宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『怖い絵、死と乙女篇』中野京子(1956生)、2009年、角川文庫

2012-10-02 08:31:44 | Weblog
  作品1 レーピン『皇女ソフィア』(1879年)
 まだ子供(10歳)だったピョートル1世(大帝)に対し、ピョートルの異母姉、ソフィアがクーデター。クーデターは成功する。しかしピョートルを殺さず、7年後、ソフィアは、ピョートルによって捕らえられる。
 その8年後、再び、ソフィア派のクーデター。これに対し、ピョートルはクーデター派を徹底して逮捕・拷問・粛清。しかし、ソフィアの謀反が証明出来ない。彼女は処刑されず、幽閉される。その時の憤激するソフィアを200年後に、レーピンが描く。彼女は、6年後、憤死。
          
  作品2 ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』(1485年頃)
 海で生まれたヴィーナスが、キプロス島の浅瀬に打ち上げられた瞬間。
ガイアが、その子ウラノスと交わり、多くの子が生まれる。末子クロノス(=サトルヌス)が父、ウラノスを殺す。(Cf. サトルヌスは、自分も我が子に殺されると予言され、自分の子を次々と食う。しかし結局、子のゼウスに殺される。)切り取られたウラノスの男根が泡となり、そこからヴィーナスが誕生。
 「あなたの良い夫になります」と誓った醜いヘパイトスを、ヴィーナスは夫とする。
 ヴィーナスが愛した美少年アドニスの血から、アネモネが咲く。
          
  作品3 カバネル『ヴィーナスの誕生』(1875年)
 泡から生まれたばかりのヴィーナス。新古典主義の絵画としてナポレオン3世が気に入り、買い上げる。夢(=理想)の裸体。印象派全盛とともに、カバネルは忘れられる。
          
  作品4 ベラスケス『フェリペ・プロスぺロ王子』(1659年)
 子どもの顔の中に、浮かび上がる老人。フェリペ4世の王子、2歳。王位継承者。近親婚の結果、病弱だった。4歳で死去。女児の姿。コルセットで締め付けられている。Cf. 当時、赤ん坊を堅くくるむスワドリングの習慣があった。
          
  作品5 ヨルダーンス『豆の王様』(1640-45年)
 一種の無礼講を描く。公現祭(1/6)。東方の3博士が、イエスの誕生を礼拝した日。豆の入った麦粉焼をひき当てた者が、王様となる。豆の王様!絵は、「支配者スペイン人が、まるまる肥った家畜(=フランドル人)を見て喜ぶ」という視点。17-18世紀は小氷河期で、飢饉。フランス革命時も同様。Cf. 先輩ルーベンスは、庶民を一度も描かない。
          
  作品6 レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』(1510年頃)
 聖アンナは、マリアの母。なぜアンナの膝の上に、マリアが乗っているのか?女性を通じての生命の伝承。
          
  作品7 ミケランジェロ『聖家族』(1503-04年頃)
別名『トンド(円形画)・ドーニ』。背景は、異教的古代社会。前景はキリスト教世界。そして両者の境界に洗礼者ヨハネ。当時、富裕な市民層が家父長制を強め、聖ヨセフは、頼りがいのある家長として描かれる。「イエス誕生後、マリアとヨセフには、6人の子があった」と外典にある。
          
  作品8 セガンティーニ『悪しき母たち』(1894年)
 子どもに、微笑みもキスも与えなかった役たたずの母。堕胎した母。亡霊となった子が、母から授乳する。そして母を許す。母性を持たない女たちを、むごく罰する絵。母性愛は、18世紀末から宣伝される。象徴派、セガンティーニ。
                   
  作品9 伝レーニ『ベアトリーチェ・チェンチ』(1599年?)
 作品は、ローマのバルベリーニ宮にある。ベアトリーチェ・チェンチについて、スタンダールが『イタリア年代記』に記録。彼女は、父殺しの罪で、1599年、斬首される。処刑前日の絵。父にレイプされたという。拷問で罪を認めさせられる。チェンチ家の莫大な財産が、教皇クレメンス8世のものとなる。
          
  作品10 ルーベンス『メドゥーサの首』(1617年頃)
 メドゥーサは、英雄ペルセウスに倒された。切られた首の血から、伝馬ペガサスが生まれる。ルーベンスの理知と計算にもとづく周到な作り物としての作品。
          
  作品11 アンソール『仮面に囲まれた自画像』(1899年)
 健全な印象派全盛時代に、孤立したアンソールの「存在の不安」。自分を認めない世間への怒り。「仮面と骸骨の画家」アンソール。1860年、ベルギー生まれ。彼自身が、「画家の王」ルーベンスの仮面をかぶっている。だが長生きはするもの。「前衛芸術の巨匠」と呼ばれるようになり、73歳でレジオン・ドヌール勲章を受章。
          
