数年前のことである。
ご近所で火災が発生した。
辺りは一時、騒然となった。
亡母から、関東大震災の時に、
金庫と思ってしっかと握っていたのが薬缶だった、という人の話をよく聞かされた。
風子ばあさんは、金庫と間違えたわけではないが、
とっさに持ち出したのが、ギターである。
風子ばあさんの腕前では、
身にあまるほどの名器でラミレスという。
失ったら二度と入手できない愛器である。
ハードケースに入ったギターは、けっこう重くて、でかい。
本人には大事なものでも、
人さまから見たら、燃え盛るよそ様の火事場で、
それを抱いて呆然と突っ立っていたばあさんは、相当に変なばあさんに見えたに違いない。
それにつけても、我が家がありながら、
避難所くらしの福島の方たち、持ち出せないあれこれを思うと胸が締め付けられる。
原発の是非を問うイタリアの国民投票が行われている。
脱原発へ向かって世界が動き出すことを祈る。