くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その19

2007-08-23 09:25:35 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
「おい尾上。お前、大丈夫か? 酒に強いのは分かってるけど」
 三鷹が心配して訊くと、尾上は重々しくうなずいた。
 ヘルメットの中の目を見ると、笑っていた。
 彼は酔っぱらい、この騒動を楽しんでいるのである。
「黒川、お前のバイクを貸してくれ。俺のオフロードバイクじゃ飛ばせない」
 尾上が言った。
「えっ? だったら俺が行くよ。俺が宮城を乗せていくよ」
「いや、お前はアパートの場所を知らないだろ。俺が行ったほうが早い」
「そりゃ、まあ」
 黒川は呆然としながら鍵を渡した。
「だいぶ時間のロスをした。行くぞ!」
 尾上と宮城が大仰な動作で走り出た。すぐにガレージのほうからエンジンの轟音が聞こえ、住宅街の中を去っていった。
 開け放ったままの玄関から、冷たい空気が流れ込んできた。
 蛙の声が、ことさらに大きく聞こえてくる。
 この時期、水田の蛙たちは、一気に孵化するのだ。
 まもなく、梅雨の季節なのである。


そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その18

2007-08-16 20:24:46 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
 本当の事件の渦中にいるのだという興奮が起こったのだ。
「尾上はアパートの場所を知ってるんだな?」
 黒川が念を押す。
「知ってる。飛ばして行けば、30分もあれば着くはずだ。よし、俺が乗せて行ってやる」
 尾上が言った。
「宮城はヘルメットを借りて被れ。念のためグローブも借りてつけろ。足元はブーツにしないと駄目だ」
 尾上は矢継ぎ早に指示をし、自分でもヘルメットを被った。
 興奮しているのが看て取れる。普段なら、家の中からヘルメットを被っていくことはないのだ。
「じゃあさ、黒川と三鷹と宝田はここで待機しててくれよ。あいつから電話がくるかもしれないから、そしたらバイクで向かっていると伝えてくれよな」
 宮城もてきぱきとした口調になった。尾上の影響を受けて、人格が変わったようになっている。




ここはどこ? その7

2007-08-11 14:05:09 | まち歩き

Ningyoh1400
品の良いご老人が、あくまでも品良く、歩む





Ningyoh2300
看板は古式ゆかしく、由緒正しく





Ningyoh3300

 日本橋は人形町でありましたあ。
 ここは、うぶけやという刃物屋さん。江戸時代から続く老舗なのだそうです。
 これからお盆であります。僕は故郷で、古い街並みを探訪してみるつもりなのだ。




そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その17

2007-08-11 13:31:01 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
「コンクリートに頭から落ちたらどうする!」
「そりゃ、ヤバイいよな」
 三鷹の顔色が変わった。
「落ちるときは、重い頭が下になるって言うしな。そうすれば脳挫傷を起こす可能性もある」
 三鷹は医学部を目指していたこともあって、医学知識が豊富な男であった。
 その専門的な言葉が、19歳の若者たちに、不吉に響いた。
 宮城も自分で言いながら、青ざめていった。
「うーん」
「これって、本当にヤバい状態なのかも」
「こういうとき、どうすればいいんだろう」
「うわっ!どうするどうする」
「頼む。この通りだ。誰か、乗せていってくれ!」
 宮城が頭を下げた。
 もし本当に、宮城の彼女が死んでしまったら、それは大変なことだ。
「すぐに行ったほうがいいな!」
 尾上が態度を一転、突然言い放った。
 この言葉で、5人は一気にパニックに襲われたようになった。


そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その16

2007-08-07 20:50:16 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
「それだけって、まあ、そうだけど」
 宮城が憮然として言う。
「あのなあ」
 三鷹が分別臭い顔で言った。
「そんなことで死ぬわけないでしょう」
「ねえねえ、どこから飛び降りるの?」
 宝田がまだ妙なことを訊く。
「だから、あいつの部屋のベランダだってば!」
「何階の高さ?」
「2階だ」
 尾上が言った。彼は以前、宮城とともに、彼女のアパートに行ったことがあるのだ。
「あんなに低いところ、飛び降りたって死なねえよ。せいぜい足を捻挫するくらいだ」
「何言ってるんだよ、そんなの分からないだろ! あいつ、電話に出ないんだよ。もう飛び降りてるかもしれないんだ、早く連れて行ってくれ!」
「電話をシカトしてるんじゃねえの」
「親に紹介されなかったからって、飛び降りるやつがいるかよ」
「そうだよ」
「わがままを言ってるだけだ。飛び降りるわけがないね」
「落ちたって死なないって」
「でも、もし打ちどころが悪かったらどうする?」
 宮城は食い下がった。