さて今回は、少し固い話になるが、達人経理マンになるためには、どうしても避けて通れない『会社法』について簡単にまとめてみた。退屈だと思う人は読み飛ばして、明日に期待して欲しい。
従来「商法」、「有限会社法」と呼ばれていた法律を統合・再編成して会社法と題する法律が制定された。公布は2005年7月26日で、2006年5月1日に施行されている。
またこれにより有限会社法は消滅し、新規に有限会社の設立は出来なくなった。ただし会社法施行以前に有限会社であった会社は、特例有限会社として存続することになる。
従って会社形態を取る限り、上場企業であろうと、零細企業であろうと、この会社法を無視するわけにはいかない。また会社法では、会社の機関として「株主総会」、「取締役」、「取締役会」、「監査役」、「監査役会」、「三委員会(指名委員会・監査委員会・報酬委員会)」、「執行役」、「会計監査人」、「会計参与」を定めている。
このうち「株主総会」と「取締役」は、全ての株式会社に必ず設置しなければならない機関となっているが、それ以外の機関については、会社の区分により異なることになる。
会社法では、資本金5億円以上かつ負債総額200億円以上の会社を「大会社」、それ以外を「中小会社」に分類している。また株式の譲渡制限がない場合は、公開会社、それ以外は非公開会社という分類もしている。(注:公開会社=上場会社ではない)それらを加味したうえで、さらに会社を分類すると次の4パターンとなり、それぞれに応じた規定が設定されている。
(1)中小会社&非公開会社
日本の会社の約90%は、ほとんどこの分類に該当する。いわゆる「中小企業」と呼ばれている会社である。機関設計の選択肢が最も多く自由度が高い。理論上は21種類のパターンが考えられるが、取締役のみ1名という選択も出来るので、零細企業ではそれを利用しない手はないだろう。
(2)中小会社&公開会社
会社の規模は余り大きくないが、多くの出資者を集めたいという会社。将来株式上場を目指している会社等が該当する。
(3)大会社&非公開会社
会社の規模は大きいが、限定的な株主のみで構成されている会社。大部分は大企業の子会社が該当するが、オーナー一族が運営する有名な非上場会社等にも該当企業がある。
(4)大会社&公開会社
会社の規模が大きく、出資者数も多い会社。一般的には、上場企業が該当する。また上場企業の場合は、会社法だけではなく、金融商品取引法という法律も遵守しなくてはならない。
大企業では、総務部の中に「法務部門」を置いて、会社法や金融商品取引法なども十分に研究している。だから大企業の経理マンとしては、それらの法律の基本的な部分と、会計に関連する部分だけをしっかり理解していればよい。
ところが中小企業では、「法務部門」どころか、総務も人事も含めて経理マンの仕事になっている場合が多い。だからといって、大企業のような複雑な事態は頻繁に起こらないし、金融商品取引法の適用もない。従って会社法についても、大企業のような勉強をする必要もないだろう。
ただ中小企業の場合は、全てが経理マンに委ねられているため、広く浅い知識を持ち、臨機応変に対処する能力が求められる。そこで本章では的を中小企業に絞って、経理マンが知っておくべき会社法の知識と、その活用方法について述べることにしたい。
(1)大会社にしないことが肝要
前述した通り、資本金5億円以上かつ負債総額200億円以上になると、会社法上の大会社と区分されてしまい、上場会社でなくても、会計監査人の設置義務を負い(会社法328条)、結果的に「企業会計基準の強制適用」を受ける事になってしまう。また会社の機関についても、中小・非公開会社のような簡便的な組織は認められない。
これでは一大事である。金はかかるし、いろいろと束縛される事になる。だから現実には、資本金を4億9千万円に抑えている会社が多い。社長を説得して、絶対に中途半端な増資はさせないことである。
(2)取締役会と株主総会の運営
平成15年4月に施行された商法改正において、「委員会設置会社」制度が導入され、会社法に引き継がれた。だがほとんどの中小企業は、この馴染みのない制度を選択せず、従来どおり「取締役会設置会社」を続けている。
従ってここでは「委員会設置会社」は無視することにし、昔ながらの「取締役会設置会社」の取締役について簡単に説明しよう。
公開会社でない株式会社であれば、定款で取締役が株主でなければならない旨を定めることができる(会社法331条2項但し書)ので、これを有効に利用したほうがよいだろう。
取締役は、株主総会で選任され、原則として定足数として株主の議決権の過半数の賛成が必要。また三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上にあたる株主の出席が必要であり、その出席した株主の議決権の過半数で決せられる。
先に述べた通り、取締役一人の株式会社であれば、たぶん株主も同一人物一人であり、全く面倒な問題は起こり得ない。会社法が制定される前の商法では、実質は一人株主・一人役員であっても、法の上ではそれが認められず、形式だけ整えるのにいろいろ面倒であった。
だが会社法では、実態を考慮した簡便な手続きが認められるので、実務者にとっては非常にありがたい。取締役一人の会社の場合は、当然取締役会は不要だが、株主総会だけは必要となる。といっても一人株主なら、総会といっても、独り言のようなものである。実際に総会を開催していなくとも、形式的な議事録の作成をしておけば特に問題はない。
また一人取締役会社は、取締役会がないため、会社運営に関するほとんどの事項が、株主総会の決議事項となるのだが、通常は次のような議題に絞られるはずである。
● 定款の変更
法律などの改正で定款の変更が必要になる場合以外はほとんどないだろう。
● 役員の選任
通常は取締役の任期が2年、監査役の任期が4年だが、株式譲渡制限会社の場合は10年
迄延長できるのだ。当然、一人取締役会社は、事務経費削減のため、これを利用しない手はないだろう。
● 役員報酬の決定
ここで決めた報酬額が、法人税法上の適正報酬の判定基準になるため、しっかりと決めておかねばならない。
さて株主総会前後の事務手続きの流れだが、おおむね次の通りとなる。
①招集通知の発送
通常は株主総会の日の2週間前までに、株主に対して総会の開催日時及び場所、議題等を記載した招集通知を発送する。ただし取締役一人の会社では、取締役会がないため、株主総会での決議事項は増えるものの、招集通知については、口頭で1週間前までに通知すれば良い事になっている。ほとんどが、自分が自分に通知するのだから、当然といえば当然だろう。
②総会当日の報告・承認決議
③総会議事録の作成
④総会で承認された事項の登記
定款変更や役員変更がある場合に必要となる。自分で登記手続きをやってもよいが、総会議事録などの必要書類さえ揃えておけば、司法書士に頼んでも手数料はさして高くない。従って、勉強のために経験してもよいが、通常は時間の節約のため、司法書士に頼んでしまうほうが無難である。
なお株主総会に関連する一連の書式は、ネットにいくらでも掲載されているので、ワードなどを使って自社向けの書式に手直ししておこう。
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