指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『女賭博師』

2019年01月16日 | 映画

昨年亡くなった江波杏子の代表作『女賭博師』の1作目かと思うと、2作目である。

最初は、よく知られているが、若尾文子を主演に企画された『女の賭場』で、この2作目の方が、江波に合う脚本にされている。

                                      

江波は、都心でピアノバーをやっている女性だが、写真のモデルでもあるというように、現代的な女性にされている。

その彼女が持つビルの2階で写真スタジオをやっているのは、恋人の本郷功次郎である。

だが、江波の影の本職はというのが、賭博師である。

市井の普通の人間が実は、というのは大映にあり、市川雷蔵の傑作『ある殺し屋』も、最初の作品では、割烹の板前、2作目では踊りの師匠だが、凄い殺し屋である。

冒頭で賭場のシーンがあり、そこで江波の花札の勝負が披露され、そこに謎の女川口小枝がいて大負けして、彼女は金を持ち逃げして自殺を図ったサラリーマンと心中するが、彼は死ぬが、川口は奇跡的に助かる。

そして、川口は江波に対し復讐を企て、本郷のスタジオに現れ、いきなり全裸になって撮影してもらい、セックスもして本郷を自分のものにしてまう。

川口小枝は、武智鉄二と川口秀子との間の子で、この時期大島渚の映画『白昼の通り魔』などにも出ていた。

江波は、本郷から別れ話を告げられ、川口と三人の対決になるが、その場で川口は言う、

「こいつは賭博師なのよ!」

驚愕する本郷、江波は賭博の名人加藤嘉の娘であり、人気賭博師なのだった。

この設定は非常に面白く、20世紀の現代都市東京の裏側には、こうした我々の知らない世界があるのではないか、という気がしてくる。

江波を雇っているのは、ヤクザの野心的な親分内田良平で、彼女に惚れているが、加藤は、江波と子分の松吉の山田吾一を結婚させようとしている。いつもは喜劇演技の多い山田が、無口でニヒルな演技で非常に良い。

内田は、名古屋の大親分内田朝雄を迎える大花会を開き、加藤は「これなら」と引退興行として花札を見せる。もちろん、「入ります」の手本引きである。途中で、警察の手入れが入り、花会は流れてしまい、責任を取って加藤は拳銃で自殺する。

この経緯に疑問を持つ江波は、名古屋の内田朝雄のところに行き確かめると、すべては内田良平の嘘であることがわかる。

そこに花札修行に来ていた川口が現れ、江波に挑戦して完全に負ける。江波は、川口に本郷と結婚して普通の生活に戻れといい、川口は賭博と縁を切ることを本郷に誓う。

江波は、山田と一緒に、内田良平を殺すことを図り、内田をベッドに誘い、山田が上から内田をメッタ刺しする。だが、瀕死のときに子分に電話し、多数の子分で山田も殺されてしまう。

最後は、オフィスビル内で行われている賭博で、

「江森夏子、25歳 賭博だけが、この女の命が燃えるときだ」

のナレーション、「入ります」で終わる。

監督の弓削太郎は大したことのないと思っていたが、これは非常に良かった。

だが、彼は1972年5月に軽井沢の山中で死体が発見される。

彼の他、両内田、山田吾一、加藤嘉、川口小枝、そして江波杏子も死んでいる。

池野成の抒情的な音楽も大変に美しい。

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