都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ポンペイ展」 横浜美術館
横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)
「ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」
3/20-6/13

横浜美術館で開催中の「ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」のプレスプレビューに参加してきました。
「ポンペイ展」と名の付いた展示は過去に何度か見た記憶もありますが、今回の最大のセールスポイントは、ポンペイの遺物を通り越して垣間見える「古代ローマ人の生活の提示」に他なりません。国内では過去最大の出品数を誇る銀食器をはじめ、これまた珍しい個人用の風呂など、時代を超えたローマ人の生活の息吹をダイレクトに感じることが出来ました。

よって章立てもポンペイの史的変遷をなぞるのではなく、もっと端的に生活の各シーンに沿った、言わばテーマ別の展示となっていました。
「プロローグ」:ポンペイに起きた噴火のドラマ。噴火犠牲者の型取りなど。
1.「ポンペイ人の肖像」:ローマ市民たちの肖像彫刻など。
2.「信仰」:ギリシャ神話とローマの神々。
3.「娯楽」:スポーツ、仮面劇など、ローマ人を熱狂させた娯楽を知る。
4.「装身具」:女性たちを飾った装身具。宝石箱や金の装飾品。
5.「家々を飾る壁画」:フレスコ壁画一覧。
6.「祭壇の神々」:ポンペイの家々にあった祭壇を飾った神々。
7.「家具調度」:生活を彩る調度品。個人用の浴槽など。
8.「生産活動」:ローマ人たちの労働。調理器具など。
9.「饗宴の場」:食卓を飾った銀食器類。
10.「憩いの庭園」:住宅の中庭に配置された彫像、水盤、噴水など。
壁画、彫刻、工芸品など全250点の品々が、事細かに分けられた10章構成にて紹介されています。それにしても例えば全46件登場する壁画が、中核となる第5章だけではなく、例えば主題毎に別々の章で紹介されているということだけでも、ジャンル別展示が徹底しているという印象を与えられるのではないでしょうか。

プレスプレビューの際、本展監修者の浅香正氏のレクチャーがありました。以下、その際の要点を踏まえ、この展示で特に注視すべきポイントを6つほど紹介したいと思います。(1~4については浅香氏による、また5と6については私の思う見どころを挙げています。)
1.「華麗なる銀食器」 ~「イナクスとイオの家」出土の銀食器群~

まず目立つのは国内では過去最大出品数を誇るという、当時の食卓を飾った銀食器の数々です。ポンペイでは19世紀に始まった発掘作業以降、約6000余もの食器が発見されているそうですが、うち最高級のものとして知られる通称「イナクスとイオの家」出土のそれが、約50点ほど紹介されています。これらはいうまでもなく、ポンペイの各家の富の象徴としても重宝されました。
2.「追い炊き可能な浴槽」 ~「ボスコレアーレ、ピサネッラ荘の高温浴室」~

美術展に似付かないような、何やら装置風の作品こそ、今回の博物館的なポンペイ展の一種のハイライトではないでしょうか。古代ローマ人の使っていた浴槽が再現される形で登場しました。

鉛製の配管までを間近で見ることが出来ます。ちなみにこの浴室は追い炊き可能とのことでした。

ポンペイでもとりわけ裕福な農業家の個人用のものだそうです。裏へ廻ると大理石製の浴槽が姿を現しました。
3.「庭園の美」 ~ポンペイの高い造園技術を知る~

ポンペイの邸宅には回廊を付けた「ペリステュリウム」と呼ばれる庭園がいくつも造られました。

展示ではそうしたペリステュリウムに置かれていた噴水、彫像などが多数紹介されています。また簡素ながらも薄いグリーンの壁面が、当時のローマ人たちの社交、憩いの場の雰囲気を醸し出していました。
4.「噴火犠牲者」 ~人体の型取り像~

展示冒頭に登場するのが、かの噴火で罹災した人間を象った樹脂製の像です。その姿には悲惨な災害の様子も浮かび上がってきますが、ここでは足首によく注意して見て下さい。輪がかけられています。この人物は言うまでもなく、古代ローマ文明の担い手でもあった奴隷の一人でした。
5.「神々の『フィギュア』」 ~第6章「祭壇の神々」~

