風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

訪問

2012-02-22 11:43:47 | 思い出
        古い母の手紙に、
    今日は急に用が出来て、銀座まで行ってきました、とある。
 
       夕方、帰宅したら、留守中に、ビンちゃんが来たそうで、
        会えずに残念なことをしました、と書いてある。

         そのころ、妹のビンちゃんは、
     実家の母のところまで新宿から私鉄に乗り換えて一時間もかかる所に住んでいた。
         まだ生まれたばかりの男の子をおんぶして、
          母に会いたくてきたのだろう。
 
        あのころは、携帯電話などもなかったから、
    ちょっと行ってみようか、というときにこのように会いそこなうことは珍しくなかった。

        だから、母も、外出の予定ができると、嫁いだ娘たちに、
         ×日×曜日、歯科行き、〇日 展覧会、とか
           前もってハガキなどで知らせてくれた。
 
      今日は多分いるだろう、天気がいいから、ちょっと実家へ行ってみようか。
         見当で行くのだから、急用で居ないこともある。

         鍵は犬小屋の後ろあたりに隠してあるので、
          上がって、一休みしながら待つ。
             ダメなら諦めて、
   「来ました、ビン、また来ます」などと、そのへんの紙に書いて帰るのである。

      せっかく来てくれたのに残念でした……などと慌ててハガキを書いても、
   それが届くのはまた数日後で、まあ、ほんとに今の人には考えられない長閑なことだった。
 
        今から40年ばかり前のことである。

        若い人にとって40年は、生まれる前の大昔だろうが、 
      ばあさん達には、たった40年、ついこの間のことなのである。

       ああ、懐かしいなあ。 届きそうでもう届かない日々である。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« これでいいのか | トップ | 父からの便り »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

思い出」カテゴリの最新記事