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石川英輔の「総天然色への一世紀」

2018-05-16 14:20:01 | 読書
石川英輔の「総天然色への一世紀」を読む。こんな本が出ているとは全く知らなかった。カラー写真とカラー映画の発達史が詳しく解説されている。1997年に青土社から出た本で、530ページを超える力作だ。筆者は写真家でもあるようで、技術的な解説が詳しい。神田の古本市というのがあり、これはかなり大規模だが、早稲田にも古本街があって、昔から穴八幡神社の境内で古本市が開催されていたのだが、最近はなくなったのかと思っていたら、春に早稲田大学の構内で開催されていると知り覗いてみて偶然に見つけた本だ。

本が出版されたのは、1997年だが、21世紀に入るとデジタル写真の時代となり、長く続いてきたフィルムの写真はなくなり、映画もデジタル上映になってしまったので、現在ではフィルムでのカラー化の歴史などはなかなか注意が向きにくい。だから、今買って読んでおかないと、永遠にわからなくなるだろうと思い。買って読んでみた。

最初に、光の三原色の話が出てくる。人間の眼は赤、青、緑の三種類で見ているので、その三原色を使えば、全部のカラーを再現できるという話だ。これはテレビやパソコンのディスプレイのように光を合わせて色を合成するする場合にはRGBと呼ばれる信号で制御している。現在はデジタル端子が多いので気が付きにくいが、昔のアナログ信号の時には、RGBのピン端子が付いていた。

それに対して、印刷するときは色の三原色と呼ばれるシアン、マゼンダ、イエローがある。この三色を混ぜれば、すべての色が表現できる。これは印刷でも使われるが、家庭用のインクジェットプリンターのインクの種類は、基本はこの3色と墨(黒)となっている。

ここからが面白いのだが、カラー写真やカラー映画は、基本的にはRGBに三色分解して記録して、それをもう一度合わせればよいのだが、その時に、光の三原色で合わせるのか、色の三原色で合わせるのかによって色の種類が異なってくる。場合によっては、RGBをシアン、マゼンダ、イエローに変換する必要が出てくるのだ。

原理は簡単だが、実現するのは結構難しいので、昔はいろいろなアイディアが出されたようで、その主なアイディアを結構細かく解説してあるのが面白い。

この本を読むと、同じフィルムを使ってカラーを再現することを目指したのにもかかわらず、写真と映画では全く違った技術が誕生したという所が面白い。映画はアメリカのテクニカラー社が1950年頃までは独占的に技術を有していたが、これはRGBに分解撮影したものから、色の三原色に変換して、印刷方式でフィルム上に染色していくという方式だ。

それが、三色分解せずに1本のフィルム内で多層化して三色を記録できる方式が確立されてテクニカラー方式がなくなってしまう様子も説明されている。僕なども映画をたくさん見てくると、大昔のテクニカラーは色鮮やかに残っているのに、それよりも後に作られた1960年代の映画などは退色がひどいという例を多く見ているのだが、これはフィルムの記録方式に起因している。この本では、記録原理については詳しく書いてあるが、保存性や安定性、プリントの退色の問題にはほとんど触れられていないのが残念だ。

いずれにせよ、なかなか、面白い本だった。


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