経理・経理・経理マンの巣窟

大・中・小あらゆる企業で経理実務経験約40年の蔵研人が、本音で語る新感覚の読み物風の経理ノウハウブログです

迷惑千万だった本社機能移転

2013-03-05 10:56:20 | たそがれ経理マン編

 ちょうどバブルが崩壊したころの話なので、15年以上も昔の話である。当時私は某上場企業の本社経理課長。生まれて初めて日本紳士録という、偉い人の経歴が掲載されている豪華本の末席に掲載されてびっくりしていた頃でもある。
 その頃は日本中が急激に不況となり、どこの企業でも日本初のリストラ対策で大騒ぎしていた。私が勤務していた製造業でも、毎日のように役員さんたちが無い知恵を絞って、経費削減策を練っていた。その中には「トイレの手拭きペーバーは使わない」とか「エレベーターを使わず歩け」とか「鉛筆は一センチ以下になるまで使え」とか、とにかく全くその効果が薄いのに従業員のモチベーションを下げるだけの、まるで小学生並の政策を大真面目に実施した能無し役員もいた。

 そうした中で比較的ましな役員が提案した「地方都市への本社移転」が社長の好感を得てしまい、本気で移転する話が浮上してしまったのである。移転先の地方都市には新幹線の駅があり、東京からさほど遠くないため通勤も可能だ。また従来はメインの生産工場だったのだが、多くの製品の生産場所はさらに田舎の工場へシフトしてしまい、ここの工場内はガラガラになってしまったので、本社部門が移動してくるスペースはいくらでもあるというのである。また従来からその工場内に配置されていた従業員も有効活用出来るという。さらには本社が移転してくれば、本社ビルを他人に貸して賃貸料収入が得られるというものであった。

 まあ本社全部が移転するなら、それも良いかもしれないと思って最初は賛成したのだが、結局は社長・会長が動かないことになり、経営企画室・海外部・営業部・それに経理部の中の財務課まで移動しないことになってしまったのである。そして移転するのは総務部、人事部、経理部のうち経理課という総勢僅か10人程度だけだという、当初の予定とは全くかけ離れてしまった布陣だったのだ。
 この裏切られたような決定に腹が立った私は、役員会に出席してそのデメリットを幾つも並べて反対したのだが、居並ぶ役員たちはただ沈黙するばかりで、良いとも悪いとも言わなかった。数日後に担当役員に呼ばれて、「従前の案通りに本社機能移転が決まったので従ってもらいたい。これは会社としての決定だから、従えなければ辞めてもらうしかないね。」と有無を言わせない態度で挑まれてしまった。

 それで仕方なく、このどうにもならない会社方針に従って、約3年間地方都市にある旧工場に移動したわけであるが、そこでは筆舌に書き尽し難いほどの、いろいろな困難と苦痛が待っていた。そこでは税務の本一冊買うにも東京まで出向かなければ手に入れられなかったし、従業員を募集しても集まらないし、国税局が来ても監査法人が来ても不便このうえない。また資料の大半が東京の財務課にあったため、書類や会計伝票が行ったり来たり、日常的な経理処理どころか予算や決算も作業量が倍加してしまった。
 そのうえ我々が去った後の本社スペースは、他の企業に賃貸するどころか、営業部などがスペースを贅沢に使い始めただけで、当初の目的だった賃貸料収入など、一体どこに行ってしまったのだろうか。

 毎日毎日無償の超残業が続いて、家に帰れるのは一週間に一度という有様。結局のところ、地方都市に移った10人程度の中でも、我々経理課の者が一番苦労しただけであった。こんなことが引き金になって、私はこの会社を去ることになってしまった。
 あとで知ったのだが、私が退職して3年後には、経理課をはじめとして、この地方都市に移転した部署は、再び東京の本社に戻って来たという。一体私たちは何のために苦労し、会社まで辞めなければならない状況に追い込まれたのだろうか。全く持って迷惑千万だった本社機能移転であった。

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1 コメント

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神はサイコロ遊びをする (グローバルサムライ)
2024-03-18 14:22:56
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタインの理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の考えることを模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。一神教から多神教的何かへ。なにかしら懐かしい日本らしさへの回帰。

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