私がまだ小さい頃、世田谷の実家では和菓子の製造販売を行っていた。ところが私が中学生の頃に父親が胃がんを患い、辛く厳しい製造業を続けることは難しくなってしまう。それでやむなく郊外に転居して、乾き菓子とパンの販売店を開業することになったのである。
仕入れて売るだけだから、粗利は大体売値の2割程度、それでも当初はそこそこ儲かっていた。ところが近くにスーパーマーケットが出来たとたん、全くお客が来なくってしまったのだ。それもそのはず、スーパーには何でもあるし、モノによっては商店が問屋から仕入れる卸値より安く売っているからである。だから逆に個人商店である我々も、行列して特売品をスーパーから購入し定価で店に並べたものだった。
こんな状況が続けば、種類が少なく売値が高い個人商店が衰退するのは目に見えている。ただ唯一の救いは、当時のスーパーはまだ午後6時頃までしか営業していなかったことである。個人商店はその隙間、つまり鬼(スーパー)のいない夜10時過ぎ頃まで営業することによって生き延びていた。だがやがてセブンイレブンなどのコンビニが立ち上がってきて、早朝や深夜の隙間産業まで奪われてしまうのだ。そして次々と個人商店は潰れてしまったのである。
もはや買って売るだけの単純な商売では、大資本に立ち向かうことは出来ない。だからと言って製造業でも、誰でも創れるものを漫然と製造しているだけでは、大企業の下請けになり下がって買いたたかれるだけで、やがては切り捨てられてゆく運命が待っているだけであろう。
では個人商店は、なす術もなく絶滅してゆくだけなのだろうか。農業や漁業でさえ、将来は大企業が参入しようとしているご時世である。従って個人商店が生き残るのは、なかなか難しい時代なのだが、特定の職種においてはなんとか生き延びてゆけるかもしれない。
いま個人商店がなんとか凌いでいる商売は、農業・漁業・畜産業など国の保護を受けている自営産業、ラーメン屋・蕎麦屋・フレンチ・ケーキ屋・バーなどの飲食店、医者・弁護士・税理士・設計士などの士業くらいのものである。この中でも、大企業と競合している飲食店が一番厳しく、栄枯盛衰の激しい商売ではないだろうか。
そして大企業に勝つには、ただ美味いだけではだめだ。美味でかつ特徴のあるものを、そこそこの値段で売らなくてはならないし、大企業にない柔軟で愛想の良い対応も必要である。そしてネットやTVで評判になること。しかし人の心は移ろいやすいものである。頑固さやこだわりも必要だが、絶えず時代の空気を読み、新しい商品の開発を怠ってはならない。
つまりこれらを簡単にまとめれば、品質・価格・サービス・話題性などの、トータルコストパフォーマンスの良さこそが、個人商店が生き残る道と言えるのではないだろうか。また例え成功しても決して傲慢さに溺れず、常に謙虚なる探求心を持ち続けることが永遠のテーマなのである。
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