宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『限りなく透明に近いブルー』村上龍(1952生)、1976年、講談社文庫

2011-08-26 23:46:54 | Weblog
 Ⅰ-0
 美術大生の僕、リュウはリリーと住む。リュウ、20歳の頃。1972年頃の横田基地周辺が舞台。
 リリーはストリップのダンサー。リュウに優しい。
 Ⅰ-1
 ヒロポン、モルヒネ、ヘロイン、ハシシ、マリファナ、ニブロールなど薬物中毒の世界。
 Ⅰ-2
 レイ子は沖縄出身。黒人と日本人との混血。日本国籍。中学生の頃、葉脈標本を作ったのが楽しい思い出。レイ子はオキナワと同棲する。
 モコ(日本国籍)は万引きがひどい。モコは黒人の匂いがする。
 カズオは写真家志望。いつもカメラを持つ。カズオはマラルメの詩集を読む。
 Ⅰ-3
 ヨシヤマとケイは同棲する。
 ヨシヤマは母親が富山の薬売り。しかし母親が最近、死んだ。
 ケイは黒人と日本人との混血(日本国籍)。ケイは自分を「アタイ」と呼ぶ。母親が自ら「アタイ」と言っていたという。
 Ⅰ-4
 リュウは米軍基地の黒人兵士の薬物・乱交パーティーにモコ、ケイ、レイ子を派遣し収入を得る。
 三人の女性はパーティーを遊びの場と考えて、すすんで加わる。
 Ⅰ-5
 パーティーは高円寺で開かれる。
 サブローは黒人と日本人の混血児でペニスが最大。
 パーティー参加者は他に、黒人のボブ、ジャクソン、オスカー(すべて米兵)。
 黒人ジャクソンはMPからにらまれている。
 黒人ボブの愛人がタミ。タミの兄さんはヤクザで怖いとのこと。
 パーティーでリュウは女装させられジャクソンの相手をする。ジャクソンが「リュウ、お前は黄色い人形だ」と言う。
 パーティーには黒人女、肥った白人女もいる。
  
 Ⅱ
 リュウは記憶の中で合成写真を作る。世界のすべてのものからなる宮殿をつくる。あるいは自分のための遊園地を作る。
 メスカリンでラリッたリリーが車を運転、リュウとともにトマトと海の白昼夢の中を暴走。学校のプールに飛び込む。
 《評者注1》:危険な自己中心の暴走行為。プールへの住居侵入罪。
  
 Ⅲ
 パーティーはあまりのうるささに近所から通報され警察官3人が全員を検挙。しかし保安係でないので警察官が薬物に気づかない。最年長のヨシヤマが始末書を書き全員、解放される。「馬鹿な警察官だ!」と彼らが嘲笑する。
  
 Ⅳ
 日比谷野音のロックのコンサートに、その後、彼らが出かける。
 リュウは知り合いのメイルという男と会う。
 リュウは言う。「横田基地の黒人といると面白い。あいつらすごい。酔ってふらふらでも抜群のサックスを吹く。」
 メイルが「もう田舎に帰る」と言う。メイルはシューマンを弾く。
 リュウもピアノを弾く。
 「もう二十歳になる。こんな汚らしい生活とはおさらばしたい」とメイル。
  
 Ⅳ-2
 ロック・コンサートへ塀を乗り越え進入したカズオの脚を、釘を埋めこんだバットで殴ったガードマン。
 このガードマンをヨシヤマたちがつかまえ、リンチする。混血のヒッピーがガードマンの左腕を折り、ブラブラにする。
 《評者注2》:ガードマンは悪質である。リンチがまた、凄惨・悪質。
  
 Ⅳ-3
 すでに酒に酔い嘔吐し、またニブロールに酔ったヨシヤマが帰りの電車内で、無関係の女性のブラウスを裂き、抱きつく。女性が走って逃げる。
 ニブロールを飲んでいるリュウが逃げる女に脚をかけ転がす。立たせる時、キスしようとする。
 駅に着き、ヨシヤマ、リュウ、モコが逃げる。3人とも嘔吐し転びながら走る。
 《評者注3》:薬物と飲酒による傍若無人な犯罪行為。適切に処罰すべき。
  
 Ⅴ
 モコが言う。「ファックだけなんて嫌よ。もっと他にあると思うけどな。楽しむことがもっと他にあると思う。」
 モコがまた言う。「楽しいことなんてない。パーティは楽しいこと。」「モコは結婚する。」
 モコの写真がアンアンに出て母親が喜んだとのこと。
  
