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阪本啓一『ゆるみ力』(日経プレミアシリーズ新書)

2018-03-12 | 書評「さ」の国内著者
阪本啓一『ゆるみ力』(日経プレミアシリーズ新書)

あなた本来の姿(能力)は力を抜いた自然体から。「~のせい」は不幸のもと。嫉妬心は風に飛ばせ。部下の強みは褒めて、褒めて、褒めまくる―。カリスマコンサルタントが、仕事と生活に追われ、ストレスいっぱいの現代人に贈る<ゆるんで頑張る>人生読本。(「BOOK」データベースより)

◎JOY(楽しい)とWOW(感動)

阪本啓一の出発点は、ハリー・ベックウィス『インビジブル・マーケティング』(ダイヤモンド社)の翻訳にあります。本書は2001年に邦訳発売され、大きなセンセーショナルをまきおこしました。訳者自身がぼろぼろになるまで読みこなし、愛情をそそいで仕上げた本です。阪本啓一は本書につぎのようなメッセージをそえています。

――マーケティング・コンサルタントとして、著者ハリーの言葉は、いずれも「自戒」のための金言、箴言です。日々の仕事の中で、折にふれひもとき、「ほんとうにこれでいいのか? 顧客のためになっているのか?」と検証するために活用しています。(アマゾン著者コメントより)

阪本啓一は翻訳のかたわら、みずからの現場体験をつうじてたくさんの著作を発信しています。いずれの著作も豊富な事例を交えて、平易なことばで書かれています。阪本啓一は私の信頼するたいせつな友人です。

ある日ニューヨークから、1通のメールが届きました。山本藤光『暗黙知の共有化が売る力を伸ばす』(初出2001年プレジデント社)について、好意的な感想を寄せてくれました。そのころ阪本啓一という名前は知りませんでした。私は簡単な感謝のメールを返信しました。

後日、阪本啓一から著書『スローなビジネスに帰れ』(インプレス)が届きました。住所は神奈川県葉山になっていました。開けてみて、最初に「著者プロフィール」を見ました。たくさんの翻訳著書がならんでいました。私は単なる一読者に向けて、返信をしたことを悔やみました。阪本啓一の業績も知らず、平凡な「ありがとう」の返信を書いたことを恥じたのです。
 
それ以来、阪本啓一の著書をむさぼり読み、ときにはビールを飲みかわすつきあいをしています。阪本啓一の著作に、『スピリチュアル・マネジメント』という非売品の1冊があります。彼が株式会社JOYWOWの会長に就任した記念に作成したもので、贈っていただきました。

これまで何度も目にし、耳にしていた阪本語録が満載の著作です。バラバラだったピースがみごとに、JOY(楽しい)とWOW(感動)に結集されています。まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄を、目のあたりにしたような感じでした。

ビジネスは、頭ではなく内なる魂でなすもの。魂を清めると、心が安らぎ、よいビジネスが実現する。阪本啓一は熱く説きます。

――意思決定に迷ったら、「それって、楽しい? 楽しくない?」と自問してみましょう。楽しければGO、楽しくなければ、やらない。頭で考えるのではなく、ハートで感じたことを優先する。首から上に上げない。感性を全開にしてハートで感じる。直感を重視する。(『スピリチュアル・マネジメント』P20より)

阪本啓一の口癖は、「ざらつく」と「とんがる」です。前者は「ちょっと変だぞ」、後者は「きわだっている」などの意味でつかっています。彼の鋭い感性は、あらゆる事象をこうした言葉でくくってみせます。そして『ゆるみ力』(日経プレミアシリーズ新書)により、それらに新たな概念をつけくわえてみせました。

◎心身どこにも力が入っていない自然体

「忙しい」の「忙」という漢字を分解して「心(りっしんべん)を亡くす」と説明するケースがあります。阪本啓一も『ゆるみ力』のなかで、この漢字を分解してみせています。『思考の整理学』(ちく文庫)で大ブレイクした外山滋比古も、同じことを語っています。2つをならべてみます。
 
――忙しいとは「心を亡くす」と書く。忙しくなると、マイナスの感情が風船を一杯に満たす。満たすだけではなく、どんどん膨らんでいく。膨張すると、風船が空っぽでゆるんでいるときにはきちんとつけられた優先順位や正常な判断ができなくなる。(阪本啓一『ゆるみ力』日経プレミアシリーズ新書、P106)

――何か突発の事件が起こったとする。その渦中の人は、あまりのことに、あれもこれもいろいろなことが一時に殺到する。頭の中へどんどんいろいろなことが入ってきて、混乱状態におちいる。茫然自失、どうしていいかわからなくなる。これが「忙しい」のである。「忙」の字は、こころ(りっしんべん)を亡くしていると書く。忙しいと頭が働かなくなってしまう。頭を忙しくしてはいけない。がらくたのいっぱいの倉庫は困る。(外山滋比古『思考の整理学』ちくま文庫、初出1983年、P112)

