角野栄子『魔女の宅急便』(全6巻、角川文庫)
お母さんは魔女、お父さんは普通の人、そのあいだに生まれた一人娘のキキ。魔女の世界には、十三歳になるとひとり立ちをする決まりがありました。満月の夜、黒猫のジジを相棒にほうきで空に飛びたったキキは、不安と期待に胸ふくらませ、コリコという海辺の町で「魔女の宅急便」屋さんを開きます。落ち込んだり励まされたりしながら、町にとけこみ、健やかに成長していく少女の様子を描いた不朽の名作、待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)
◎『魔女の宅急便』誕生秘話
日本の児童文学の第一人者である角野栄子は、2018年国際アンデルセン賞を受賞して大いに話題になりました。受賞時の年齢は81歳と高齢の受賞でした。角野栄子の代表作『魔女の宅急便』(全6巻、角川文庫)が発表されたのは、1985年で著者40歳のときです。
昭和28年、当時大学1年生だった角野栄子は、ニューヨーク街の航空写真に心を奪われます。
――空から見る風景は、まるで自分が世界を抱えているような、またそこに物語が隠れているような気がしたんです。それから二十数年後、十二歳になった娘が描いた魔女のイラストとニューヨークの街の写真が頭の中で重なった。(角野栄子『毎日いろいろ』角川書店P16)
――(娘さんの空を飛ぶ魔女のイラストの)ほうきの柄にはラジオがかかっていて上には黒猫がちょこんと乗っていたの。(角野栄子『毎日いろいろ』角川書店P16)
『魔女の宅急便』のお膳立ては、すべて娘さんがしてくれました。こうして愛くるしい魔女キキ13歳が誕生します。ただし娘さんの描いた魔女は「黒いマントを着て、鷲鼻」(角野栄子『ファンタジーが生まれるとき』岩波ジュニア新書P130)だったようです。
本書の成功の要因は、魔女を娘さんの年頃にしたのが第一点。第二点は仕事に「宅急便」を選んだことです。「宅急便」はヤマト運輸の商標ですが、角野栄子はそのことを知らなかったようです。このミスが、黒猫ジジと重なって「宅急便」の付加価値を上げています。
13歳になったら魔女は、ほかの魔女が住んでいない街で、一年間修業しなければなりません。キキが選んだのはコリコという町です。そこでグーチョキパン屋さんのおソノさんのところに身を寄せることになります。
キキの「宅急便」屋さんは物を配達するだけではなく、。物を取ってくる仕事までまかないます。
キキをパン屋の店員などに据えずに、「宅急便」屋さんを選んだことで物語に奥行きを与えました。
普通の人間である父親のオキノ、魔女の母親のコキリと別れ、キキは知らない街で孤軍奮闘します。『魔女の宅急便』はそうしたキキの成長物語なのです。
◎人生賛歌
『魔女の宅急便』が国際アンデルセン賞にえらばれた理由を、選者は次のように語っています。
――どんな困難も乗り越える方法があると、子どもたちにしめしてくれました。本書は人生賛歌です。(パトリシア・アルダナ)
選評のとおり、幼いキキはたくさんの試練を乗り越えます。詳細は書きませんが、ぜひ本文をご堪能ください。宮崎アニメになった『魔女の宅急便』は、まだ観ていません。やっと第1巻を読み終えたばかりです。全部読んでから、アニメを観たいと思っています。
角野栄子は、『魔女の宅急便』への愛を次のように書いています。
――この物語の一番好きなところは、キキの最初の旅立ちのとき。心配する家族や村の人たちに対し「私は贈り物を開けるときのようにワクワクしているわ」というセリフ。これは私の性格そのもの。(角野栄子『毎日いろいろ』角川書店P20)
今回取り上げる『魔女の宅急便』は、第1巻しか読んでいません。代わりに、次の書籍を読みました。そんなことから、『魔女の宅急便』にまつわることを紹介させていただきました。
・『ファンタジーが生まれるとき「魔女の宅急便」とわたし』(岩波ジュニア新書)
・『毎日いろいろ』(角川書店)
・『考える人2014年春号;海外児童文学ふたたび』(新潮社)
アニメを見た方もぜひ活字の『魔女の宅急便』や上記の本を読んでみてください。新たな味わいが生まれると思います。
山本藤光2018.12.08