 Ⅵ
 ヨシヤマはケイに「別れないでくれ。働くから」と懇願する。
 ケイは「あんたといると自分まで惨めになる。我慢できない」と言う。
 ヨシヤマは酒を飲んでケイを死ぬかと思うまで殴る。典型的なDV。
 ヨシヤマはケイの髪をつかみ、腹を蹴る。ケイは腫れ上がった顔でうめく。ケイは血を吐きぐったりとなる。
  
 Ⅷ
 ヘロイン中毒のオキナワが言う。「リュウ、またフルート、吹けよ」と。
 「今は、何もしたくない。やる気みたいのがない」とリュウ。
 また「今はカラッポ。今はもうちょっと物事を見ておきたい。ここで見る、インドなんて行かない。窓から景色を見る。景色が新鮮。」とリュウ。
 「景色が新鮮なんて老化現象だ」とオキナワ。
 Ⅷ-2
 「ヘロインが切れると手に入れるためなら人殺しでもする」とオキナワはヘロイン中毒。
 しかしオキナワが言う。「俺とヘロインだけじゃあ何か足りない。」「昔、お前が俺の誕生日に弾いてくれたフルートが、自分をうれしくさせ、優しい気分にした。お前がうらやましかった。あんな気分にさせるお前が」とオキナワ。
 「俺はもうだめさ。からだが腐ってる。頭の肉がブヨブヨ。もうすぐ死ぬ」とオキナワ。
 Ⅷ-3
 オキナワが、レイ子に「沖縄に帰って美容師になれ」と言う。
  
 Ⅸ
 リュウはリリーの部屋にいる。
 しかしリュウを薬物中毒による不安感が襲う。「皮膚病の老婆から抱きつかれた」ような不安感。そしてひどく寒い。
 《評者注4》:老いに対する何という敵視。リュウは老いを恐れる。
  
 Ⅸ-2
 「この地面はあらゆる場所に通じる。その上に俺はいる。怖がるな。世界はまだ俺の下にある」とリュウ。
 「ヘロインと粘液で女と溶け合うのとは反対に、痛みによって周囲から際立ち、痛みによって自分が輝く」とリュウ。
  
 Ⅸ-3
 「黒い巨大な鳥が俺を殺す。」「俺が見ようとするものを俺から隠してる。」「鳥を殺さなきゃ俺が殺される。」
 巨大な鳥が飛んでくる。
 グラスの破片を自分の腕に刺す。血があふれる左腕だけが生きている。
 巨大な生物に飲まれ自分は腸の中をグルグル回る。
 僕は視力を失い、床を転げまわる。
 リュウが狂ったと思い、リリーは部屋を飛び出す。
 
 Ⅸ-4
 僕はいつの間にか外にいる。
 草の上に倒れて、露が僕の身体を冷ます。「ずっと僕はわけのわからないものに触れていたのだ」とリュウが思う。
 影のような夜の町の、稜線の起伏が、女の白い腕のように優しい。
 自分は「限りなく透明に近いブルー」のグラスの破片のようになりたい。そして優しい起伏を自分に映したい。そして僕自身に映った優しい起伏を人々にも見せたい。
 
 Ⅹ-5
 それから5年近くが経ち、リュウは小説を書いた。リリーにまた会いたいと、リュウが思う。
 
 《評者注5》
 リュウの覚醒の物語。
 痛みによって輝く自分の発見。
 世界が地面として俺の下にあることの確認。
 「わけのわからないもの」でなく、はっきりしている確かなものは、草に代表される自然、大地。
 リュウはこの地面を肯定する。街の稜線が突然、優しい起伏として現れる。
 地面の肯定、その上にある自分の肯定。
 自分の肯定がもたらす世界の優しさ。自分は痛みにおいて証明される。
 自己肯定にいたるリュウの物語。
 
 《評者注6》
 危険な自己中心の暴走行為。薬物と飲酒による傍若無人な犯罪行為。これらは適切に処罰すべきだ。リュウの覚醒のために許されるとしたらおかしい。
 あまり愉快でない自己中心的小説。
 リュウが勝手に覚醒すればよい。自分の犯罪の責任は取るべきだ。
 虚構だとしても愉快でない。
 “AMAZING GRACE”ほどでは全然ないにしても、リュウが罪を告白し許しを請うニュアンスがあってよい。
 老いに対するリュウの敵視は間違い。リュウは老いを恐れてはいけない。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『メディア(虚像)の砦』真... | トップ | 『ノルウェイの森』村上春樹... »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事