50過ぎてからの中途入社は、気をつけなくてはいけない。神経が細かいくせに気の強い人は特に要注意である。必ずといってよいほど3O~40前後の脂の乗りきった、職人タイプのプロパーにいじめられると覚悟しておこう。それでも職種が全く違えば救われるが、似たような職種の人には気を付ける事。
そもそも50過ぎてから入社する場合は、トップとのコネとか、ハイレベルの技術を持っている人が多い。それでいきなり役職に付く場合も少なくない。
ところで前述のプロパーさん達は、かなり自信過剰だし、自分が思う程社内で評価されていないことに不満を感じている。そんなところに何処の馬の骨とも知れない奴が入ってきて、自分より上の役職に付く事自体が不愉快なのである。
それでも腰が低く、上手におだててくれるような明るい侵入者なら許してくれるかもしれない。というより乗せられてしまうのであるが、侵入者にその手の能力がない場合は、絶対に上手く行かない。
そもそもが、サラリーマン上手でないから、中途退社して再就職するのであり、だから当然いじめられる傾向にある、と考えたほうが間違いないだろう。
私が50歳を過ぎて、とある中小不動産会社に転職した時、四十前後の部下が二人ついた。一人は銀行との交渉に長けた、信用金庫出身の古株男性。今一人は私より半年先に転職してきて、経理全般を担当しているハイミスだった。
社長に期待されてはりきって入社したものの、私がやるべき仕事は殆んどない。この二人でも残業ゼロ状況であった。
こんな小さな会社で「経理部長でござい」と、ただ座っているだけでいいはずがない。一体何のために雇われたのか疑問だったが、暫くして社内事情が掴めてくると、だんだんその理由が判ってきた。
どうも私の部下二人は、社内では鼻つまみ者で、社長もそんな彼らを辞めさせたいらしい。だが法に触れる悪事をするわけでなし、かつ中核的な仕事を握っているため、あとでしっぺ返しが怖いので余り粗雑に扱えない。
そんなジレンマを打破するため、私を助っ人として雇ったようである。そして将来タイミングを見計らって、彼らをクビにしても困らないための押さえでもあった。
そんな社長の思惑を薄々感じたのか、彼等のガードも固い。男のほうは、何を話しかけても、一言二言返すだけで話が続かない。また女のほうは、自分の仕事を絶対離さない。
そして二人とも、何処に何があるのかさえ、教えてくれないのだ。そのうえ朝くるのが遅いので、事務所内の掃除はいつも始業30分前に来ている私の役割になってしまった。
まあそんなことはどうでも良かったが、ほかに仕事がないのが辛い。彼等に仕事を分担しようと提案しても、全く無視された。挙句の果てに、男からは「倉庫の中が目茶目茶なので、書類の整理をしてくれ」と言われる。
また女からは「郵便物の集配をしてくれ」と言われたのである。
一体お前達は何様だと思っているのだと怒鳴りつけたいのをじっと辛抱し、とりあえず倉庫の整理だけはやることにした。何処になにがあるのかを教えてくれない以上、倉庫整理をしながら書類の在り処を調べることが先
決と考えたからである。
毎日作業着に着替えて、書類の山との孤独な戦いが続いた。しかしそのお陰で、どうやらこの会社の書類などの所在を確認することが出来たのは嬉しかった。そしてその中で、何とかこの会社の過去を知り、自分のやるべき仕事を探すことも出来た。
といっても倉庫整理と過去帳調べが終わると、また毎日退屈な日々が続く。普通中小企業の経理部長なら、決算を行ったり資金繰りをしたりするものだが、その全てを部下の二人が握っていて死んでも離さない。
また資金繰りといっても、お金がなくなると、支払いをジャンプするとか、いかがわしい不動産ファンドをユーザーに売りつけたりするのだ。そしてそれらのクレーム対応だけが私の仕事だという。会社のこともよく判っていない私は、ただただ「すみません」と頭を下げるばかりだった。
また3万円以上の経費は全て稟議書を提出させ社長決済となっていた。この稟議書をチェックして、なるべく営業経費を使わせないよう営業部に勧告するのも私の仕事だという。
だが会社の事業も良く知らない新人が、もっともらしく稟議書に書かれた経費を、「こんなものは不要だ」と撥ねつけることが出来るはずがない。
私の主だった仕事といえば、電話番と事務所内の清掃や倉庫整理、そして社外のクレーム処理と社内経費の締め付けだけなのだった。結局皆自分達がやりたくない仕事を、私に押し付けただけじゃないか。それでも大きな会社ならともかく、こんな仕事だけでは、1日1時間もあれば終わってしまう。
そこで仕事を離さない女に、仕事を分担するよう再び交渉した。ところが女は開き直って絶対に、誰にもこの仕事は渡さないと、厳しい口調と眼差しを私に向けるばかりだった。
とうとう堪忍袋の尾が切れて、私は大声で彼女を叱りつけ、職権で言うことを聞かせようとした。ところが女は、全く動じないばかりか「あんたのような役に立たない大企業出身者ばかりくるので、こちらのほうが迷惑しているのだ!」と叫びだす始末。
だめだこりゃあ。その日は険悪なムードが充満した。翌日社長に呼ばれて、「よくやった、あれでいいのだ」と言われたが、どうもすっきりしない。
昼休みに営業部の古参社員と一緒に食事をしたら、「以前問題ある女性社員を解雇したら、机全面に『殺してやる!』と彫刻刀で何文字も切り刻んであった。あんたも注意したほうがいいぞ」と驚かされた。
嘘か真か分からないが、なにか身の毛のよだつようなおぞましい話だ。なんだか、だんだん嫌気がさしてきた頃、この会社の社員の平均勤続年数が、約半年だということが判明した。だから3年もいれば大威張り出来るのだという。
もともと強気で、中小企業を渡り歩いてきた私だが、20年間上場会社勤務を続けているうちに牙を失くしてしまったのだろうか。それとも年を取り過ぎたのだろうか。いろいろな会社があるものの、この時ばかりは、やはり中高年からの転職は辛く厳しいのだ、ということを実感せざるを得なかった。
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