お母さんは魔女、お父さんは普通の人、そのあいだに生まれた一人娘のキキ。魔女の世界には、十三歳になるとひとり立ちをする決まりがありました。満月の夜、黒猫のジジを相棒にほうきで空に飛びたったキキは、不安と期待に胸ふくらませ、コリコという海辺の町で「魔女の宅急便」屋さんを開きます。落ち込んだり励まされたりしながら、町にとけこみ、健やかに成長していく少女の様子を描いた不朽の名作、待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)
◎『魔女の宅急便』誕生秘話
日本の児童文学の第一人者である角野栄子は、2018年国際アンデルセン賞を受賞して大いに話題になりました。受賞時の年齢は81歳と高齢の受賞でした。角野栄子の代表作『魔女の宅急便』(全6巻、角川文庫)が発表されたのは、1985年で著者40歳のときです。
昭和28年、当時大学1年生だった角野栄子は、ニューヨーク街の航空写真に心を奪われます。
――空から見る風景は、まるで自分が世界を抱えているような、またそこに物語が隠れているような気がしたんです。それから二十数年後、十二歳になった娘が描いた魔女のイラストとニューヨークの街の写真が頭の中で重なった。(角野栄子『毎日いろいろ』角川書店P16)
――(娘さんの空を飛ぶ魔女のイラストの)ほうきの柄にはラジオがかかっていて上には黒猫がちょこんと乗っていたの。(角野栄子『毎日いろいろ』角川書店P16)
『魔女の宅急便』のお膳立ては、すべて娘さんがしてくれました。こうして愛くるしい魔女キキ13歳が誕生します。ただし娘さんの描いた魔女は「黒いマントを着て、鷲鼻」(角野栄子『ファンタジーが生まれるとき』岩波ジュニア新書P130)だったようです。
本書の成功の要因は、魔女を娘さんの年頃にしたのが第一点。第二点は仕事に「宅急便」を選んだことです。「宅急便」はヤマト運輸の商標ですが、角野栄子はそのことを知らなかったようです。このミスが、黒猫ジジと重なって「宅急便」の付加価値を上げています。
13歳になったら魔女は、ほかの魔女が住んでいない街で、一年間修業しなければなりません。キキが選んだのはコリコという町です。そこでグーチョキパン屋さんのおソノさんのところに身を寄せることになります。
キキの「宅急便」屋さんは物を配達するだけではなく、。物を取ってくる仕事までまかないます。
キキをパン屋の店員などに据えずに、「宅急便」屋さんを選んだことで物語に奥行きを与えました。
普通の人間である父親のオキノ、魔女の母親のコキリと別れ、キキは知らない街で孤軍奮闘します。『魔女の宅急便』はそうしたキキの成長物語なのです。
◎人生賛歌
『魔女の宅急便』が国際アンデルセン賞にえらばれた理由を、選者は次のように語っています。
――どんな困難も乗り越える方法があると、子どもたちにしめしてくれました。本書は人生賛歌です。(パトリシア・アルダナ)
選評のとおり、幼いキキはたくさんの試練を乗り越えます。詳細は書きませんが、ぜひ本文をご堪能ください。宮崎アニメになった『魔女の宅急便』は、まだ観ていません。やっと第1巻を読み終えたばかりです。全部読んでから、アニメを観たいと思っています。
角野栄子は、『魔女の宅急便』への愛を次のように書いています。
――この物語の一番好きなところは、キキの最初の旅立ちのとき。心配する家族や村の人たちに対し「私は贈り物を開けるときのようにワクワクしているわ」というセリフ。これは私の性格そのもの。(角野栄子『毎日いろいろ』角川書店P20)
今回取り上げる『魔女の宅急便』は、第1巻しか読んでいません。代わりに、次の書籍を読みました。そんなことから、『魔女の宅急便』にまつわることを紹介させていただきました。
・『ファンタジーが生まれるとき「魔女の宅急便」とわたし』(岩波ジュニア新書)
・『毎日いろいろ』(角川書店)
・『考える人2014年春号;海外児童文学ふたたび』(新潮社)
アニメを見た方もぜひ活字の『魔女の宅急便』や上記の本を読んでみてください。新たな味わいが生まれると思います。
山本藤光2018.12.08
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