宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『大人のための残酷童話』(1)~(14)、倉橋由美子(1935-2005)、新潮文庫、1984年

2015-08-29 19:52:21 | Weblog
(1)人魚の涙
A 人魚は上半身が魚で、下半身は人間と同じ。(普通にイメージされる人魚とは逆!)
B 人魚は、海の魔女に頼んで、上半身を人間の姿にしてもらう。
B-2 王子は、人魚の娘にしばらく興味を持ち愛するが、漁師の娘にすぎないので、結局、捨てる。
B-3 王子は、海の向こうの国の美しい王女と結婚する。
C 船が難破し王子を、人魚が助ける。
C-2 人魚は、再び海の魔女に頼み、王子の上半身と、人魚の下半身(人間の身体と同じ)を合体してもらう。
D 身体が合体した王子と人魚は、それぞれの魂で話をする。
D-2 上半身の王子が、下半身の人魚の身体を慰めると、その部分から涙がこぼれ真珠になった。
《評者の感想》
① 普通の人魚のイメージと逆の上下半身のイメージが、新鮮だ。
② 魂だけではヒトは結びつくことが出来ない。「身体は、魂の重荷である」。
③ しかし、その重荷は、他方で「真珠」に象徴される。つまり「身体は、魂を完成させる」。
④ 魂と身体のアンビバレントな関係!


(2)一寸法師の恋
A 一寸法師は、お姫様に気に入られる。夜、寝床で戯れをすることを、姫は、一寸法師に許す。
B 清水へお参りに行ったとき、赤鬼青鬼が登場。
B-2 一寸法師は、お姫様の一番大事なところに隠れる。
B-3 鬼の身体が、そこに入ってきたので、一寸法師が針の剣で刺す。
B-4 鬼は「棘が生えているぞ!」、「化物だぞ!」と言って逃げ去る。
C 打出の小槌で一寸法師は大きくなるが、肝心のところだけは以前のままで、お姫様が文句を言う。
《評者の感想》
① エロチックだが、発想は生々しくリアリティがあり、なるほどと思わせる。
② 最後の落ち(C)は、蛇足気味。


(3)白雪姫
A 白雪姫を殺すよう、お妃から命じられた森番は、命乞いする白雪姫を裸にして弄んだが、殺さなかった。
B 白雪姫は、夜の伽をして、7人の小人の家に置いてもらった。
B-2 白雪姫は、お妃の毒リンゴで、肌の色が茶色になってしまう。しかし、小人たちの子供をたくさん産み、幸せに暮らした。
C 白雪姫を助けるはずの王子は、お妃と恋におち、王様を殺し、二人結婚し幸せに暮らした。
《評者の感想》
普通の白雪姫の話と相当違うが、白雪姫・小人たち・王妃・王子、みな幸せに暮らすことなり、よかった。かわいそうなのは、殺された王様である。


(4)世界の果ての泉
A 継母が、実の娘より美しい継娘をいじめる。
A-2 「篩(フルイ)で、世界の果ての泉から水を汲んでおいで!」と継母が命じる。
B 蛙が、「結婚してくれれば」という条件で、汲み方を教える。
C 「ベッドの中で、蛙の首を切れば、王子様になる」と魔法使いの老婆に教えられ、娘が蛙の首を切ると、死んだ王子になってしまった。
《評者の感想》
① 「日常的現実」内では、生き物は首を切れば、死ぬ。蛙の姿をした王子の首を切れば、王子が死ぬのは当然。② 魔法使いの老婆は、「魔法の現実」から「日常的現実」への移行の儀式として、「蛙の首を切れ」と言った。③ 著者は、「日常的現実」のみ信じる人で、「魔法の現実」を認めない。


(5)血で染めたドレス
A アテナイの青年が、先生のお嬢さんに恋をする。
A-2 お嬢さんが「血の色のドレスが欲しい」と言う。
B 青年に恋する唖の少女が、アテーナに頼んで、自分の血で染めた布でドレスを織ってもらい、死ぬ。
B-2 少女に姿を変えたアテーナが、青年に、「血の色のドレス」を届ける。青年は、少女に愛されて当然と、感謝もせず、ドレスを受け取る。
C お嬢さんに持っていくと「こんな気持ち悪い色のドレスはいらない」と言われる。
C-2 青年は怒り、ドレスは捨てられる。
C-3 通行人たちがドレスを踏みつけ、ぼろきれになり、犬が咥えていった。
《評者の感想》
① 救いようのない物語。もちろん、著者はありうる現実を描いた。ただし現実は、これ以外のハッピーな可能性も含む。著者は、不幸な可能性を描いて、憎まれ口をたたきたかったのだろう。
② 唖の少女の愛は、この世で成就しない。その死後も、成就しない。「成就しない愛に、命を賭ける意味はない」と、著者はシニカルである。


(6)鏡を見た王女
A 子供のない王と王妃が、「どんな子供でもよいから授かりたい!」と旅の老人に頼む。
A-2 醜い娘(王女)が産まれる。
B 老人が「醜いままでも困らないようにして差し上げよう」と言う。
B-2 王女は、目の病気で失明する。
C 王女に召使として、瘻(セムシ)の少年があてられる。
C-2 失明した王女が、瘻(セムシ)の少年の子を産む。
C-3 この赤ん坊は、醜い顔で、背中に瘤があるため、森に捨てられる。
D その後も、不幸が続く。
D-2 老人に頼み、王女は結局、目が見えるようになる。
D-3 しかし、鏡で自分の「醜い」顔を見て、ずっと自分は「美しい」と思わされていた王女が、その後どうなったか、わからない。
《評者の感想》
① 「願い事は、100%満足できる内容にすべし、また、結果をよく考えて頼むべし」との教訓。
② 「顔が醜いことは、不幸。」「背中に瘤があることは、醜く不幸。」この話が、前提する価値観。


(7)子供たちが豚殺しを真似した話
A 父親が豚を殺す。①父親が出かけると、子どもが真似をし、兄が弟を豚役にして殺す。②母親が気づき逆上し、兄をナイフで殺す。③風呂に入れていた赤ん坊のことを母親は忘れていて、赤ん坊が溺死。④母親は首を吊る。⑤帰宅した父親は惨劇を発見し、心臓発作で死ぬ。
B 近所の子供たちが豚殺しごっこ。いじめられっ子を豚役にして皆で殺す。その血で女の子が腸詰を作る。
C 王様が、①豚殺し役の子を捕え殺す。さらに②親が悪いと、親を縛り首にする。
C-2 ③市の者たちは、親でなく、学校の教育が悪かったせいだと、親と子供に同情。
D 市の者たちは、王様に楯突くことが出来ないので、「過ちは二度と繰り返しません」と豚殺し役の子の銅像を建てた。
E 著者の解題:A、Bはグリム童話。C以下は著者の創作。
《評者の感想》
①子供は、放っておけば、グリム童話のとおり愚かで残虐。大人は、母親のように短気で逆上し愚かでありうる。また父親の心臓発作のような不幸もありうる。
①-2 著者は、「子どもの適切な教育」、また「大人の分別」、さらに「日頃からの健康管理」が重要と、指摘する。
② 「いじめは人間社会できわめて普通である」と著者は言う。
③ 豚殺しが日常的である西欧牧畜文化が、話の背景である。


