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山本藤光の文庫で読む500+α

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モーパッサン『女の一生』(新潮文庫、新庄嘉章訳)

2018-02-18 | 書評「マ行」の海外著者
モーパッサン『女の一生』(新潮文庫、新庄嘉章訳)

修道院で教育を受けた清純な貴族の娘ジャンヌは、幸福と希望に胸を踊らせて結婚生活に入る。しかし彼女の一生は、夫の獣性に踏みにじられ、裏切られ、さらに最愛の息子にまで裏切られる悲惨な苦闘の道のりであった。希望と絶望が交錯し、夢が一つずつ破れてゆく女の一生を描き、暗い孤独感と悲観主義の人生観がにじみ出ているフランス・リアリズム文学の傑作である。(文庫案内より)

◎夢から不幸な現実へ

私は『女の一生』(新潮文庫)を意図的に、フローベール『ボヴァリー夫人』(新潮文庫、「山本藤光の文庫で読む500+α」推薦作)のあとに読みました。フローベールの影響を知りたかったからです。しかし私の感性では、あまりピンときませんでした。いずれにせよ2つの作品は女性を描いた傑作として、ぜひお読みいただきたいと思います。

モーパッサンは、名高い短編の名手です。モーパッサン短編集は、岩波文庫、新潮文庫(全3巻)、ちくま文庫で入手可能です。有名な短編「首かざり」と「宝石」は、いずれも『モーパッサン短編集2』(新潮文庫)に所収されています。

『女の一生』は、モーパッサンの生い立ちを素材にしています。モーパッサンは、ノルマンディーの豊かな家庭で育ちました。幼いころに父親が女中とまちがいをおこし、両親は別居、離婚しています。『女の一生』は、この事件が引き金になって書かれたものです。

主人公のジャンヌは、17歳まで修道院で育てられました。清純無垢。両親の希望どおりに、ジャンヌは美しく初々しい娘となってもどってきます。ジャンヌは愛情あふれる両親と乳姉妹である小間使いのロザリーに見守られ、父祖伝来のル・プープル館で幸せな毎日を送ります。
 
そんなある日ジャンヌは、ジュリアンという若い子爵と出会います。2人はたちまち恋をし、結婚することになります。
 
――契りを結ぶ日として決められた時を待つのに、彼らは躁急(そうきゅう)ないらだたしさは感じなかった。ただ心地よい愛情のなかにおおわれ、包まれていた。なんでもない愛撫や、指を握りあうことや、魂と魂が溶けあうかと思われるほど情熱をこめた目を見あっていることなどに、甘美な魅力を味わいながら。そしてまた一方、漠然と、強烈な抱擁へのとりとめもない欲念に悩まされていた。(本文P63より)


しかし幸せな結婚生活は、長くつづきませんでした。ジャンヌは夢のような世界から、たちまち不幸な現実へと引きずり落とされるのです。
 
夫のジュリアンは、ケチで好色な男でした。ジャンヌは夫と、小間使いのロザリーの不倫を知ってしまいます。ロザリーは夫のこどもを宿していました。やがてロザリーは夫のこどもを出産し、ジャンヌもポールを出産しました。  夫・ジュリアンとの関係が希薄になった分、ジャンヌはポールを溺愛することになります。
 
夫・ジュリアンは、ジャンヌの親友・フールヴィル伯爵夫人とも不貞に走ります。怒ったフールヴィル伯爵は、ジュリアンを殺してしまいます。フールヴィル伯爵が2人の不倫現場を発見し、殺害にいたるまでの過程はすさまじいものです。
 
さらに最愛の母親も、病で死んでしまいます。ジャンヌは母親の枕元にあった手紙を読み、貞淑な母親の若き日の不倫を知ります。ジャンヌの不幸はまだまだつづきます。

◎姦通と遺産相続が主題
 
『女の一生』は、切なく残酷なものがたりです。「モーパッサンの小説の主題は、いつもほとんど姦通(と裏切り)に遺産相続問題が絡んでいるといっていい」(安田武『昭和青春読書私史』岩波文庫)とあるように、ジュリアンはジャンヌの莫大な遺産が目当てで結婚したのです。

ジャンヌの不幸は、それを見抜けなかったことにあります。それは両親の過保護により、ジャンヌに男に対する免疫がなかったためです。とすると不幸の出発点は、ジャンヌの生い立ちにあるといえます。
 
もうひとつの主題である「姦通」についても、モーパッサンは二重のものがたりをつむぎだしています。ジャンヌが親友のフールヴィル伯爵夫人に、夫・ジュリアンを寝取られたこと。そしてもっとも尊敬し信頼していた母親が、親友の夫と不倫をはたらいていたこと。

ものがたりの終わりでは息子・ポールの裏切りで、ジャンヌにさらなる不幸が訪れます。モーパッサンの筆致はスピーディで、わかりやすいものです。翻訳小説を毛嫌いする人には、うってつけの小説といえましょう。
 
 短編の名手といわれるだけに、モーパッサンはいくつものものがたりを巧みに編みあげます。『モーパッサン短編集』(新潮文庫)は、私に改めて短編小説の楽しさを教えてくれました。田山花袋が絶賛している作家・モーパッサンを、いつか田山花袋(推薦作『蒲団』新潮文庫)作品と重ねて書いてみたくなったほどです。
山本藤光2010.08.16初稿、2018.02.18改稿

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