むかし、男が、すげない女(「つれなかりける人」)のもとに歌を贈った。
「いえばえにいはねば胸にさわがれて心ひとつに嘆くころかな」
口に出して言おうとすれば言えず(「いえば得に」)、言わなければ胸のなかに思い乱れて、私の心の中だけで(「心ひとつに」)嘆くばかりのこのごろだ。
男は面目もなく恥を忍んで(「おもなくて」)言ったのだろう。
《感想1》在原業平は貴種(天皇の孫)であり浮名も大層流す有名人だ。反感を持つ上流の女性も少なくなかったのだろう。「第31段 よしや草葉よ」では「身分の高い女房」が「しゃあしゃあと栄えている草葉め、のちにどんなひどい姿になるか、お前の本性を見てやりましょう」と言っている。「なんと憎らしい男だ」と評する女(「ねたむ女」)もいる。
《感想2》業平は自分を「憎らしい」と思いすげなくする女(「つれなかりける人」)に対しても純情だ。男(業平)は面目もなく恥を忍んで(「おもなくて」)、あなたを好きですと伝える歌を贈った。女からの返事はあるはずもない。業平は、貴種のプレイボーイなのに、チャーミングだ。
「いえばえにいはねば胸にさわがれて心ひとつに嘆くころかな」
口に出して言おうとすれば言えず(「いえば得に」)、言わなければ胸のなかに思い乱れて、私の心の中だけで(「心ひとつに」)嘆くばかりのこのごろだ。
男は面目もなく恥を忍んで(「おもなくて」)言ったのだろう。
《感想1》在原業平は貴種(天皇の孫)であり浮名も大層流す有名人だ。反感を持つ上流の女性も少なくなかったのだろう。「第31段 よしや草葉よ」では「身分の高い女房」が「しゃあしゃあと栄えている草葉め、のちにどんなひどい姿になるか、お前の本性を見てやりましょう」と言っている。「なんと憎らしい男だ」と評する女(「ねたむ女」)もいる。
《感想2》業平は自分を「憎らしい」と思いすげなくする女(「つれなかりける人」)に対しても純情だ。男(業平)は面目もなく恥を忍んで(「おもなくて」)、あなたを好きですと伝える歌を贈った。女からの返事はあるはずもない。業平は、貴種のプレイボーイなのに、チャーミングだ。