大雨による被害が続く昨今である。
もう七十余年以上むかし、長野県南佐久郡田口村に疎開していた頃のこと。
小学一年生だった私がどうしてそこを走っていたのかは覚えはない。
雨上がりで増水した太い川の縁を独りで走っていた。
うねりながら流れ下っていくその流れが刺激的で、それに合わせて必死で走っていた。
恐れを知らない子どもは、ただ夢中で走っていた。 と、その堤の上に突然母が現れた。
声を出さずに、しぐさで、止まれ、止まれと合図をしていた。
遊びに出た娘を探しに出たら、激流と遊んでいて、肝を冷やして声も出なかったのか、
声を出して驚かせたらいけないと思ったのか、
必死の形相で止まれ止まれと身体ごとで制している母の姿があった。
あのとき一歩踏み外していたら、その後の私はいない。
命というものの偶然を思う雨上がりの今日である。