風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

緑の手紙

2011-11-16 11:07:32 | 読書
     「アンコールワットとトンレサップ湖遊覧」
     優雅な響きに誘われてカンボジアに旅をしたのは
     七、八年前のことになる。

     ベトナム経由でシェムリアップ空港に下りたとたん、
    これは優雅には程遠いところへ来たなと実感した。

     空港を出て市内に向かう幹線道路沿いに、
    いまだ地雷がここにあることを示す赤い旗が散見されていたのである。

     手足をもがれた物乞い、うつろな目をした幼児が、
    こちらの腰のバックに手をのばしてきた。

     「緑の手紙」はそれよりさらにさかのぼる1999年が初版である。
     作者は五十嵐勉、インターネット文芸新人賞、最優秀賞作品である。

      難民として日本に逃れてきたポ・シティと、
     日本語教師をしている主人公との関わりを綴りながら、
     重層的に旧日本軍の飢餓と死の敗退を語り、戦争と平和を考える。

      国家とは民族とはそこにある個人の生きることとは……。
     深く重い問いかけがここにある。

      カンボジアでは、危機に際して、緑色の用紙、封筒を使うのだと
     ポ・シティは病院から手紙を発信しつづける。

      緑の手紙は狂気の世界からの便りではない。
     人間の世界から戦争がなくならないかぎり続く祈りなのだ。
              アジア文化社の出版である。
コメント
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