宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『借金取りの王子―君たちに明日はない2―』垣根涼介(1966生)、2007年、新潮文庫

2012-07-04 00:55:40 | Weblog
File 1. 二億円の女
    1 村上真介と野口係長
 村上真介は、リストラ請負会社『日本ヒューマンリアクト(株)』の社員。
 南急百貨店の外商部、51歳の係長、野口治夫の面接。自己都合退職を勧める。
 野口は同僚たちからは嫌われている。
 辞職勧告に従えば退職金は2700万円で規定の2倍。「新しい外の世界にチャレンジされるのも一考です」と真介が述べる。
    
    2 倉橋なぎさ
 倉橋なぎさは南急百貨店、個人外商部第3課の32歳。今日が“クビ切り面接”の日。
 なぎさは10年前に早稲田出の新卒として入社。研修期間中、50代のパート社員に「頭はいいのかもしれないけれど」と陰口。一つ年上の意地悪な先輩もいた。
 研修後、外商部に配属。外商部は全員が正社員。40代、50代のオジサンたちが大事にしてくれる。営業目標が基ごとに上乗せされていく。8年目には2億円。「もう疲れた」となぎさは思う。
 3期上、35歳の先輩、鳴沢は、かつて野口係長(『がきデカ』)の尻拭いで大変だった。
 しかしなぎさは、野口係長に、助けてもらったことがある。彼が、おばさんたちのいじめから救ってくれた。

    3 芹沢陽子:村上真介が今の彼氏
 芹沢陽子(42歳)は、8歳年下の村上真介が、今の彼氏。首切り請負会社の真介と面接で出会った。真介は優しい。
 真介は、陽子の意地のはり方が、とてもかわいいと思う。
 陽子は、建材メーカーから、『関東建材業協会』の事務局へ2週間前に転職。事務局長になる。建設会社の業界団体で、社長たちを相手にする。

    4、5 真介:倉橋なぎさと“リストラ面接”
 真介が、倉橋なぎさを“クビ切り面接”。倉橋は個人外商部員60人のトップ。30歳で外商実績、年2億。夢見る夢子ちゃんの「オヤジ転がし」の顔。
 倉橋なぎさは、「私の人生、何なのだろう?」と思う。8年間、独り身。仕事だけ。「私、辞めます」となぎさ。
 真介はあわてる。南急百貨店側は、倉橋なぎさを辞めさせる気はない。形式的にリストラ面接をやるだけのはずだった。
 できる人間ほど、会社を自ら辞めていこうとする。会社を辞めても生きて行けるから。

    6 倉橋なぎさ:セールスマネジャーへ昇進
 なぎさは優良顧客データを持っているので転職先はいくらでもあった。
 “リストラ面接”は立ち消えになった。
 しかしなぎさは辞めたくて、課長に辞表を提出。
 人事部長が、「見返りもあるのだと示さないと、リストラばかりでは、外商部の士気が下がる」と言う。
 倉橋なぎさは、婦人服販売部プレタポルテ課セールスマネジャー(売場責任者)となる。部下5人(正社員3人、パート2人)、さらに契約社員4人。

   《評者の感想》
 倉橋は、30歳で外商実績、年2億。
 しかし、倉橋なぎさは、「私の人生、何なのだろう?」と思う。8年間、独り身。仕事だけ。“リストラ面接”で、「私、辞めます」となぎさ。
 彼女は、できる人間。できる人間は、会社を辞めても生きて行ける。
 なぎさは優良顧客データを持っているので、転職先はいくらでもあるという。
 しかし、人事部の立場から、「見返りもある」ことを証明するため。倉橋なぎさは、セールスマネジャー(売場責任者)となり、出世。
 ここで描かれたのは、仕事ができる者の悩みかな?

File 2. 女難の相
    1、2 松本一彦:生命保険会社の営業所・外交部長時代にドロップ・アウト
 真介は、生命保険会社の“リストラ面接”を行う。
 松本一彦、36歳。真介より1歳、年長。東北大卒。
 外資系生保との競争で、総合職男性のリストラ。
 この保険会社の職員8万人のうち、セールスレディが5万人。他が、総合職、一般職、外交部長職(営業所の外交部長)、保険外交職。
 松本は入社後、5年間、ヒラの間に、証券アナリスト、司法書士の資格を取る。6年目、主任。
 松本、8年目30歳で係長=北九州営業所の外交部長となる。普通、外交部長職を5年こなし、本社の中枢部門へ移る。
 ところが2年目に、松本が突然、移動願を提出。係長のまま、本社のシステムネットワーク開発部門へ。自ら出世コースから降りた。
 北九州営業所の外交部長時代、松本は、保険外交員とうまくいかなかった。
 今回、真介とのリストラ面接で、松本に示された自主退職の条件は、いい。通常の2倍、1600万円の退職金。

