信用金庫時代から、どちらかといえば私は現場が好きであった。
本部に勤務するようになっても、現場の感覚を忘れてはならじと、
若い渉外マンの皆さんに付いて、お客様の所へ出かけて行っては、生の情報に触れていたものだ。
この貴重な時間は、戦略を構築する立場になっても、極めて有効であった。
机上の空論という言葉があるが、現場で今起きていることを知らずして戦略構築などできるわけが無い。最前線では常に刺激的なシーンが展開されている。
電話でやかましく言って山のようなデータを送りつけて、現場をコントロールしている気になるなど、もってのほか。
最前線への帯同訪問では、一緒に汗をかくことにより、共通の認識が生まれ、価値観も芽生えてくるものだ。
そして若い皆さんとの一体感が醸成されてくる。それは士気にも通じていく。
さらには、お客様の有難さも身に沁みる。
自分も若かった頃に重い渉外カバンを抱えて、汗を拭きふき訪問していたではないか。あの頃を駆け出しの時代を忘れてはいけないと、戒めていたものだ。
夏の一番暑い頃合いを見計らって、お客様を訪問するように義務付けていた。
それは専務という立場になってもけして変えなかった。
今、法人会という仕事に替わって、その経験が著しく役に立っている。
法人会を支えてくれている「経営者向けの大型保障」という商品をメインに頑張っている生命保険会社の社員さんを連れて福利厚生事業の拡販に出回ることがあるからだ。
ほぼ毎月そういう厳しい保険セールスの最前線に一緒に立つ。勿論業法違反になるので、保険は売らないのだが、会話がうまくいくように絶妙のタイミングで合いの手を入れる、云わば潤滑油役が私の役割。
生命保険のセールスほど厳しく難しい仕事はない。
門前払いなど当たり前、断られるのは判っていても奮い立たせて訪問しなくてはならない難しい営業の世界なのだ。
帯同訪問の成果も、まあ、すべてがうまく行くとは限らないが、
それでも長く社会にお世話になっている人脈が後押しをしてくれて、結構私の紹介で契約を頂くことが多い。
今日もその帯同訪問で夕刻ある建設会社へ
苦労人の社長は、朝一番に会社に出勤すると、自分が率先して現場に出向き、社員の誰にも負けないスピードで土木作業をするお方。
この人も現場第一主義なのだ。
それで独立して20年でA級指名業者にまでのし上がってきた筋金入り。
開業される時からの私のお客様で、これまでも色んな相談事に乗ってきた親しい間柄であるので、話はスムーズなのだが・・・・、
これまで2回一緒に訪問したにも関わらず、担当のセールスレディは最後の砦を陥落できずにいた。
社長も忙しいお方なので、中々お会いできないと泣き言を云う始末。
そこで私は、
「アポイントを取る為に自分で努力をしなさい。夜討ち朝駆けという言葉もあるバイ・・・・。」
と、一端突き放していたのだが、帯同訪問ですっかり私の人脈頼みとなっていたことに気付いたからであった。
この世に楽してできる仕事など一切無いからだ。
すると、彼女は朝が早い社長に話を聞いて貰おうと、早朝6時に会社に行ったのだという。
この熱意に現場主義の社長も心を動かして、今日の夕方仕事が終ってから会おうということに行きついたのだった。
ひとしきり社長のこれまでの苦労話と昔話に花が咲き、心がほぐれた。
はたして難しい話は3回目にしてうまく運んだのであった。
私もとても勉強になったと同時に、自分で努力をすることの大切さをしみじみ噛み締めたのであった。
経済は生きている即ち活学。
営業は実学である。
知識と行いは同源でなくてはならぬ。
まさに、「答えは現場にあり」である。
雨の愚図ついた天気であったが、セールスレディさんとハイタッチ。
彼女の仕事もレベルアップして、私は現場の大切さを再確認。
心は晴れ晴れであった。