goo blog サービス終了のお知らせ 

「広重ビビッド」 サントリー美術館

サントリー美術館
「原安三郎コレクション 広重ビビッド」 
4/29~6/12



サントリー美術館で開催中の「原安三郎コレクション 広重ビビッド」を見てきました。

ビビッド(vivid):生き生きとしているさま。鮮やかなさま。「ビビッドな描写」「ビビッドな配色」 *コトバングより

タイトルの「広重ビビッド」。何やらキャッチーではありますが、これほど内容を端的に指し示す言葉もないかもしれません。


歌川広重「六十余州名所図会 阿波 鳴門の風波」 安政2(1855)年 原安三郎コレクション
 
冒頭は広重の「六十余州名所図会 阿波 鳴門の風波」です。かの有名な鳴門の渦潮を描いた一枚。渦を巻く白波は輝かしいまでに白く、一方で水は青というよりも藍色を帯び、彼方に望む山の際は紅色に煌めいています。さらに目を凝らせば群青や薄いワイン色も浮き上がってきました。かくも美しい色彩世界。ここまで発色の良い広重画を見たのは初めてかもしれません。

コレクションの所有者は原安三郎氏。日本化薬株式会社の会長を務めた実業家です。

広重画はともに晩年の揃物である「名所江戸百景」と「六十余州名所図会」。いずれも初摺りの早い段階の作品です。つまり摺りに広重本人の意図が反映されたもの。保存状態も良好です。両作をまとめて公開するのも初めてであります。

「六十余州名所図会」が刊行されたのは「江戸名所図会」よりも少し前の嘉永6年から安政3年。日本全国津々浦々の名所を描いています。北は陸奥、南は大隅、薩摩。ただし広重は全て訪ね歩いたわけではありません。時にネタ本(解説よる)を参考にしながら全69点の作品を完成させました。


歌川広重「六十余州名所図会 美作 山伏谷」 嘉永6(1853)年 原安三郎コレクション

風光明媚な場所揃いの「六十余州名所図会」。この一点を挙げるのは難しいやもしれませんが、「美作 山伏谷」は面白いのではないでしょうか。大嵐の中を進む一艘の小舟。風雨は円弧状の白い帯びで表されています。歩く者は今にも吹き飛ばされそうです。帽子が宙を舞ってもいます。

今回の展示ではキャプションにも注目です。と言うのも、いずれの作品にも現在の様子を捉えた風景写真がついています。さらに解説はもちろん、主要モチーフの図解までありました。親切丁寧。江戸と現代を見比べることが出来ます。

「名所江戸百景」が刊行されたのは安政3年。前年には安政地震の被害を受けた江戸市中ですが、広重はあえてその様子を表さず、災害前の風景を描きました。

チラシ表紙の「亀戸梅屋鋪」は超有名作。前景と光景を大胆なまでに対比させています。得意の構図です。咲き誇る梅の花。白梅です。背景の赤い空とのコントラストも美しい。奥には見物人の姿も垣間見えました。


歌川広重「名所江戸百景  大はしあたけの夕立」 安政4(1857)年 原安三郎コレクション

「大はしあたけの夕立」もよく知られた作品ではないでしょうか。やや高い位置から描いた隅田川。大はしとは新大橋です。対岸のあたけ、すなわち安宅には幕府の御船蔵がありました。上空は黒い。驟雨です。雨が黒い筋となって降り注いでいます。行き交う人の様子も慌しい。川幅が広く感じられました。幾分誇張したような遠近感です。言わばパノラマ。雄大な景色が広がっています。

名所とはいうものの、必ずしも江戸中心部だけでなく、いわゆる郊外を描いているのも興味深いところです。その一つが「鴻の台とね川の風景」。鴻の台とは国府台、とね川とは江戸川のこと。つまり現在の千葉県市川市に当たる景色を描いています。

川に沿って切り立つ岩山。山の上には桜も見えます。そして黒松。空高く伸びています。今も国府台にある里見公園は桜の名所。黒松も同市を特徴付ける景観です。キャプション現在の写真が掲載されていましたが、地形そのものは殆ど変わっていません。


歌川広重「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」 安政4(1857)年 原安三郎コレクション

異色ともいえるのが「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」です。王子に伝わる狐火の伝説をモチーフにした一枚ですが、闇夜に狐たちが集う様は情緒的というよりも、幻想的ですらあります。目録の最後の作品。「唯一の想像上の景色」(解説より)だそうです。


葛飾北斎「千絵の海 五島鯨突」 天保3(1832)年頃 原安三郎コレクション

嬉しいサプライズがありました。北斎と国芳です。特に北斎の「千絵の海」は全点揃い。全10図がまとめて展示されています。

うち「下総登戸」は現在の千葉市中央区あたり。かつては遠浅の海岸だったことから、アサリやハマグリがとれました。潮干狩りの名所でもあったそうです。

館内はなかなか賑わっていました。特に初めの「六十余州名所図会」は最前列確保のために人がびっしり。一部で僅かながら行列も発生しています。会場はエレベーターをあがった4階が「六十余州名所図会」。その後、階段下に北斎と国芳画を挟んで、3階に「名所江戸百景」と続いています。ただし順路は決まっていません。空いている箇所から見るのも良いのではないでしょうか。

「原安三郎コレクション 広重ビビッド」展示替リスト(PDF)
前期:4月29日(金・祝)~5月23日(月)
後期:5月25日(水)~6月12日(日)

「六十余州名所図会」は通期での展示ですが、「名所江戸百景」、および北斎、国芳画の一部は前後期で展示替えがあります。ご注意下さい。

極上の摺りによる江戸の全国漫遊紀行。旅行気分も味わえます。見入りました。

6月12日まで開催されています。

「原安三郎コレクション 広重ビビッド」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:4月29日(金・祝)~6月12日(日)
休館:火曜日。但し5月3日(火・祝)、6月7日(火)は開館。
時間:10:00~18:00
 *金・土は20時まで開館。
 *5月2日(月)~5月4日(水・祝)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )