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著書「仕事と日常を磨く人間力マネジメント」の読書ナビ

町おこし062:長い冬眠から覚めて

2018-03-24 | 小説「町おこしの賦」
町おこし062:長い冬眠から覚めて
――第2部:痛いよ、詩織!

 いつの間にか、部室の隅に菅谷幸史郎の姿があった。彼は立ち上がり、長島と並んだ。恭二は固唾を飲んで、もうひとつの「うれしい報告」を待つ。
「新聞部のみなさん、標高新聞最優秀賞受賞おめでとうございます。一度抹殺された新聞は、全国一のお墨つきをもらって、戻ってきてくれました。標高新聞回収反対のビラをまいて、停学処分を受けた日のことを、懐かしく思い出しました。
さっき校長に呼ばれました。次回の町議会で、町の活性化プランを発表することが決まりました。会社の博物館を町民の団らんの場にするプランと、日本三大がっかり名所を活性化するプランの発表を、私たちに求められています。私は生徒会と新聞部とで、町議会に挑みたいと思っています」
 恭二はホワイトボードに貼られた新聞の見出しに目をやる。そこには次のような大きな活字が躍っている。
――閑古鳥の鳴き声が聞こえる、会社の博物館
――日本三大がっかり名所で、さらにがっかり
 
菅谷が話し終えるのを待っていたかのように、大きなどよめきと拍手が響いた。長島が続ける。
「学研から送られてきた選評に、高校生と学校と町政が一体となって、標茶町の活性化を図っていると書いてあった。町としては、そうせざるを得なくなったんだよ。だから生徒会と新聞部は、スクラムを組んで、町議会でりっぱな提案をしてもらいたい」

 また大きな拍手が起こった。恭二は思いがけぬ展開に、圧倒されている。回収された新聞は、とてつもないパワーを蓄えて、おれたちの元へと戻ってきた。恭二はホワイトボードに貼られた新聞に、再び目をやった。標高新聞は、誇らしげに光り輝いている。
「恭二、たいへんなことになったね」
 詩織は涙をぬぐいながら、大きな瞳を恭二に向けた。詩織の瞳のなかには、恭二がいた。ずっとやるべきことを探し続けていた恭二がいた。恭二は、詩織の瞳のなかの自分に向かっていった。
「詩織、おれ、新聞部に入ってよかったよ」
「愛華部長が回収騒動が起こる前に、私たちの新聞をコンクールに送ってくれていたお陰だね」

 騒然となっているなかで、愛華は語りはじめた。
「みんな、本当におめでとう。そしてありがとう。私は受験勉強があるので、本格的には参画できないけど、新聞部員として残らせていただきます。瀬口部長を中心にして、日本一に恥じない新聞作りをよろしくお願いします」
 拍手が起こった。長島が続けた。
「授賞式には、南川と私が参加する。瀬口は菅谷生徒会長と一緒に、町議会でのプレゼンに備えてもらいたい」
 また拍手が起きた。長い冬眠から覚めた新聞部の目の前には、希望に満ちあふれた未来が広がっている。

田園の病室

2018-03-24 | 笑話(昭和)の時代
田園の病室
おさげ髪の少女が風邪をひいて寝ています。病室の窓からは、のどかな田園風景がのぞいています。夏の太陽がレースのカーテンをとおして、病室に日だまりをつくっています。牛がモーと鳴きました。蝶々が舞っています。さて少女の病気は何なのでしょうか?
(最初の行からていねいに読むと答えはわかります。もうちょうなどと答えた人は注意散漫です)

どん底塾05:夢は手の届かないところにある

2018-03-24 | 小説「どん底塾の三人」
どん底塾05:夢は手の届かないところにある
「毎晩この店にきていたのに、おやじさんの話を聞いたのは、はじめてです。それにしても、25年間もトップだったというのは、すごい話ですね」
 尊敬の眼差しを、海老原は亀さんに向けた。
「まあ、そのへんの秘話については、追々話をするさ。ところで、おやじさんって呼び方には、違和感があるな。亀さんと呼んでくれ。その方が、しっくりとくるから」
「亀さんですか。なんだか、のんびりとしたイメージですね」
 大河内が混ぜ返す。加納は、心穏やかではなかった。こんなところで時間をつぶすより、早く転職先を探すべきだとの思いがあった。そんな加納の心中を見透かしたように、亀さんが演説をはじめた。

「人生には、避けられないシナリオがある。おまえたちを産んでくれた両親は、やがてこの世から消える。おまえたちといっしょに暮らしていた兄弟も、独立していなくなる。そして、おまえたち自身もいつかは終わりを迎える。
 これって、空しいことか? だれもが当然のシナリオとして、受けとめていることだろうが。そんなことにこだわりはじめたら、生きていることが苦しみになる。悲しい想像はしないことだ。
 大河内や加納は、結婚して子どもをこさえている。結婚するときに、家族崩壊のシナリオを考えていたか。バラ色の人生を、夢見ていたはずだ。だから、結婚した。
 ネガティブに考えるのか、ポジティブに考えるのか。おまえたちの行動は、それによって左右される。なぜ25年間も、トップを走り続けられたのか。いまの話が、海老原への回答だ」

「ポジティブに考えるっていうことを、もう少し具体的に教えていただきたいのですが」
 加納の質問に、亀さんはすぐに答えた。
「加納に、なにかほしいものがあるとしよう。大きなプラズマテレビでもいい。ところがおまえには、買うだけの手元資金がない。おまえなら、どうする? ローンで買う。あきらめてしまう。金が溜まるまで待つ。どれがポジティブで、どれがネガティブな考えだ?」
「あきらめるのがネガティブで、買おうとするのがポジティブな考えだと思います」
「ローンで買うのは、ポジティブ思考か? 自己破産するかもしれないんだぞ。ポジティブ思考とは夢に向かって着実に、かつ前向きに考えることなんだ」

「海老原の夢は何だ?」
「いまはベッドを買うことです」
「それで、買える可能性はあるのか?」
「はい、わずかながらですが、貯金がありますから」
「厳密にいうとだな、それは夢ではない。夢って努力しなければ、手の届かないところにあるものなんだ」


ビリーの挑戦2-009cut:漆原部長のアメリカ土産

2018-03-24 | ビリーの挑戦第2部・伝説のSSTプロジェクトに挑む
ビリーの挑戦2-009cut:漆原部長のアメリカ土産
――Scene02:営業本部企画部の現状
影野小枝 漆原営業企画部長がアメリカから戻ってきて、最初の企画部のマネジャー会議です。
漆原部長 留守中はご苦労さまでした。まずはカルチャーショックを受けた報告からします。アメリカの研修部長とのやりとりです。
影野小枝 実況させていただきます。
米国部長 業績格差は人災である。私はそう思っています。つまり営業マネジャー次第で、業績は大きく変わります。
漆原 日本でも、営業リーダーのレベルアップを試みたいと考えています。
筆者 マネジャーとリーダーという異なる用語が飛び交っていますが、同じ役職だと読み流してください。
米国部長 彼らのレベルアップには、最大限の投資をしています。人を見る目と人を育てる力。そのためには、彼らの感性を鍛えなければなりません。
漆原 「人を見る目」ですか?
米国部長 そうです。新人MRの採用は、営業マネジャーの最大の仕事です。優秀な人材をスカウトしたり、採用したりするには、優れた観察眼が必要なのです。日本では採用に対する観察眼の教育をどうしているのですか?
漆原 採用は人事本部が行います。営業本部は関与していません。
米国部長 えー! 採用を他部門に任せているの?
漆原(恥ずかしそうに)新人MRが半年間の研修を終えて、営業部に配属になります。そのとき現場から「今年はハズレだ」などと、人事本部批判が起きたりします。
米国部長 信じられない。(外国人がよくやるポーズで、最大限のアンビリーバブルを表現している)採用は人事本部任せで、新人MRの知識教育は研修部に任せるのかい。それじゃあ、日本の営業マネジャーは何をしているんだい?
影野小枝 漆原さんは大きなカルチャーショックを受けて立ち上がれません。見苦しい場面はこのくらいにしておきます。

知だらけ053:ひらがなで書く

2018-03-24 | 知だらけの学習塾
知だらけ053:ひらがなで書く

長い間「感性を磨く文章教室」を運営していました。いくら繕っても、文章にはその人の個性が表れます。特に気になるのは、不要の漢字の多用でした。受講生の例文で指摘しましたが、ちょっとだけ問題を出してみます。次の文章を漢字を交えて清書してください。

※例文
けんこうのために、まいにちさんぽやたいそうなどをしている。でんしゃにのったときも、きょくりょくすわらない。このしゅうかんはよほどのことがないかぎり、しぬまでつづけるつもりである。

解答は後ろにありますので、まずは挑戦してみてください。

塾長の手元に、『朝日新聞の用語の手引き』(朝日新聞社)と『共同通信社・記者ハンドブック』の2冊があります。送り仮名や漢字ではなく、ひらがな表記すべき単語の確認に活用しています。為、等、時、余程、迄などの漢字を使った人は、ひらがな表記を意識していただきたい。新聞を注意深く読んでいると、間違いに気がつくと思います。

ひんぱんに辞書を引いて、確認する漢字があります。みなさんも挑戦してみてください。次のカタカナ部分を漢字変換してみてください。

※問題
A.カわり映えのしない
B.打ってカわって
C.ものをお金にカえる

(下に答えがありますので、ここで活字から目を上げて挑戦してください)

 正解は次のとおりとなります。
A.代わり映えのしない(「代」:ある役割を別のものにさせる)
B.打って変わって(「変」:前と異なる状態になる、普通と異なる)
C.物をお金に換える(「換」:AとBを交換)
(『共同通信社・記者ハンドブック』より)

文章にはむやみに、漢字は用いないこと。これも文章道の基本です。新聞では「無闇」とか「用いない事」とは、書いていません。
山本藤光2017.12.20

妙に知180324:子どもたちよ

2018-03-24 | 妙に知(明日)の日記
妙に知180324:子どもたちよ
生物学者の福岡伸一が朝日新聞にこんな文章を書いていました。石井桃子の文章の引用です。石井桃子はすべて読んでいるつもりでしたが、この文章は記憶にありません。いいなと思いました。

――子どもたちよ、子ども時代を、しっかりとたのしんでください。おとなになってから、老人になってから、あなたをささえてくれるのは、子ども時代の〈あなた〉です。

暖かいメッセージですね。
山本藤光2018.03.24

町おこし061:戻ってきた標高新聞

2018-03-24 | 小説「町おこしの賦」
町おこし061:戻ってきた標高新聞
――第2部:痛いよ、詩織!

 新聞部顧問の長島太郎から連絡を受けて、瀬口恭二は放課後の部室に向かった。新聞部は無期限活動停止になっていたので、やっと処分が取り消されたのかな、などと想像しながら部室の引き戸を開けた。
部室には退部したはずの南川愛華、田村睦美、野口猛のほか、たくさんの元部員がいた。
 恭二は詩織の隣に座り、小声で質問した。
「どうなっているんだ?」
「わからない。愛華部長たちも、長島先生に突然呼び出されたんだって」
 長島が姿を見せた。部員がそろっているのを確認して、長島はホワイトボードに何かを貼っている。そして振り返り、「回収された標高新聞が戻ってきました」と告げた。声が上ずっていた。ホワイトボードには、標高新聞が貼られていた。長島は愛華に視線を向けて、にっこりと微笑んだ。その目には、涙が光っている。

「標高新聞は、全国高校新聞コンクールで、最優秀賞を受賞しました。さっき校長から、報告がありました。南川が学研の高校新聞コンクールに、応募していたようです。南川、そして新聞部のみんな、おめでとう。やりました! 我々の新聞が日本一になったのです。あの回収騒ぎがあった新聞は、高い評価を受けて戻ってきたのです。これは画期的なことです。先生は誇らしく思います」
 みんな呼吸を忘れたかのように、固まっている。愛華が立ち上がり、貼られている新聞に歩み寄った。肩が震えている。振り返った愛華の目からは、大きな涙が流れた。
「やったんだ! 私たちの新聞が全国一になったんだ!」
 恭二も詩織も立ち上がり、愛華を囲んだ。やっと事態が飲みこめた。ずっと沈黙していた部室に、歓喜の声がわいた。
 長島は、愛華の肩を抱いている。愛華の胸には、詩織が顔を埋めてしゃくりあげている。あっちこっちで手を取り合い、雄叫(おたけ)びが巻き起こっている

長島顧問は席に戻るように告げて、おもむろに口を開いた。
「改めてみんな、おめでとう。本日、新聞部の活動自粛処分は、解除されました。だからみんな新聞部に戻って、よい新聞を作ってください。それから越川町長からも、お祝いの電話をもらいました。もうひとつ、うれしい報告があります。生徒会長の菅谷くんにきてもらっているので、菅谷くんから報告してもらいます」

上司が変わると部下も変わる:めんどうかい009

2018-03-24 | 営業リーダーのための「めんどうかい」
上司が変わると部下も変わる:めんどうかい009
――第1章:営業リーダーの使命
私は上司が替わったとたんに、ひょうへんしたチームを何度も見ています。また自己変革した上司の下で、チームが再生された事例も実体験しています。
 あなたがチームの不振を嘆いている上司だとしたら、それは自身が変革しようとしないためです。

あるチームの変革実例を紹介します。Aチームには7人の営業担当者がいます。過去3年間のチーム年度目標達成率は、43%、33%、43%でした。その後営業リーダーが交代したとたんに、達成率は80%まで跳ね上がりました。営業担当者には、まったく異動はありません。新人が2名加入している状態でした。

 チーム再建の鍵は、チームメンバーに向けた次のひとことでした。
「今度、チームには2人の新人が加わる。ぜひ、全員で指導してもらいたい。ここに用意したのは、彼らの育成日誌だ。指導を終えたら、簡単なメモを添えて、次の担当者に引き継いでもらいたい」
 新人営業担当者の指導に関して、チーム全員を巻きこんで実施したことが、メンバーの自覚に火をつけたのです。

 すでに「CP」(コラボプランが運営する1ヶ月1日×6回の研修)導入済み企業の受講者の声を紹介しましょう。
・あらかじめ面談をしてゴールを設定しているので、部下からの相談ごとが多くなった。
・営業担当者からの同行依頼が急に増えた。
・部下は「朝書き日報」の導入を、受け入れてくれた。確実に成果に結びつくようになった。「朝書き日報」については、のちほど詳しく説明します。
・A4ペーパーのベストプラクティス(成功例集)は、営業担当者の評価が高い。活用されている。多くの企業はデータベースで運営しています。「A4ペーパー」という点を、記憶しておいてください。メリットは、のちほど詳述します。
・部下から「仕事が楽しくなった」といってもらった。

 上司が変革することで、間違いなく部下は変わります。上司と部下の間には、「波動(はどう)」という眼に見えないベクトルが存在しています。上司が良質の波動を送ると、部下はポジティブにそれを受け止めます。だから、上記のような部下の反応になるわけです。