劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

二期会の「デイダーミア」

2024-05-26 11:16:35 | オペラ
5月25日(土)の夜にパーシモン・ホールで二期会によるヘンデルのオペラ「デイダーミア」を見る。ダブル・キャストによる2回公演のうちの1回目。指揮は鈴木秀美で、テオルボ入りのバロック・オーケストラ。演出と振付はコンテンポラリー・ダンスの中村蓉。5時に始まり、25分の休憩を挟み、終演は7時25分頃。観客層は比較的若く、ほぼ満席だった。

パーシモンホールは、都立大学駅の柿の木坂に作られたので「パーシモン」というのだろうが、都心から外れるのでこれまで行ったことがなかったが、初めて訪れた。駅から10分ほど歩くが、とても良いホール。1200席だが、1階席の前部から傾斜がしっかりついていて、どの席からも見やすい。その代わり2階席はかなり高い位置から見ることになるので、2階の後方はまるで3階席のような印象。オケピットもきちんとしていて、舞台面から天井までの高さも十分だと感じた。

舞台上の反響版を設置すると残響は2.0秒となっていたが、オペラのように残響版なしだと1.4秒だということで、とても聞きやすいホールだった。ホワイエはそれほど広くはないが、全面ガラス張りで、劇場の外にある公園の緑が美しく見える。上野の芸大の奏楽堂の借景よりもこちらの方が良い雰囲気だ。ニューヨークのリンカーンセンターのヴィヴィアン・ボーモント・ホールのロビーを思い出した。

さて、演目はヘンデルのオペラで、退屈するかなと思いながら劇場に足を運んだが、中村蓉の演出がとてもよく、スピーディで面白かった。バロック・オペラは何となく動きが少なく、退屈なイメージを持っていたのだが、演出によって、現代にも十分通用することが示されたと思う。コンテのダンサーが6人入り、歌の間もその内容を踊りで示すような演出で、決して奇をてらうことなく作品に生命を吹き込んでいる。すっかり中村蓉のファンになった。

鈴木秀美の指揮なので音楽的にもしっかりと作り上げられていた。バロック・オペラはアジリタや装飾が多く、なかなか難しいと思うのだが、女性を中心とした歌手陣は見事に歌っていた。特にデイダーミア役の七澤結は声も美しく、しっかりした歌唱で感心した。

物語は、トロイのヘレンを取り戻すために、ユリシーズが若武者アレッキを捜しに行く話で、アレッキは父の命により、友人の王によって匿われており、女装して女たちと一緒に生活している。デイダーミアは彼の美しい恋人。このアレッキ役を女性が演じるので、なかなか見ているほうも混乱しそうだが、衣装などをうまく工夫してわかりやすくしていた。2幕最後近くの結婚式の場面で、ユリシーズとデイダーミアが二重唱を歌うが、これがこの世のものとは思えないほどの美しい響きで感動した。イタリア語なので、アレキッキという役名だが、この役はアキレス腱の語源となった、アキレスの話。

期待以上の出来ですっかり気分を良くして帰宅。土曜日の夜とあって、どの食堂も満席だったので、家で食事。カプレーゼ、ソーセージ、イワシのオーヴン焼きなど。飲み物はカヴァとボルドーの白。