経理・経理・経理マンの巣窟

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税効果会計の功罪とは

2011-12-05 09:36:23 | 崩壊する上場企業の経理

 そもそも税効果会計って何者だろうか。会計を知らない人に、これを短時間に判りやすく説明する自信はない。
 この制度を説明するには、法人税等の仕組みから話さなくてはならないからである。だがあえて無理やり説明しなくては、この話が進まない。面倒な話は聞きたくないと思う人は、ここは読み飛ばして欲しい。

 会社は決算期ごとに、儲けた利益に対して、約40%前後の法人税等を納税しなくてはならない。もし会社が作った損益計算書の利益に、ただ税率を乗じるだけならば、税効果会計などという面倒な仕組みも出来なかっただろう。

 そもそも損益計算書を作る基になっている会計規則と、税法の定める処理規則が一致していないのだ。従って実際に納税する税金の計算をする場合は、損益計算書の利益に、会計と税法の不一致事項を加減算して調整するのである。
 この税務調整後の利益を、税法では課税所得と呼ぶ。会社が大きくなるにつれ、この調整額は膨大になってくる。またこの調整は、永久に不一致なものと、期間のズレだけのものに分けられる。

 期間のズレの中には、翌年になれば一致するものと、長期間に亘って一致するものがある。だがその大半は、翌年になれば一致する項目ばかりだ。1年後には会計も税法も一致するなら、どうでもいいじゃないの。同じ財務省の中で、何を目クジラ立てて異なる扱いをするのかと不思議に思う人もいるだろう。

 しかし会計も税法も、決算という短期的なサイクルを基準にしているのだから仕方がない。この1年を先取りするか後回しにするかで、いつも凌ぎを削っているのだ。
 また会計と税法ではその目的が全く違う。会計は投資家や債権者のためにある。もっとエゲツなく言えば、最近の会計基準は米国のハゲタカファンドのためにあると、言い切ってしまいたい。
 ところが税法は、日本国の歳入徴収のためにあり、政策にも利用されている。ぶっちゃけ極論を言えば、会計は米国のためにあり、税法は日本政府のためにある。だから両者が一致する訳がないのだ。

 米国嫌いの悪い癖で、話がまた横道にそれてしまいそうなので元に戻そう。
 近年米国流会計のお陰で、両者の不一致項目が目白押しとなってしまった。もしこれを無視したら、会計上の利益が大赤字なのに、多額の法人税等が計上されるという矛盾に突き当たることにもなる。そこでそうした矛盾を生じさせないために、税効果会計という便利で不思議な術が編みだされたのだ。
 つまり会計と税法の期間的不一致金額に実効税率を乗じて、勝手に会計上の税額を調整してしまうのである。これを法人税等調整額と呼び、通常は税金のマイナス項目となることが多い。これで見かけ上は、あたかも会計上の利益金額に、直接課税されたかのように見えるのである。だが納税する税金が変わるわけではない。あくまで会計表記上の話なのだ。

 損益計算書上に、こうして発生してしまったマイナス表示の税金は、貸借対照表上では、繰延税金資産という資産に計上される。この資産は具体的に現金化されることはない。言ってみれば前払税金的な性格を持つだけである。それも税法で認められた前払いではなく、会計上想定した前払いという不安定で影の薄い資産なのである。
 またあくまで期間的な差異だけの調整なので、「交際費」などの永久的な差異は調整しない。こうして税務上繰り越された費用が、翌期以降に税務で認められると、今度は損益計算書上で逆に税金のプラス項目として表示されるのだ。そして貸借対照表上の繰延税金資産は、精算されて消滅するわけである。

 会計と税務の両方を知らない人には、たぶん何を言っているのかチンプンカンプンであろう。だから税効果会計の話をするのは嫌なのだ。しかしここを通らないと、次に進まないから仕方ない。
 こうして日本の決算書にも、お金と結合しない繰延税金資産が、どんどん増殖し始めたのである。この制度が生まれた当初は、広がりつつある会計と税務のギャップを埋める便利な仕組みと感心したものだ。
 ところが一方で、会社によっては何干億円もの膨大な架空資産が、増殖し始めてくる。これが日本中の会社に蔓延し、ROAなどの財務分折が無意味となり、投資家の誤解を呼ぶ厄介者に成り下がってしまったのである。

 そんなことは始めから予想出来たのだが、「米国のいいなり会計」にそんな先見性はなく、公認会計士たちはこぞって右往左往状態である。そしてこの繰延税金資産を、部分的に否定する実務指針を乱発し始めた。
 まず役員定年制のない会社の「役員退職慰労引当金」、当面売却予定のない「投資有価証券評価損」など。それらに関わる繰延税金資産を取り崩さないと、監査報告書に意見を書くぞと脅すのだ。

 さらには5年間の経営計画に基づく課税所得の推移やタックスプランを精査し始めた。つい最近までは、こんなものは形式だけだからと言っていたのに、急に態度が豹変してしまったのである。そもそも1年先のことだって誰も予測出来ないのに、神様じゃあるまいし、正確な5年間の経営計画なんぞ作れる訳がないじゃないか。という思いを隠しながら、それなりの経営計画書を作らざるを得ないのだ。

 そして会計士のほうも、それなりの注文を付けながら、それなりに監査するのだろう。バカバカしいが、これがお互いに身を守るための高等戦術なのである。
 この税効果会計は、実務者としても会計監査人の立場からも、非常に面倒な代物になってしまった。さらに一般の投資家からみれば、全く訳の判らない制度に映るはずだ。

 そもそも法人税等を損益計算書に織り込むからおかしくなるのだ。法人税等は国等に対する利益の分配なのだから、株主配当金と同様に剰余金処分と考えればよいではないか。
 そうしたうえで、税効果会計などという無用の長物は、ドブに捨ててしまえばよいのだ。日本の会計界も、国際会計機構において、そのくらいの発言をしてもよいではないか。
 何度も言うようだが、だから損益計算書の利益なんて当てにならないのだ。信じられるのは、結局キャッシュフローだけなのである。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (会計初学者)
2023-09-04 17:27:17
はじめまして。簿記2級の詰めの段階で行き詰まっていたところ、税効果会計のロジックとその歴史について、どのブログやYouTubeなどの講座よりも知れました。
10年以上も前の記事ということで驚きです。ありがとうございました。
Unknown (ケント)
2023-11-25 10:48:45
返信が遅くなりましたが、コメントありがとうございました。古い記事ですが、少しでもお役に立ててうれしいです。

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