宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『伊勢物語』(Cf. 在原業平825-880)「第18段 白菊」:「あなたは色好みと聞くがそれらしく見えない」と「なま心ある女」が男を挑発する!だが男は挑発されない!

2020-08-12 23:09:20 | Weblog
むかし、風流ぶる女(「なま心ある女」)がいた。女が、近くに住む男を、からかって誘い(「心みむとて」)、最も美しいと言われる「盛りが過ぎ紅色がかった白菊」に添えて、歌を送った。

「くれなゐににほふはいづら白雪の枝もとををに降るかとも見ゆ」
They say white chrysanthemums bloom beautifully in light red. But I can’t find the light red color. You look like beautiful white snow that falls and lies on chrysanthemums, then bends them.(人々は白菊が美しく薄赤くなって咲いているという。しかしその薄赤い色を私は見いだせない。あなたは、菊の上に降り積もり、菊を曲げる美しい白雪のようだ。)

《感想1》当時、白菊は「盛りが過ぎ紅色がかった白菊」が珍重された。
《感想1-2》「くれなゐににほふ」菊、つまりその紅色がかった貴重な美しさ(※色好みと聞くあなたの魅力)とは、いったいどのあたりを言うのでしょうか?(「いづら」?)「あなたは色好みと聞くが、それらしく見えない」と女が男を挑発している。
《感想1-3》男の外見だけは、白雪が枝もたわわに(「とををに」)降り積もっているかのように見えると、女が言う。あなたは色好みといっても「外見だけではないんですか!」と言うなど、女は失礼だ。

男は、女の挑発(女のからかいを込めた誘いの歌)には取り合わず、知らぬ顔をして、菊花のことだけ詠んで歌を返す。

「くれなゐににほふが上の白菊は折りける人の袖かとも見ゆ」
White chrysanthemums bloom beautifully partially in light red. The white color is on the light led color. The layers of colors of chrysanthemums look like that of the cuffs of clothes which the person who broke and took the chrysanthemums wore.(白菊が美しく一部薄赤くなって咲いている。白色が薄赤色の上にある。菊の色の層は菊を折り取った人が着た服の袖の色の層のように見える。)

《感想2》紅の美しい(「にほふ」)色の上をおおう雪のような白菊は、菊を折り取ったあなたの服の袖の襲(カサネ)の配色のようにみえます。
《感想2-2》男(在原業平)は、この「なま心ある女」(風流ぶる女)が嫌いだ。そして女の挑発に乗らず、丁寧にまた澄まして、真面目に返しの歌を詠んだ。男は、さすがに一流の色好みだ。

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『サキ短編集』⑦ストウナアの7つの「運命」:(1)不幸、(2)「トムさま」に似ている、(3) 百姓家、(4) この家にとどまる、(5)村人の敵意、(6)マイクル・リイの出現、(7)射殺!

2020-08-12 12:24:58 | Weblog
※サキ(Saki)、本名ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)(1870-1916)、『サキ短編集』新潮文庫、1958年。

(7)「運命」
(a)曇った秋の午後をマアチン・ストウナアは、とぼとば海に向かって歩いていた。(※海辺に町があれば、なにか稼ぎ口もあるかもしれない。)飢え、疲労、絶望。彼の持って生まれた怠惰と浅慮が、彼を不幸にした。(※かくて不幸は彼の《運命1》だ。)
(b) ストウナアは大きな百姓家の前を通りかかった。彼は門から入り百姓家の裏口に向かった。ミルクの一杯でも売ってもらえればと思ったからだ。彼は半ペニーだけ持っていた。
(c)すると戸を叩きもしないのに扉が開いて下男の老人が現れ、「トムさま、おめえさまがそのうちに帰って来らっしゃることは、ちゃんと知ってましたよ」と言った。ストウナアは食事に冷肉やチイズやパンを供された。「4年前とちっとも変っちゃおらっしゃらねえ」と老人が言った。「伯母さまは、おめえさまとお会いになさらないが、この家におらっしゃることは、お許しになりますよ。」
(d)「伯母さまが墓の中へ入らっしゃれば、ここはおめえさんのものになるんだから、当たりめえの話でねえかえ」と老人が言った。この晩、ストウナアは「トムさま」の部屋で寝た。翌朝、ストウナアは思った。「4年前、行方不明になった、もう一人の碌でなしに、自分は似ているのだ。」(※他人の4年前失踪した「トムさま」にストウナアが似ていたのは、彼の《運命2》だ。)(※その「トムさま」の百姓家に偶然、出会ったのもストウナアの《運命3》だ。)
(e)用意された朝食を食べた後、ストウナアは考えた。いつ「本物のトム」が帰って来るかわからない。手紙もよこすかもしれない。親戚が来るかもしれない。彼は不安だった。だが結局、彼はここの安楽さに誘惑され、「この家にとどまる」と決めた。(※「この家にとどまる」と決めたのも《運命4》だった。ストウナアは「一時の避難所」として、1晩泊めてもらったらすぐ、この百姓家を去ることをしなかった。)
(f)村人たちは、ストウナアに「敵意」を持っていた。というのは「トムが人々に忌み嫌われる人間として除け者にされる罪」を、4年前犯したからだ。この「罪」の内容について、ストウナアがいくら尋ねても下男の老人は何も言わない。ストウナアが昔のトムのアルバムを見つけ眺めると、トムがストウナアに似ていることは見誤りようもなかった。(※「トムさま」が村人から「好意」でなく「敵意」を持たれる人間だったことが、ストウナアの《運命5》だ。)
(g)やがてクリスマスの数日前になった。「ここからそっと逃げて下せえまし。マイクル・リイが村に帰って来て、おめえさまに出会い次第、うち殺すと云っております。」(※「トムさま」はマイクル・リイ自身またはその身内にひどいことをしたに違いない。村の誰かからマイクル・リイに連絡が行ったのだ。マイクル・リイの出現という《運命6》は、ストウナアが「この家にとどまる」と決めた《運命4》の結果だ。ストウナアが「この家からすぐに去る」と決めていれば、《運命6》は生じなかった。)
(h) ストウナアは、老人から、「トムさま」の伯母が下さったという1ポンド金貨3つといくつかの銀貨を受け取り、百姓家を去った。この時、彼には、ある種の安心感があった。「希望を失ったヤマ師」に「運命が気紛れな微笑」(《運命2, 3》)を投げかけてくれた。そして今、彼は「他人の不安な幽霊の役割」をやめた。今後、「なにか仕事を見つけ、新しく再出発をする機会がないとはいえない」とストウナアは思った。
(i)だが、このストウナアの「気楽な、心も軽い」気分は突然終わった。鉄砲を持った一人の男(マイクル・リイ)が、憎悪のらんらんたる輝きの目をもって、ストウナアの前に現れた。「運命の犬が、こんな狭い道にストウナアを待ち伏せしていた。」彼は撃ち殺された。(※ストウナアが撃ち殺されたことが、彼の《運命7》だ。)

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