犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

姜尚中著 『日本人はどこへ行くのか』より

2012-10-13 00:02:18 | 読書感想文

p.166~

 日本を取り囲む東北アジア地域の国際関係は、さほど遠くない将来に構造的な変容をこうむる可能性が高い。とくに戦後の日本外交に残された宿題である日朝交渉の動きもからんで、朝鮮半島の平和と統一に向けた展開は、重大な局面を迎えることになるかもしれない。「一衣帯水」の関係にあると言われながら、「近くて遠い」関係にあった隣国のドラスティックな変化は、日本の進路を左右するほどのインパクトを与えることになるのではないか。

 日本の果たすべき役割は、朝鮮半島の平和と統一に向けて積極的な多国間調整の場を提供し、南北間の自主的な対話を促進するような関係諸国との交渉の連絡役をかって出ることである。さらに朝鮮半島の安定と平和的な統一への歩みを足がかりに、そこでつちかわれる多国間の信頼関係を東北アジア地域の軍備管理と軍縮へとつなげ、そのような安全保障の枠組みの中で日本の平和と安全のあり方を構想していくことが望ましいであろう。

 おそらくそれこそが、日本にとって名実ともに冷戦からの脱却を意味しているはずである。その意味では「冷戦の孤島」と言われる朝鮮半島の脱冷戦への胎動は、日本の冷戦体制からの脱却を誘発することになろう。そのとき、日米安保も米韓相互防衛条約もその役割を終え、米国の東北アジアにおける存在はこれまでとは違った意味をもたざるをえないであろう。


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 上記は平成3年(1991年)4月の文章です。未だ拉致問題も判明せず、韓流ブームなど想像もつかない頃のものです。姜氏がこの本の前書きで述べているとおり、数ヶ月前の出来事すら凄まじい速度で忘却の彼方に消えていく現代の時間の生理からすれば、上記の文章は過去の遺物だと思います。

 竹島をめぐる問題について、なぜ朝鮮半島を論じる文化人はこれまで触れてこなかったのか、私には素朴な疑問がありました。本書の全般を通じて、「竹島」という単語は1ヶ所も登場せず、領土の問題は植民地支配による侵略の問題とイコールにされていることに気がつきました。竹島などという小さな島は、あえてそこから目が逸らされたわけではなく、純粋に存在が無視されていたのだと思います。