1998年に発覚した大蔵省接待汚職事件(ノーパンしゃぶしゃぶ事件)以来、公務員の接待規制が厳しくなり、現在は税務調査時の接待はほぼ皆無になったようである。では昔は大袈裟な接待をしたのかと言えば、必ずしもそうとは限らない。ことに公務員の中でも税務職員は、ある意味で税の取立人であるから、昔から企業の接待には用心深く「お茶は飲むがコーヒーは飲まない」とか「企業が用意した昼食は、実料金に満たなくとも規定料金分だけは精算する」とか囁かれていたくらいである。
だがそれはあくまでも建前で、ことに東京本社での調査時に限ったことだった。だから地方にある工場などへの出張調査時には、だいぶ心が緩んでいたようだ。
都心の場合は、万一接待された場所などで、同僚や上司などと偶然会うかもしれない。またそうした『戒めの眼』が調査官の心の中でも光っていたのかもしれない。
だが地方に行けば知っている人に出逢うことは皆無だし、だいたい工場周辺は辺鄙で、歩いて食事に行けるところも見当たらない。また数日の出張では細かい調査は余り出来ず、工場見学をしたり原価計算の説明などを受けているうちに、だんだん気分も大らかになってくるものである。
そして昼食は工場の社員食堂で良いと言っても、「申し訳ありませんが、準備が出来ていないので外部の食堂へ案内します」と言われれば、とりあえず断るわけにもゆかないではないか。こうして車に乗せてしまえば、もう後戻りは出来ない。そのまま1時間程度かけて遠出し、海辺の高級割烹まで連れ込んで「海の幸ース」を振る舞い、帰りがけに奥様へのお土産と言いながら「塩辛や干物」などをそっと手渡すのだ。これで工場へ戻ればすでに夕暮れが迫っており、調査官たちはもう仕事をする気にはならない。
さすがに翌日は調査官たちも、「今日のお昼は社員食堂か、もう少し近い場所でお願いします」と言ってくる。だが手足をもがれている彼等に選択の自由はなく、「はいわかりました、今日は近場にご案内します」と言われれば、それに従うほかはない。そして今度は車で5分位の料亭に連れて行き、昼間から『スッポン料理』のフルコース。
・・・結局のところ、調査員たちが工場で得た収穫は『消耗品の棚卸漏れ3百万円』オンリー、しかも翌期認容につき実質ゼロに等しい体たらくなのだ。そしてそれも企業側が事前に準備した『お土産』だったのである。まあ出張調査などそんなものなのだが、工場で調査に立ち会っていた経理担当者は、なんと元税務調査官から転職したA課長であった。
★下記の2つのバナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ! またこのブログ記事が役立った又は面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。