    3 派遣社員の田中:「会社を辞めたからって死ぬわけじゃない」
 システムネットワーク開発部門の派遣社員の送別会。主賓は派遣社員の田中明、36歳。松本一彦と同年齢。
 松本一彦は田舎の分校出身。東北大文学部へ進学。大学3年の秋、1歳年長の杏奈に手玉に取られ、笑い者にされる。女難。
 松本、生保に入社。最初の5年は順調。総合職の同期の2割が辞める。
 松本、8年目30歳で係長=北九州営業所の外交部長となるが、女性恐怖症で、自己嫌悪・不眠・体重減少・ノイローゼで1年後、出世コースから脱落。
 昨年の7月、松本一彦の開発チームに、派遣社員の田中明が来る。仕事が格段にできるが、マイペースで勤務態度が悪い。
 「会社を辞めたからって死ぬわけじゃない」と田中が、松本に言う。

    4、5、6 松本が会社を辞める:「まあ、今後のことは、ゆっくり決めよう」
 生命保険会社の“リストラ面接”の2回目、真介に対し、松本は「辞めることにしました」とあっさり告げる。別人のような自信ある態度。心境の変化か?
 松本は、貯金が退職金を含め3000万円ある。世界旅行だってできる。田中から、宿泊企画のサイト立ち上げの勧誘もあった。
 「まあ、今後のことはゆっくり決めよう」と松本。

   《評者の感想》
 松本一彦は、独身。貯金が退職金を含め3000万円ある。
 「会社を辞めたからって死ぬわけじゃない」と松本は、今思う。
 「今後のことはゆっくり決めよう」との松本の気持ちに同感。
 彼は東北大卒であるし、中途就職も可能だろう。

File 3. 借金取りの王子
    1 三浦宏明:消費者金融『フレンド(株)』のやる気のない店長
 消費者金融『フレンド(株)』のリストラ。
 消費者金融は本来、離職率が高い。貸付・回収業務の数字による締め付け。それなのになぜ、リストラか?
 風紀・モラルに問題のある店長を辞めさせ、マスコミにたたかれないため。Ex. 女癖の悪い上司。Ex. 支店経費で飲む・打つ・買う。Ex. 融資枠を緩め、支店経費を使い女の客に手を出す。
 真介の“リストラ面接”の相手は三浦宏明。30歳、渋谷店の店長。
 三浦は慶応卒。貸付の分野で、コンスタントに優秀な成績。しかしすぐに店長にはならなかった。
 今、渋谷店の店長を降格されないよう、三浦は、3ヶ月に1回のみ、店舗目標を達成。やる気のない店長。リストラ対象となる。
 三浦は、27歳で結婚。

    2 三浦の最初の配属先、小岩1号店:店長が池口美佐子:
 渋谷1号店で、店長の三浦は人気がある。「ヒロちゃん、ファイト!」と社員が声をかける。
 三浦宏明は8年前、高給にひかれて慶応卒業後、消費者金融『フレンド(株)』に入社。3年で家が建ち、30歳までに借金が完済できると言われる。
 最初に、新入社員の軍隊式合宿。指導員は成績優秀店の店長。1週間の合宿で800人のうち50人が脱落。
 三浦はまず、小岩1号店に配属される。店長が池口美佐子。和気藹藹とした職場。店長の人柄。
 池口は中学生の頃からヤンキー。17歳で『フレンド(株)』に入社。仕事ができれば、男女差、学歴は関係ない。実際、店長の半数が女性。
 池口は、三浦が好男子なので「王子」と呼ぶ。
 回収では、池口がアパートのドアを蹴飛ばし、40歳のギャンブル狂の男から、2か月分の利息を回収してみせる。
 風俗嬢に王子は人気で、貸付の分野で好調。彼女らは王子が苛められたらかわいそうと、返済期限を守る。
 宏明は、回収が苦手。
 本部からは店長の池口あてに1時間おきに「数字を上げろ」と、罵倒の電話。

    3 渋谷1号店の店長、三浦宏明:真介のリストラ面接を受ける
 真介が、渋谷1号店の店長、三浦宏明と自主退職をすすめるリストラ面接。
 三浦は部下に好かれている。彼の年収は1200万円。彼は部下を叱咤・追い込みはしない。

    4 三浦:秋葉原2号店の店長となる
 「妻に、リストラ面接のことを話そうかと思う」と三浦が、真介に言う。
 三浦は、本社から、店長になることを進められるが、小岩1号店、池口店長の下で働きたいと残る。
 他の支店では、社内不倫で雰囲気が最悪の所もある。
 自分より1歳年下の店長へと代わり、三浦も秋葉原2号店の店長となる。

    4-2 店長研修:新宿東口店店長・池口への攻撃
 店舗の月ごとの数字に達しないと、“店長研修”が行われる。店長は年収1000万円。店長研修では“相互の意識変革”と、店長たちを罵倒させあう。
 新宿東口店店長・池口への攻撃。罵倒することを迫られた三浦が「僕には言えません」と拒否。
 池口は、1ヵ月後、『フレンド(株)』を辞める。