この展示で私が一番興奮したのが、当時の一般家庭に祀られていたという青銅製の小さな神像各種でした。

ギリシャ神話からエジプト由来まで、まさに多神教のローマならではの様々な神様が勢揃いしています。

ウェヌス、ヘルクレス、そしてミネルヴァにユピテルなど、お馴染みのモチーフが僅か20センチほどの彫像に表されていました。まさに古代ローマのフィギュアです。
6.「色鮮やかなフレスコ画群」 ~驚くべきその彩色~

ポンペイと聞いて真っ先に頭に浮かぶのが、美しいフレスコ画の数々です。一見したところでは状態も良く、彩色もかなり鮮やかなように思われました。

「ディオニュソスとアリアドネ」。シュトラウスのオペラでも有名なアリアドネをディオニュソスが発見するシーンが描かれています。
一通り展示を振り返って改めて感じたのは、単に「ポンペイの美術工芸品」を愛でるというよりも、「日常生活に潜んだポンペイ人の美意識」を伺い知る展覧会であるということでした。その意味で過度なエンタメ色は薄められています。

また会期中、監修の浅香氏の講演会なども予定されています。
「ポンペイの産業と交易」
講師:浅香正(同志社大学名誉教授 本展総合監修者)
日時:4月10日(土)15:00-16:30(開場14:30)
「技法から観るヨーロッパ・アジアのフレスコ画 ー ポンペイの『赤磨き』を中心 に」
講師:大野 彩(フレスコ画家)
日時:5月1日(土曜)15時00分から17時00分 (開場14時30分)
*ともに会場は横浜美術館レクチャーホール(定員240名・先着順・聴講無料)

なお本展は国内5会場の巡回展です。横浜展終了後、以下のスケジュールで巡回します。(福岡展は終了。)
名古屋市博物館 :2010年6月24日(木) - 8月29日(日)
新潟県立近代美術館:2010年9月11日(土) - 11月23日(火)
仙台市博物館 :2011年2月10日(木) - 5月8日(日)
6月13日までの開催です。浜美の大型企画展ということで早めの観覧をおすすめします。
注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
「ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」
3/20-6/13

横浜美術館で開催中の「ポンペイ展 世界遺産 古代ローマ文明の奇跡」のプレスプレビューに参加してきました。
「ポンペイ展」と名の付いた展示は過去に何度か見た記憶もありますが、今回の最大のセールスポイントは、ポンペイの遺物を通り越して垣間見える「古代ローマ人の生活の提示」に他なりません。国内では過去最大の出品数を誇る銀食器をはじめ、これまた珍しい個人用の風呂など、時代を超えたローマ人の生活の息吹をダイレクトに感じることが出来ました。

よって章立てもポンペイの史的変遷をなぞるのではなく、もっと端的に生活の各シーンに沿った、言わばテーマ別の展示となっていました。
「プロローグ」:ポンペイに起きた噴火のドラマ。噴火犠牲者の型取りなど。
1.「ポンペイ人の肖像」:ローマ市民たちの肖像彫刻など。
2.「信仰」:ギリシャ神話とローマの神々。
3.「娯楽」:スポーツ、仮面劇など、ローマ人を熱狂させた娯楽を知る。
4.「装身具」:女性たちを飾った装身具。宝石箱や金の装飾品。
5.「家々を飾る壁画」:フレスコ壁画一覧。
6.「祭壇の神々」:ポンペイの家々にあった祭壇を飾った神々。
7.「家具調度」:生活を彩る調度品。個人用の浴槽など。
8.「生産活動」:ローマ人たちの労働。調理器具など。
9.「饗宴の場」:食卓を飾った銀食器類。
10.「憩いの庭園」:住宅の中庭に配置された彫像、水盤、噴水など。
壁画、彫刻、工芸品など全250点の品々が、事細かに分けられた10章構成にて紹介されています。それにしても例えば全46件登場する壁画が、中核となる第5章だけではなく、例えば主題毎に別々の章で紹介されているということだけでも、ジャンル別展示が徹底しているという印象を与えられるのではないでしょうか。