(8)虫になったザムザの話(カフカ『変身』が原作)
A ある日、ザムザが虫となる。
A-2 世間体があるので、父、母、妹が、ザムザを部屋に閉じ込める。
B 見世物にすると収入になるとわかり、ザムザ、見世物にされる。
B-2 やがて人気がなくなり、ザムザ、再び厄介者となる。
C 父、母、妹とも仕事が見つかり、ザムザ、部屋に閉じ込められたまま忘れられる。
D ある日、癇癪を起した父が投げた缶詰が体にめり込み、ザムザ、死ぬ。
D-2 ザムザの死体から流れ出た体液がどうしようもなく臭く、その臭いが染みついた父、母、妹は仕事を失う。
D-3 3人は、以後、惨めな一生を暮らす。
《評者の感想》
①ストーリーの前提:(a)世の中で重要なのは、世間体である。(b)同様に重要なのは、収入である。(c)「息子が突然、虫に変身すること」そのものは、問題でない。「息子の背が伸びること」が問題でないのと同じ。(d)息子であっても、収入がなく世間体が悪い者は、殺されてよい。(e)人間は、臭い汁がつくと、嫌われる。
②著者は、「家族の愛」について、信じない。


(9)名人伝補遺
A 紀昌と言う名の弓の名人は、弓を引かない。「至射は射ることなし。」
A-2 弓を見せたら、その名さえ忘れた弓の名人。
B 「紀昌など偽の名人だ」と紀昌に勝負を挑み、弓を射ない紀昌を射殺した男あり。
B-2 男は、群衆に捕えられ、柱に縛りつけられ射殺された。
B-3 こと切れる前に男は、名人が最後に「大勇ハ忮(サカ)ラワズ」と言ったと、告げた。
《評者の感想》
①紀昌は一度も、衆人の前で弓の腕を見せたことがない。「評判」が虚像か実像か、判別の問題。
②紀昌が死に、もはや判別不能。「評判」が虚像か、実像か判別できない。
③紀昌を射殺した男は、「評判」は虚像と言い続けてもよいのに、最後は弱気になって、理由もなく実像と認めた。しかし、「虚像だ!」と言おうと、「実像だ!」と言おうと、どちらも理由がない。


(10)盧生の夢
A 神仙の術の枕で、盧生が、「玄宗皇帝の宰相となった一生」の夢を見る。
A-2 もう一つの枕で、「淫婦の妻をもらった」夢を見る。
A-3 さらに、もう一つの枕では、「天子になるが、宦官に暗殺される」夢。
B 盧生は次々と枕を借りて、夢を見続ける。
C 盧生はついに眠りから覚めず、役人が死体として盧生を葬る。

《評者の感想》
①人生は、「夢」(=夢A=幻)と考えてもおかしくない。ただし普通、我々にとって、人生は、「現実」(=現実A=幻でない)である。
①-2 人生は「現実」(=現実A=「幻でない」)との立場に立てば、「現実」(現実A)には、いくつかの下位現実が含まれる。下位現実には、日常的現実(=現実B)、虚構現実、夢現実(=夢B)などがある。ふつう、日常的現実を現実と呼び、虚構現実、夢現実は、単に虚構、夢(=夢B)と呼ぶ。
①-3 日常的現実(=現実B)と夢(=夢B)の違いは、身体があるかないかである。つまり触覚を通して現出する抵抗し延長する世界(物理的世界)が含まれるのが、現実(=至高の日常的現実)(=現実B)と呼ばれる。夢(=夢B)には物理的世界が含まれない。
②これに対し、人生が「夢」(=夢A=幻)と思われるのは、この私においてしか世界が現出しないからである。(ただし、ここでは、現象学的超越論的意識野が想定されている。)
②-2 世界とは、いわば「有」(=現実A)のことである。「有」はどこに現出するのか。この私(=現象学的超越論的意識野)においてのみである。
②-2 「有」(=現実A)の現出は、時間性形式と指向性形式を持つ。指向性を通して、一方に物理的世界が間主観的(=客観的=外的)に構成され、客観的時間がそれに属すものとして構成される。この物理的客観的(=間主観的)世界と客観的時間が構成されると、他方で本来の時間形式が「内的」時間意識と呼ばれることになる。
③ 「有」(=世界=現実A)“自体”が、「有」(=世界)の“現出”とは別にあるとの立場に立てば、「有」(=世界)の“現出”は「夢」(=夢A=「幻」)となる。つまり“現出”する世界は、世界そのものであって、世界の“像”ではない。世界の“像”ならば、「夢」「幻」である。
③-2 しかし「有」(=世界)の“現出”は、世界そのものであって、それ以外に「世界“自体”」があるわけでない。現出する「有」(=世界)は、世界そのものである。
③-3 かくて「有」(=世界)の“現出”である人生は、「夢」(=夢A=幻)でなく、「現実」(=現実A=「幻でない」)なのである。
④ 「人生は、夢でなく、現実(=現実A=幻でない)である」と言う場合の「夢」(=夢A=幻)と、現実(=現実A)の下位現実としての日常的現実(=現実B)を前提しての「夢」(=「下位現実としての夢」=夢B)は全く別物である。
④-2 なお「夢」(=下位現実としての夢)(=夢B)に対応するのは、日常的現実(=現実B)である。


