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『ラスト・ターゲット』 ~職人(オトナ)の映画

2011-07-21 11:00:00 | 映画&ドラマ

映画は自然光だけで撮影された。フィルム写真家の監督はデジタルを一切使わない。
映画の中で主人公に携帯電話を捨てさせるなど、アナログへの思い入れが強い。


 ローマのテルミニ駅に降り立ったアメリカ人は、用意されたフィアットでアルブッツオ州の山岳地帯に向かった・・・中世の城塞都市カステル・デル・モンテをはじめ、渋めのイタリアロケ地の描写が実に魅力的な映画『ラスト・ターゲット』の原題は『The American』。そのままカタカナ表記するのは無理だとしても、邦題はちょっとひどいと思う。
 主人公の孤独な暗殺者は、イタリアの行く先々で「アメリカ人?」と尋ねられ、カフェではエスプレッソではなくアメリカンコーヒーを注文する。そんなことから『巴里のアメリカ人』(51)じゃないけれど「伊太利の片田舎のアメリカ人」といった趣きがある。主人公の気持ちが常に張り詰めているのでバカンスの風情は皆無だが・・・。
 原作小説の題名は『暗闇の蝶』。主人公のアメリカ人はイタリアの片田舎で蝶の絵を描く初老の画家で、Mr.バタフライと呼ばれている。映画は最初の設定を大きく変えているけれど、主人公は背中に蝶の彫り物をしていて、背中の蝶と生きた蝶をモチーフとして描いている。原作の主人公には女子学生!の恋人がいるが、映画でも三人の女性が主人公に好意をよせている(関係は持たなかったが、同業者のマチルダも・・・)。
 主人公が自身の生き様を花から花へと蜜を求めてはかなく死んでいく蝶の生態と重ねていることから(しかも、背中の蝶は飛ぶことができない)、「蝶を愛した殺し屋」の題名でも良かったかも? 自分だったら、『ラスト・ターゲット』より見たいと思うが、昔の配給会社はもっとセンスが良かったと思う。


いつもの茶目っ気なし。ストイックな主人公は警戒と鍛錬を怠らない。


こだわりは拳銃にも・・・シルエットが美しく細身で小ぶりなワルサーPPK/Sを常に携帯し、
現在主流となっているグロックなど大容量マガジンを持つ自動拳銃には見向きもしない。 


 「殺し」を生業とする人に「職人」という言葉を使っていいものか悩むところですが、映画の世界だからいいとしましょう。その道のプロを演じたら、ジョージ・クルーニーに勝る人はそういないかもしれません。
 ジョージ・クルーニーは、若い俳優さんでは太刀打ちできない100%大人の魅力に満ちているのですが、その反面というか、いやだからというべきか(近作の『ファンタスティック・Mr.FOX』でも際立っていた)「茶目っ気」が一番のポイントで、いたずらっ子のように目をキラキラ輝かせながら仕事を楽しむ姿を見ていると、「ニンゲン、かくありたいものだ」といつも思います。
 昔の映画俳優でいえば、ケイリー・グラントですね。ちょいワル、ダンディ、お茶目。口も手も良く回るプレイボーイ。恋人の女性はハラハラするかもしれないけれど、同性も憧れる大人の男かな~♪
 ところがですよ、『ラスト・ターゲット』のクルーニーは「お茶目」な部分を完全に封印して、孤独で寡黙な殺し屋を演じています。ベッドシーンから始まる冒頭の5分間で、襲撃者を返り討ちにした直後、躊躇なく連れの恋人も射殺! 我々日本人の観客は「まるで『ゴルゴ13』のデューク東郷だ」と思ったことでしょう。
 そのまま自己完結すれば、映画は殺し屋映画の金字塔でもあるアラン・ドロンが凄すぎた『サムライ』(67)の域にまで達していたかもしれませんが、潜伏先のイタリアで(スウェーデンで懲りなかったのか)美しい娼婦と恋に落ちてしまい、これを機に足を洗おうと考えたものだから、素人でも「そうは問屋がおろさないだろう・・・」という展開になっていきます。
 個人的には、「運命の女性」を演じたヴィオランテ・ブラシドが若すぎる感があって、それなりの年齢を感じさせる中年女性が相手役だったら、小川のほとりでのピクニックやレストランで食事をするシーンもより情感が高まり、カステル・デル・モンテの聖体行列を見物するクライマックス場面でも、イングリット・バーグマンが素晴らしすぎる『イタリア旅行』(53)の最後に描かれていた聖体行列のシーンと同じ緊張感と感情の高ぶりが得られたのではないか・・・と思ってしまったのですが、映画の後でヴィオランテさんが39歳の成熟した女性であることを知り、正直驚きました。
 体の線が全く崩れておらず、肌も若々しい彼女だけれど、よくよく考えると、あの堂々とした脱ぎっぷりはそれなりの年齢を重ねていないとできないのかもしれません。冒頭の女性(イリーナ・ビョークランド)も、殺し屋のマチルダ(テクラ・ルーテン)も同じタイプのいい女で、(さすがジョージ・クルーニー?)見る目が非常に高い!
 この映画は【PG12】なのですが、かつてニワトリさんが『未来惑星ザルドス』を見てトラウマに陥ったように、
13歳の少年がヴィオレンテさんの美しすぎる肢体でトラウマに陥らないだろうか心配(期待)します。
 本筋とは関係ない話になってしまいましたが、ついでに『サムライ』(ジャン=ピエール・メルヴィル監督)と『イタリア旅行』(ロベルト・ロッセリーニ監督)は大人の映画の超傑作!なので、未見の方は是非ご覧ください。


ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」から抜け出してきたヴィオランテさん


同業のマチルダさんとのアバンチュールも見たかった?
はかない最期を遂げるイリーナさんの尻も見事でした・・・



 映画はやっぱり「女と銃!」だったりして・・・女性に対するこだわりもかなりフェチだったが、銃器に対するこだわりもあまりにもマニアックでした。
 ジョージ・クルーニーが構えている Mini14改の銃口に取り付けられたパイプは消音器(サイレンサー)ではなくて減音器(サプレッサー)なのですが、普通の人にとっては、どちらだろうと大差がないでしょう(興味がない)。
 なのに、拳銃弾とその三倍近い初速で発射されるライフル弾の違いから生じる消音器と減音器の違いを主人公の口から説明させるとは・・・その道のプロ同士の会話になると、望遠照準器の微妙なクリック調整や使用するカートリッジの種類について、普通の人の知り得ない専門知識が「銃口初速」「5.56mm×45mm弾」(最初のミリは口径。次のミリは薬莢の長さを示す)といった専門用語と共に飛び交うため、二人が何を話しているのかさっぱりわからなかった人も多かったのでは? そもそも、観客の何人がスタームルガー社のMiini14自動小銃のことを知っているのだろう? でもマニアは、ふむふむと頷き大満足した筈!
 さらには、暗殺映画の金字塔的作品の『ジャッカルの日』(73)と同じように、弾頭部分を削り取りドリルで開けた穴に水銀を流し込んで殺傷力を格段に高めたダムダム弾を依頼者(というより銃器好き)のために作ってあげたり、完成したライフル銃を依頼者の女殺し屋と一緒に試射に出かける(このシーンも『ジャッカルの日』風)等の細部にわたる描写に、マニアは泣いて喜んだことでしょう。
 派手なアクションはなくても、レストランでの金の受け渡しなど並々ならぬ緊張感が漂っていて、そのあたりも非常にリアルでした。


同じアルブッツォ州でも、『私とキツネの12ヶ月』とはかなり違う風景がまた素敵でした。

 『ラスト・ターゲット』公式HPは、 → ここをクリック


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2 コメント

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Unknown (inuneko)
2011-07-22 00:57:43
試射に出かけたとき、クルーニーは彼女が初見で銃の組み立てにどれだけかかるか時間を測っていましたね。信じてないんだな~と思いながら見てました。
静かに緊張できて、心地よい時間を過ごせました。
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夜分、こんばんは~ (Toshi)
2011-07-22 01:21:38
仕事が一段落して、自分が出かける前に書いた文章を読み返したら、あまりにもひどい部分が目に付いたので(いつものことですが)添削している最中にコメントを頂き、ありがとうございます。

そうなんです。クルーニーは時間を測っていました。本物のマチルダさんだったら、目隠しされていても平然と組み立てていたでしょう。かなり練習したとは思うのですが、手振りから銃に精通していないことがわかってしまいましたね・・・。
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