プレスプレビューの際、本展監修者の浅香正氏のレクチャーがありました。以下、その際の要点を踏まえ、この展示で特に注視すべきポイントを6つほど紹介したいと思います。(1~4については浅香氏による、また5と6については私の思う見どころを挙げています。)
1.「華麗なる銀食器」 ~「イナクスとイオの家」出土の銀食器群~

まず目立つのは国内では過去最大出品数を誇るという、当時の食卓を飾った銀食器の数々です。ポンペイでは19世紀に始まった発掘作業以降、約6000余もの食器が発見されているそうですが、うち最高級のものとして知られる通称「イナクスとイオの家」出土のそれが、約50点ほど紹介されています。これらはいうまでもなく、ポンペイの各家の富の象徴としても重宝されました。
2.「追い炊き可能な浴槽」 ~「ボスコレアーレ、ピサネッラ荘の高温浴室」~

美術展に似付かないような、何やら装置風の作品こそ、今回の博物館的なポンペイ展の一種のハイライトではないでしょうか。古代ローマ人の使っていた浴槽が再現される形で登場しました。

鉛製の配管までを間近で見ることが出来ます。ちなみにこの浴室は追い炊き可能とのことでした。

ポンペイでもとりわけ裕福な農業家の個人用のものだそうです。裏へ廻ると大理石製の浴槽が姿を現しました。
3.「庭園の美」 ~ポンペイの高い造園技術を知る~

ポンペイの邸宅には回廊を付けた「ペリステュリウム」と呼ばれる庭園がいくつも造られました。

展示ではそうしたペリステュリウムに置かれていた噴水、彫像などが多数紹介されています。また簡素ながらも薄いグリーンの壁面が、当時のローマ人たちの社交、憩いの場の雰囲気を醸し出していました。
4.「噴火犠牲者」 ~人体の型取り像~

展示冒頭に登場するのが、かの噴火で罹災した人間を象った樹脂製の像です。その姿には悲惨な災害の様子も浮かび上がってきますが、ここでは足首によく注意して見て下さい。輪がかけられています。この人物は言うまでもなく、古代ローマ文明の担い手でもあった奴隷の一人でした。
5.「神々の『フィギュア』」 ~第6章「祭壇の神々」~

この展示で私が一番興奮したのが、当時の一般家庭に祀られていたという青銅製の小さな神像各種でした。

ギリシャ神話からエジプト由来まで、まさに多神教のローマならではの様々な神様が勢揃いしています。

ウェヌス、ヘルクレス、そしてミネルヴァにユピテルなど、お馴染みのモチーフが僅か20センチほどの彫像に表されていました。まさに古代ローマのフィギュアです。
6.「色鮮やかなフレスコ画群」 ~驚くべきその彩色~

ポンペイと聞いて真っ先に頭に浮かぶのが、美しいフレスコ画の数々です。一見したところでは状態も良く、彩色もかなり鮮やかなように思われました。

「ディオニュソスとアリアドネ」。シュトラウスのオペラでも有名なアリアドネをディオニュソスが発見するシーンが描かれています。
一通り展示を振り返って改めて感じたのは、単に「ポンペイの美術工芸品」を愛でるというよりも、「日常生活に潜んだポンペイ人の美意識」を伺い知る展覧会であるということでした。その意味で過度なエンタメ色は薄められています。

また会期中、監修の浅香氏の講演会なども予定されています。
「ポンペイの産業と交易」
講師:浅香正(同志社大学名誉教授 本展総合監修者)
日時:4月10日(土)15:00-16:30(開場14:30)
「技法から観るヨーロッパ・アジアのフレスコ画 ー ポンペイの『赤磨き』を中心 に」
講師:大野 彩(フレスコ画家)
日時:5月1日(土曜)15時00分から17時00分 (開場14時30分)
*ともに会場は横浜美術館レクチャーホール(定員240名・先着順・聴講無料)

なお本展は国内5会場の巡回展です。横浜展終了後、以下のスケジュールで巡回します。(福岡展は終了。)
名古屋市博物館 :2010年6月24日(木) - 8月29日(日)
新潟県立近代美術館:2010年9月11日(土) - 11月23日(火)
仙台市博物館 :2011年2月10日(木) - 5月8日(日)
6月13日までの開催です。浜美の大型企画展ということで早めの観覧をおすすめします。
注)写真の撮影と掲載は主催者の許可を得ています。
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