(11)養老の滝
A 親孝行の息子に、酒好きでわがままの父親。酒がないと、父親は大暴れする。
B 息子が、酒がわく泉を発見する。
B-2 人々が集まり、天子が養老の滝と命名。
B-3 ところが酔死する者、多く、あたりに悪臭が立ち込める。
C 天子が怒り、息子と父親は、斬罪。
C-2 そのうち酒の泉も、枯れた。
《評者の感想》
①諸行無常である。②支配者(天子)はいつも我儘である。③ろくでなしの父親も多い。


(12)新浦島
A 太郎40歳、母親80歳。貧しい漁師で、太郎に嫁も来ない。
B 船で太郎が漁をすると、亀がかかる。魚でないからと逃がす。
B-2 亀の甲羅が割け、太郎がその中に入る。亀が竜宮へ太郎を連れていく。
C 太郎は帰りたくなく、ぐずぐずと3年、竜宮に居る。ついに母親が心配になり、太郎、帰る。
C-2 村に帰り着いて、太郎が困り、乙姫様の土産の玉手箱を開けると、太郎は赤ん坊になった。
C-3 「嫁かず後家」が赤ん坊をひろい育ててくれた。
《評者の感想》
①最後の「嫁かず後家」の話が、ヒューマンな結末で、心温まる。②太郎は、母親を捨て、親孝行でない。


(13)猿蟹戦争
A 蟹が横にしか歩けないのは、猿が、小川の上流でした小便の毒素で、体の具合が悪くなったことによる。
A-2 兎の眼が赤いのも、蛙が体中イボだらけになのも、また雉の声が小さいのも、原因は猿の小便。
B 皆に恨まれた猿は、逃げて今も、ずっと木の上で暮らす。
《評者の感想》
 猿蟹戦争の原因が、「猿の小便の毒素」によるとの著者の新説。


(14)かぐや姫
A 竹からかぐや姫、また竹から黄金も出て、おじいさんとおばあさんが長者になる。
B 成人したかぐや姫に、皇族・貴族など5人の求婚者。
B-2 かぐや姫は、帝との結婚を望む。5人を拒否し、かぐや姫は、帝の御寵愛を受ける。
C かぐや姫は天に帰ろうとするが、父親の天帝は、クーデターで処刑される。
C-2 かぐや姫は、今や、「天に戻れば、新帝の侍女になるしかない」と告げられる。
D 「侍女になりたくない、天に戻らない!」と言ったかぐや姫は、ただの肉の塊に変化する。
D-2 「化物め!」と武士たちが切り刻み、肉の塊は死ぬ。
D-3 天帝は、荼毘に付すよう命じるが、肉の塊は、いつまでも燃え尽きることがなかった。
《評者の感想》
① 「天帝が、クーデターで処刑される」との見解は、人間史の事例を、天上史に適用すれば、当然ありうる。
② 天界の魔術的力で、かぐや姫は地上で、人間の姿になれた。しかし、かぐや姫の拒否で、魔術的力は消滅。つまり、姫のイデア(形相)が失われた。
②-2 姫のイデア(形相)が失われ、マテリア(質料)そのものである生きた肉の塊に、姫は変じた。
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