目を背けないとすれば、今年の漢字としては、「滅」「壊」「消」「流」「失」「潰」「倒」などの候補が沢山あります。このような漢字を選べなかったことが、この国が弱く軽くなったことを表わしているように思います。投稿者に同感です。

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2 コメント

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なるほど (レーズンサンド)
2012-01-04 11:41:02
いつもスルドイものの見方を教えてもらっております。
一昨年あたりから感じているのは、いったいこの「今年の漢字」なるものは何なんだということです。
そもそも、一年間を一つの字におさめようとすること自体、何か無理があるんじゃないか。もちろん、言葉や文字の持つ「力」を意識した上で、そう思います。
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レーズンサンド様 (某Y.ike)
2012-01-09 02:04:51
ありがとうございます。
以前の「金」「帰」「偽」あたりは上手いなと思いましたが、ここ数年はネタ切れというか、無理矢理感が強いですね。
一昨年の「暑」などは、最近の夏は毎年暑いですし、社会風刺にもなりませんし、12月には季節外れですし、評判が悪かったと思います。
かと言って、他に良い漢字があるわけでもなく、「無理に選ばなくてもいいのに…」という感じがしました。
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