「忙」の字をもちいて、外山滋比古が「頭が働かなくなる」といっているのにたいし、阪本啓一はもっと踏みこんで「マイナス思考になる」と説明しています。どちらに軍配をあげますか? 私は阪本啓一の感性の鋭敏さに舌をまきました。
 
『ゆるみ力』からは、たくさんのヒントをもらいました。「ゆるみ力」には、パンツのゴムがゆるむ、気がゆるむ、とはまったく異なる意味あいがあります。本人の書いたものをそっくり引用させてもらいます。
 
――「ゆるむ」という語感から連想されるような、「なまける」「たるむ」ということではなく、心身どこにも力が入っていない、自然体のことです。実はこの時、人間は潜在能力も含め、フルパワーを出すことができます。合気道でいうところの、「心身統一」の状態。全身の力を完全に抜き、臍下(せいか:下腹部)の一点に心をしずめ、統一する。ビジネスで成功するためにも、実はゆるみ力が必須なのではないかと思います。(「マーケティング・サーフィンUSA」2010.08.13発行より)

私の「知育(チーク)タンス」(本の引用と感想を保存しているファイル)をあけて、阪本啓一語録の一部を書き抜いてみたいと思います。私の感想もはいっていますので、完全抜粋とはちがいます。

――ビジネスとは、「顧客の生活の質を上げること」と著者はいう。しかも「製品が顧客の手に渡るまでの間に、それにいかなる付加価値をつけられるか」を考えることだという。『スローなビジネスに帰れ』インプレス)
 
――製品と顧客の仲立ちをする人は、IT化が進む時代でもその重要性は変わらない。営業マン、店頭販売員などに代表される「顧客との接点職」の重要性については、本書により改めて認識させられた。『スローなビジネスに帰れ』インプレス)

――あなたは自分自身の「五感」を駆使し、いまを生きているだろうか。知恵や感性は、五感を総動員したときに生まれる。(『五感商品の創りかた』インプレス)

――本書では、商品を「なければ困る」「あれば便利」「時にはいいかも」に区分されている。この切り口はわかりやすい。ご飯と味噌汁が「なければ困る」であり、ふりかけや焼き海苔は「あれば便利」となるのだろう。外食は、「時にはいいかも」となってしまう。(『マーケティングに何ができるか とことん語ろう!』日本実業出版社)

――本書は仕事がつまらない、と思っている人には絶大な効果を示す。そして楽しんで仕事をしている友人をもち、いろいろなことに興味を向ける人には響く。仕事が忙しいのはわかるけど、たまには怠惰な日常に水遣りをしよう。仕事がたいへんなのはわかるけど、ときにはすごい人の栄養分を吸収しよう。(『リーダーシップの教科書』日本実業出版社)

――現状を守ることに、汲々としているリーダーは多い。「守る」からは、何も生まれない。「失敗」をしないかわりに、大きな成功もありえない。(『リーダーこれだけ心得帖』日本経済新聞社)

――阪本啓一がいうように「笑い」は、知を刺激する。笑いのない職場からは、付加価値の高い仕事は生まれない。がんばれば「疲れる」が、笑う人は疲れない。野中郁次郎がいう「知的体育会系」のリーダー像を、阪本啓一はさりげなく示してくれた。(『リーダーこれだけ心得帖』日本経済新聞社)

――本書は企画マン向けに書かれたものではない。だれもが、自分自身という人生の企画を担っている。一生涯一枚の企画書だけで、人生を乗り切れるわけがない。時間に身を任せ、漫然と人生を送り続けますか。それとも新しい未来を思い描いてみますか。著者はそう問いかけている。(『企画心』ビジネス社)
 
――企画力とは、人間としての総合力のことだ。阪本啓一が「企画」という言葉に、あえて「心」という袴をはかせたのには意味がある。五感を総動員せよ。つまり上っ面だけでは、良質の企画は生まれない。軸足をどっしりと現在に置き、熱い視線で未来を見やる。そのためには日常を磨き、自分自身を鍛え続けることが大切だ。(『企画心』ビジネス社)

阪本啓一の著作は、ビジネス書というよりも人生訓として読まれるべきものです。彼の「人間力」の大きさは、私が完全保証します。あなたの人生に活力をあたえるためにも、ぜひ阪本啓一を読んでみてください。肩の力をぬいてゆるんだ状態で、そのうえで「これだ」と思ったことは即実践です。
(山本藤光:2009.10.01初稿、2018.03.12改稿)

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