もう50年以上昔の話である。当時の会計事務所いや正確には税理士事務所の初任給は、今では信じられないくらい安かった。それでも職員として入所してくる者がいたのは、分かり難い税務の実務を学べるからであった。今でこそ図解やマンガで分かり易く解説した税務本が数多く出版されているが、当時は難解な税務専門書が中心で、実務を知らない者にとっては、税法や税務申告書は近寄りがたい存在だった。ことに実務家ではない大学教授の税法講義などは、面白くないうえにチンプンカンプンであった。
それが税理士事務所で、実務を学び実際に申告書の作成などに携わってみると、みるみるうちに税法やら申告書の仕組みやその意図するところが理解できるようになる。少なくとも2~3年間で税務実務の殆どがこなせるようになってしまうから不思議なものである。もちろんこれは良い先生や先輩に恵まれていたからであろう。ただ顧問先が零細企業ばかりで、海外取引などの難解な取引が皆無なのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。まあいずれにせよ、少なくとも税務関連の実務を学べるのだから、2~3年間は授業料と考えて安い給料でも辛抱できるのである。これが徒弟制度と言われた所以ではないだろうか。
だからと言って5年も10年も薄給に甘んじていては結婚もままならない。それで実務の傍らしっかり勉強して、さっさと税理士試験に合格して開業することになるのである。もちろん税理士事務所のほうも、定年まで高額給料を支払い続ける余裕はないので、弟子の独立祝いとしていくつかの顧問先を譲渡し、暗に退職してくれることを期待しているのだ。
ところが必ずしも全員が税理士試験に合格できるほど税理士試験は甘くはない。合格率2%前後と言う超難関の国家試験のため、ほとんどの人が税理士になれないのが現実なのだ。私もそのうちの一人であり、5科目中3科目しか合格できず、税理士を諦めて一般会社の経理マンとして生きることになったわけである。だが税理士事務所時代の実務経験と、3科目合格という資格がものを言い、その後の就職活動や経理マン人生に多いに役立ったことは間違いないだろう。
作:蔵研人
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