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海堂尊『チーム・バチスタの栄光』(上下巻、宝島社文庫)

2018-02-16 | 書評「か」の国内著者
海堂尊『チーム・バチスタの栄光』(上下巻、宝島社文庫)

東城大学医学部付属病院の“チーム・バチスタ”は心臓移植の代替手術であるバチスタ手術専門の天才外科チーム。ところが原因不明の連続術中死が発生。高階病院長は万年講師で不定愁訴外来の田口医師に内部調査を依頼する。医療過誤死か殺人か。田口の聞き取り調査が始まった。第4回『このミス』大賞受賞、一気にベストセラー入りした話題のメディカル・エンターテインメントが待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)

◎医師でなければ書けない作品

海堂尊(わたる)は医師です。医師であり、小説を書いている人はたくさんいます。あの忙しさのなかで、よく小説を書く時間があるな。これが医療現場を知っている、私の素直な感想です。
 
海堂尊はペンネームであり、本名を明かしていません。いまは病理を専門にしており、ライフワークは「オートプシー・イメージング」(死亡時画像診断)だといいます。小説では医療崩壊が起こる、真の原因にスポットをあてています。

海堂尊『チ-ム・バチスタの栄光』(上下巻、宝島社文庫)は、手術室での連続事故死を描いた、医師でなければ書けない作品です。これほど人間心理を深く描いた作品は、ほかに知りません。

海堂尊はこの作品で、「2006年このミステリーはすごい大賞」を受賞しデビューしました。その後、『ナイチンゲールの沈黙』『ジェネラル・ルージュの凱旋』(ともに宝島社文庫)を発表し、映画でも話題となりました。

海堂作品を読むときは、『チ-ム・バチスタの栄光』から読んでもらいたいと思います。田口、白鳥コンビ誕生の場面にふれてから読むと、一連の作品のおもしろさが倍増します。

キャラが立っている、という言葉があります。海堂尊作品は、登場人物の個性と内面描写に秀でています。読んでいるとすぐに、満場一致で大賞を受賞したことを理解させてくれます。とにかく、ひさしぶりに圧倒されました。すぐに第2作『ナイチンゲールの沈黙』を読みはじめたのは、もちろんのことです。

◎ヒヤリハットを物語に

舞台は桜宮市東城大学医学部付属病院。田口公平は、不愁訴外来を担当する医師です。彼は高階病院長から、内部調査を依頼されます。対象はきわめて難易度の高い心臓移植の代替手術(バチスタ手術)をおこなう、外科医・桐生恭一が率いる手術チームです。桐生は凄腕の外科医としての名声をほしいままにし、失敗事例もありませんでした。
 
それがたてつづけに、3件の死亡例を引きおこしました。その原因を探るべく桐生は、自ら内部監査を申請したのです。調査中は事故が起きませんでしたが、ふたたび事故死が発生します。田口は医療ミスを疑い、リスクマネジメント委員会の開催を求めます。
 
その席に厚生労働省から派遣されたのは、変わり者の白鳥圭輔という男でした。白鳥は田口のパートナーとなって、病死の核心へと迫ります。
 
『チ-ム・バチスタの栄光』は、ざっとこんなストーリーです。私はこの作品の成功は、田口・白鳥コンビの存在だと断言できます。病院という舞台では、とかく一匹狼的な主人公を登場させがちですが、海堂尊は強力なタッグチームを立ち上げました。

 リスクマネジメント用語に「ヒヤリハット」というものがあります。

――ヒヤリハットとは、重大な災害や事故には至らないものの、直結してもおかしくない一歩手前の事例の発見をいう。文字通り「突発的な事象やミスにヒヤリとしたりハッとしたりするもの」である。(Wikpekiaから引用)

ヒヤリハットは、結果として事故に至らなかったものであるため、見過ごされてしまうことが多々あります。すなわち「ああよかった」と、すぐに忘れがちになってしまうものです。

しかし重大な事故が発生した際には、その前に多くのヒヤリハットが潜んでいる可能性があります。ヒヤリハットの事例を集めることで、重大な災害や事故を予防することができます。そこで職場や作業現場などでは、あえて各個人が経験したヒヤリハットの情報を公開し、蓄積または共有することが有効になります。重大な災害や事故の発生を、未然に防止する活動はあらゆる企業でおこなわれています。

病院にとって「ヒヤリハット」の運用は、きわめて重要なものです。死と背中合わせの世界なので、それらは厳重に管理運用されています。海堂尊は、その世界の住人なのです。もっている事例は豊富です。アガサ・クリスティが毒薬の知識を有してミステリー界に登場したと同様、海堂尊はヒヤリハットのネタをもっています。
(山本藤光:2010.04.05初稿、2018.02.16改稿)

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