    5 渋谷1号店の店長、三浦宏明:真介のリストラ面接(続)
 三浦の妻は、歩合で、年収1200万円を稼ぎ出す。
 「奥さんと相談してください」と真介が言う。

    6 宏明と美佐子:結婚する
 5年前、池口の辞職のあと、宏明が、小岩に住む池口に会いに行く。池口は児童公園のブランコに座っていた。「俺と結婚してくれませんか?」と宏明。
 「8ヵ月、待って!」と池口。「その間はいっさい、連絡を取らないでほしい!」との申し出。
 宏明が、8ヵ月後、会いに行く。池口は自動車会社の販社の歩合制営業マンになっていた。
 三浦は沼津の両親を説得する。「4つも年上なのか」と母親。「金貸しだろう」と父親。しかし両親と池口美佐子が会い、OKを取る。
 宏明と美佐子が一緒に住み始める。
 「一生、宏明を食べさせて行く」と美佐子が宣言。「今、年収1200万円」と、美佐子。
 
    6-2 「もう十分に働いた。田舎に移ろう!」と美佐子
 28歳で、宏明、渋谷1号店の店長になる。
 宏明は、しかし、自分の能力の限界を感じる。
 宏明がリストラ面接のことを美佐子に話す。すると、「1年前から、事情、分かってた」と美佐子。
 「二人で4000万円あるから、田舎に移ろう」と美佐子。「もう十分に働いたよ」と言う。
 「生きてて良かったと思ったことが、2度ある」と美佐子が言う。「ひとつは、ヒロが児童公園に来たとき。もうひとつは、8ヵ月後、本当にヒロが来たとき。」と。

   《評者の感想》
 消費者金融業界の過酷な勤労条件が、よくわかる。
 本社スタッフになれば、楽になる。
 しかし宏明は疲れた。美佐子も、少しのんびり生きたい。
 中学生の頃からヤンキーだった美佐子は、今は、どこでも優秀な営業マンとして生きて行ける。人柄もいい。こういう人が、いたら理想的。
 宏明の純朴な性格も、いいが、こういう人が、本当にいるのかなと思う。

File 4. 山里の娘
    1、2 ホテル常盤屋・岩村荘の客室係:窪田秋子
 観光企業の人員削減のしわ寄せ人事で、ホテル常盤屋・岩村荘の客室係、窪田秋子、25歳のリストラ面接を行う。
 常盤屋・岩村荘は、流行っているホテルで、窪田秋子は、仕事ができる上、何の不満もない。

    3、4 本当に満足の行く人生とは何か?
 今回、窪田秋子が退職すれば、入社7年目で、退職金300万円。通常の倍になる。
 本当に満足の行く人生が何かは、本人にしか、わからない。

    5 人生が、地元で終わっていいのか?:秋子
 秋子は、高校を卒業してすぐ、ホテル常盤屋・岩村荘に勤めた。
 しかし、今、秋子は25歳。人生が、地元の世界のままで終わっていいのか?
 東京に出て、地ビールレストランに勤める友達から、来て一緒に働かないかと誘われている。

    6 ここで暮らすのもいいのかもしれない:秋子
 村上真介が、北海道の田舎出身と、偶然、秋子は知る。真介が「田舎に帰ってもいいかと思う」と秋子に言う。
 秋子は、「ここで暮らすのもいいのかもしれない」と思う。「東京は憧れだから、いいと思うのだ」と秋子。

   《評者の感想》
 山里の娘の決断は正しいのか?
 有能な客室係なのだから、東京でもきっと、うまく働けるはず。
 一度は、東京に出ても、いいのではないかと思う。
 勤務先が見つかるかどうかが、東京でも、田舎でも最大の問題。著者には、この点についての考察が欠けている。

File 5. 人にやさしく
    1、2、3 関東建材業協会の事務局長、陽子:真介に派遣社員を依頼。
 人材派遣業&有料職業紹介業部門のチーフに、真介がなる。人材派遣部統括チーフ。
 リストラした人材の受け皿。
 再就職支援制度もととのったリストラ代行会社、『日本ヒューマンリアクト(株)』。真介は、これまでのクビ切り者のリストを作成。
 関東建材業協会の事務局長、芹沢陽子(42歳)が、恋人の真介に、派遣社員一人を依頼。「協会員の社長さんたちの相手をするので、人あしらいがうまく、不動産・建設関係のキャリアがある女性がほしい」と陽子。
 『日本ヒューマンリアクト(株)』社長の高橋が、真介とともに、協会を訪問。つながり営業のため。
 
    4、5、6、7、8、9 「真介は、あたしを、分かっている」と陽子
 10年前に離婚し、今は独り身の高橋は。陽子に気がある。
 新派遣社員は、「陽子と衝突しないように、仕事はきちんとするが、わざと頼りない者を選んだ」と真介。陽子は、この派遣社員を採用。
 陽子は、社長の高橋が気になっている。
 陽子は、「でも、真介がいい。この男は、あたしを、分かっている」と思う。

   《評者の感想》
 男と女の関係で重要なのは、相手のことが、互いに分かること。
 確かに、その通りだろう。
 人間とは、実に面倒くさいものである。しかし、人でなしの国に生きていないのだから、面倒くさくても、一緒に生きて行くしかない。
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