  作品12 フュースリ『夢魔』(1781年)
 女性の腹の上の「夢魔」は、フュースリの友人ラーヴァターの「観相学」を応用。評判となった絵。フランス革命、8年前。
          
  作品13 ドラクロワ『怒れるメディア』(1838年)
 王女メディアの物語。紀元前5世紀、エウリピデスの悲劇『メディア』。ギリシアの英雄イアソンが、アルゴー船で、アジアのコルキスの金羊毛皮を奪いに行く。王女メディアがイアソンに恋し、父王を裏切り、イアソンの内縁の妻となってギリシアに行く。
 やがてイアソンはメディアに飽き、クレオン王の娘と結婚しようとする。メディアは猛毒の王冠を贈り、花嫁を殺す。イアソンがメディアを捕まえに来る。彼女は、イアソンとの間の二人の子を殺す。泣くイアソン。メディアは彼方に飛び去る。メディアは異国、非文明国の女性。『蝶々夫人』、『ミス・サイゴン』に相当。
 ドラクロワはロマン主義の旗手。
          
  作品14 伝ブリュ-ゲル『イカロスの墜落』(16世紀後半)
 悲鳴をあげて落ちてくるイカロス。しかし誰一人、注意を払わない異常!当時のフランドルでは、太陽たるスペインのフェリペ2世に刃向かえば死屍累々。誰もが何も見ないふりをする。Cf. ピーテル・ブリューゲル(1525-69)
          
  作品15 レッドグレイヴ『かわいそうな先生』(1844年)
 ここで「先生」とは「ガヴァネス」である。ガヴァネスとは、住み込みの家庭教師。実は、“零落したお嬢様”。この絵で先生は訃報を手にしている。彼女は、コウモリのような存在で、主人の階級にも、召使の階級にも属さない。彼女は召使たちから、いじめられる。
          
  作品16 フーケ『ムーランの聖母子』(1420-80年頃)
 ホイジンガーはこの作品について「無神論的退廃の香り」と批評。モデルはシャルル7世(ジャンヌダルクの出現で戴冠)の寵妃アニエス・ソレル。常に胸をむき出しにするファッション。彼女は不審死する。死因は、美白のための水銀入り化粧品による中毒か?
          
  作品17 ベックリン『ケンタウロスの闘い』(1873年)
 粗暴、好色、大酒のみの野獣、ケンタウロス。上半身が人で、下半身が馬。「野蛮」そのもの。彼らの母は、雲をこねてヘラそっくりに造られたネペレ。ケンタウロスは、騎馬民族の姿が原型と言われる。ベックリンは『死の島』で人気を得た。
          
  作品18 アミゴーニ『ファリネッリと友人たち』(1750-52年)
 4人の成功者たちの絵。しかしオペラ界のスーパースター、ファリネッリはカストラート(去勢歌手)だった。彼の恋人が、人気プリマドンナのカステッリーニ。ただし、カストラートは、結婚ができない。彼は性行為ができるが、睾丸がなく子どもをつくれない。親が子どもに、7~8歳で無理矢理、手術を受けさせる。19世紀の人道主義のもとで、2Cの間、続いたカストラートが激減。もともと教会が、変声期のないカストラートを要求した。1599年が初。1913年、システィナ礼拝堂から、最後のカストラートが去る。
          
  作品19 ホガース『ジン横丁』(1751年)
 ロンドンのイースト・エンド。貧民地区。この世の地獄。中央の酔っ払いは、梅毒の腫れ物がある売春婦。階段から落ちる赤ん坊は、死ぬはず。安酒のジン。ジン・ショップの吸引力。食べずに飲むばかりで、飢餓死寸前の男がいる。カタツムリは「怠惰」、黒い犬は「死」の象徴。高価なビールは、裕福者の飲み物。やがて課税率が上げられ、ジン撲滅へ。しかし80年後、ヴィクトリア朝、ジンの時代が再び出現。繁栄の陰で1888年、イースト・エンドに切り裂きジャックが現れる。5人の売春婦が、殺される。ホガースは「カリカチュアの父」と呼ばれる。
          
  作品20 ゲインズバラ『アンドリューズ夫妻』(1749年頃)
 地主夫妻(ジェントリー階級)の肖像。優雅なロココの時代。結婚記念肖像。風景は、すべて彼らの所有物。搾取される季節労働従事者(農業労働者)が、描かれていない。地主と契約している借地農(農業資本家、ファーマー)によって、彼らは雇われる。18世紀半ばからの第2次囲い込み(議会エンクロージャー)が、生み出した風景。休耕地がなくなる。ヨーマンから、地主が土地を買い上げ、共同利用地も、地主が囲い込む。
          
  作品21 ゴヤ『マドリッド、1808年5月3日』(1749年頃)
 前日の蜂起に対する、フランス軍による報復処刑。この絵は、事件の6年後に描かれた。ゴヤ『戦争の惨禍』(1810-1820年)は82枚のエッチング。フランス軍を追い出した後の「望まれたる王」、フェルナンドは、とんでもない愚物。異端審問の復活。敵対者の片っ端からの逮捕、処刑。憎悪と復讐の種を植えた。
                    
  作品22 シーレ『死と乙女』(1915年)
 なだめる死神と、拒絶する乙女の対話。18C末の独の詩人、クラウディウスによる。乙女を蹂躙する死神というエロチックなニュアンス。愛と死の一体化の官能性。シーレを支えた年下の愛人ヴァリを、シーレが捨てる。シーレは画壇での地位を得た後、中産階級の娘エーディトと結婚。ヴァリは、下層階級出身のモデル。1917年、ヴァリは、従軍看護婦として猩紅熱で死ぬ。1918年、シーレの妻、シーレが、スペイン風邪で死ぬ。
          
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